第1章6話 あたしのお腹に立派な魔杖が生えちゃって!
「前線の状況は以上の通りです。ルビィとガイラがザコの相手を出来なくなったので、敵のGAがこっちにやってきます」
「いや、来ないさ」
「来ませんか?」
「前に出たら巻き込まれるだろ、ドラゴンブレスに。聞けば大型戦艦の攻城砲並みの威力だ。その射線上にノコノコうろつくバカはいないさね」
前面モニターに映る地竜を見やり、他人事のように笑う艦長。
「たいして利いちゃいないのに、ウロコを逆立ててやる気満々じゃないか奴さん。よし電磁障壁を球面展開。さてどれほど効果があるか」
「確度の低い情報ですが、戦艦のバリヤーでも防げず飛竜のブレスで撃沈された報告がありますね。それでも城の盾になります?」
「ヤツが怒りにまかせてアキラメルを撃つなら、城から離れて囮になった方がいいだろうね。ブレス一回分、チャンスを稼げるさ」
「城を撃たれるなら、本艦は居ても居なくても変わりませんか。なら上空で備えましょう。そしてベスタ二機も前進させます。これでマスターと腹黒姫次第になりましたね」
地竜を正面に見据えるモニターに、別窓で眼下のブルスを映し出す。
XCPの電子アイには見えないが、二丁のバズーカを背中のラックに掛け直した旧式装甲機兵の全身に、マナの輝きが灯り始めていた。
「ひゃっひゃっひゃっ! さぁシオ。お主の力を振るわせて貰うぞ。その身より出でて儂に力を貸せ、破格の魔杖ぅ!」
「あ、やだっ! お腹を撫でちゃっ、ンンンぅっ! ナカが熱いぃっ! ズクンッ! ズクンッって脈打って……んぁあっ! あーっ!」
妖精の姫が置いた小さな手の導きに応じ、強烈な魔力をまとう破格の魔杖が、シオンの体内から姿を現し、屹立していく。
「あっ、ダメっ! ギルっ、強く握っちゃ……はぅんんっ! ひっひっ、引っ張り出されるぅ~っ!」
「くふふふ、悩ましい声を上げるのぉ。良いぞ、もっともっと儂の手のナカで高ぶるのじゃ。お主のエゴを儂に全て委ね、絶大なるマナを差し出すが良い!」
自らもシオンから溢れるマナとエゴにどっぷりと酔いしれながら、その魔力を惜しみなく機体に流し込んでいく。
「んぁあああっ! 出ちゃうっ! 出ちゃうよぉっ! ギルにっ、ギルの手にぃっ、いっぱいでるぅっ!」
汗を散らし反り返るシオンの体から、雄々しく顕現する荘厳美麗な魔法の杖。
螺鈿の如く虹色に輝く複雑な紋様が明滅する太い柄を、ギルの細く繊細な手指が握りしめる。
「おお、おお、儂の感覚が機兵と重なり、満たされていく。なるほど、これゆえか!」
はぁはぁと息を荒げ、操縦席に顔を伏せて嗚咽を噛み殺すシオンの細い腰を横から抱きしめ、ギルは自身にも湧き上がる愉悦に憚る事なく酔いしれた。
「なんという高揚感! 比類無き全能感! 魔杖の魔力が、儂のエゴが、GAを満たし拡大しておるわ! くひゅふふふっ、人の超越ぞ! まさしく神に! 神のごとき力が我が手にぃ!」
装甲機兵と呼ばれた人型の器が、マナに酔うギルの膨大なエゴで満たされ、隅々まで一体化していく。
見下ろせばそこにあるのは、まさしく巨人の腕。
「くははははっ! たまらぬのぉ! 絶好調じゃ! さぁシオ。教えたとおり、魔法陣を描けいっ!」
「ひぎぃっ! らめぇっ! こんな、こんなのぉっ、んんん~っ!」
己の心魂より突き出し屹立する杖を握られて、シオンは言われるまま、操縦桿を握り直す。
ーージャカカカッ!
五指に対応した手動操作用の小さな鍵盤が握り手に浮き上がり、さらに二本の副操縦桿、足元にも縦横スライドと踏み込みに対応したフットペダルが左右合わせて四枚浮いて起動する。
装甲機兵の完全手動操縦モードだ。
「ユー、ハブ、フルコントロール。この子をお任せします。マスター、ご活躍を」
頭上のドラムズからXCPが操縦権の完全移行を告げると、シオンは快感に砕けそうな腰をパンと叩き、座席に座り直した。
「はぁっ、はぁっ、や、やるよ、ギルっ! 呪文を唱えて!」
完全手動はルビィなどのエースパイロットでも普段はしない、超難易度操作だ。
動作プログラムに未登録の挙動をGAに実行させる為、例えばAIが対応できない変則的な回避行動や、受けの取れない一撃を見舞う、工具や地形を臨機応変に活用できるなど、メリットは大きい。
しかし当然、その動作を問題なく行うには、複雑なGAの内部機構と重心を常に把握しつつ、全身の挙動を連続して操作し続けなければならない。
心身の消耗は激しく、失敗すれば機体が転倒あるいは自壊、致命的な隙を敵にさらす。
AIの補助、プログラムによる自動化を一切受けずに、完全手動を行える操縦士は極々少数、もちろんシオンには無理だ。
しかしこの瞬間だけはシオンがブルスを、自分の手で動かす必要があった。
「マナよ! 我が前に集いて堅守の呪紋を成せ!」
シオンにしがみついたまま、ギルが朗々と唱える魔法の呪文。
城に施された障壁の魔法と同じ物だが、ブルスの眼前に展開されたマナの煌めきは、まるで虹色に輝く螺鈿細工のように実体感を持つほどの凝縮度。
「そは無敵の盾、何者も防ぎたる輝き! いかなる刃も貫くこと能わず!」
本来ならば魔法使いは、杖や指輪などの法具を振るい、手足を用いてマナを操作し魔法陣を描く。
だがトランス状態になったギルの意識はブルスと一体化し、シオンの破格の魔杖から溢れる膨大な魔力を制御していた。
「大丈夫。三日も特訓して覚えた操作だもの。最初は右手で大円っ! 左手で小円っ! 右足で弧を描いて!」
ギルが動かせぬ機体を、代わりに動かすのがシオンの役目。
魔力を知覚できず、自我で魔力に干渉できないXCPや機体制御補助AIでは、ブルスの四肢のマナを用いて魔法陣を描画できない。
シオンが意志を込めて操縦する事で、シオンのエゴが機体に宿り、巨人の腕と足で魔術を構築する。
「何も出来なかった、あの時の私じゃない! 破格の魔杖もあるし、仲間も居る! だから出来る!」
忌まわしい過去を振り払うように、自分を鼓舞するシオンに応え、奮い立つ魔杖。
シオンが描く魔法陣は魔術回路であり、ギルが唱える呪文はプログラムだ。
装甲機兵が一つの魔法陣を描ききると、ギルの詠唱が魔術回路を駆動させ、上下に層を形成する。
「くふふふ、やはり変な感覚じゃな。己の手足を他人に動かされるのは。だが五重の防御魔法に増幅三倍、耐性付与と合わせて九層の、巨人サイズの積層魔法陣じゃ。胸が躍るわ!」
「くっ、くぬっ、こんにゃろっ、わわわっ、指が軋む腕が固まる足が滑るぅっ、なんか……機体が重いぃっ!」
完全手動操縦戦闘は無理だが、覚えた動作を繰り返すだけならと、頑張って特訓した時よりも。
実体化するほどの濃密なマナの奔流を、四肢で捉え操る負荷は、遥かに大きくて。
だが着実に描き紡がれていく光盾の魔法陣を前に、地竜は歩を止め低く唸る。
「くかかかかっ! どうしたアースドラゴン。よもや怖じ気づいたかぁ?」
マナに酔いしれたエルフの姫が、傲慢不遜な笑みを浮かべ、彼方の竜を見下した。
初めてまして。あるいはお久しぶりです。
第1章6話をお読み頂き、ありがとうございます。井村満月と申します。
いよいよ迫る敵とご対面、相手は大砲を背負ったアースドラゴン!
うーん。怪獣ですよねー☆
ピンチピンチ大ピンチなんだからこんな時、光の巨人が欲しくなるシオンちゃんです。
アースドラゴンは翼を持たない竜で、亜種に分類される中では最も竜に近い種です。地底の洞窟や火山に住み、動物や怪物のほかに鉱物や貴金属、宝石などを食べて暮らして居ます。竜より知性は劣るとされますが、ただの獣という訳ではありません。大地を焦土を化す炎の息吹を吐き、巨大で建物を薙ぎ倒す、災害級の怪物です。多くの竜は人間種族にも魔王軍にも荷担せず、縄張りを荒らしたものを襲いますが、この地竜は魔王軍の尖兵となりました。背中には不時着した巡航艦から移設された連装砲が、二段背負い式に設置され、地竜の自我で操作されています。
さてはて、いよいよシオンとギル姫が、アースドラゴンと真っ向勝負!
満を持してシオンちゃんからムクムク生えた破格の魔杖は、ドラゴンブレスを受けきれるか?
マナ酔い絶好調の煽りエルフと化したギル姫に、お腹のご立派様を握られて、シオンちゃんはもう大変!
シオンとヒロインたちの奮戦ぶりを、この次もお楽しみ下さいませ!