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第1章5話 いつもの二人が邪魔しにきたよ!

 地竜に随伴していたGAを相手に、大立ち回りを演じていたルビィのベスタ改。

 その猛攻に加えて、アキラメルの砲撃が地竜の砲撃を封じたのを見て取った装甲機兵の一機が、狼狽え気味に後ろへ後ずさった。

 右肩にやや細身の直射砲、左肩に太い曲射砲を背負った地球帝国(EEMP)の火力支援型GA、マイヤズだ。

 箱型の重厚な機体で、火力が高く装甲も厚い。

 砲撃時は撤甲弾、榴弾、対空砲弾などを素早く撃ち分けて、味方を適切に火力支援するGAだが、その砲撃を潜り抜けるベスタ改に接近を許して。

「や、やってられるかぁっ! おい、06、07っ! 前に出ろ!」

 そのずんぐりしたマイヤズが無人のコリファを二機、呼び寄せて盾にしながら後方へと駆け出そうとして、ギョッと立ちすくむ。

「はっ! 逃げたねえ!」

 マイヤズの眼前にもう一機、赤いGAがいた。

 上下二対、四本の腕を持つ異形の赤黒いGA。

「うるせぇえええっ!」

 咄嗟に突き出されたマイヤズの両腕、Uの字型のフレームに挟まれた二の腕が、モーターを軸に縦回転する。

 五指の手首が後ろに、肘側のペッパーボックスガンの四つの銃口が前に!

ーーガキィインンッ!!

 赤いGAの上腕が、肘から伸びる細い装甲板をマイヤズの腕に叩きつけ、左右に弾いた。

「でもさ、それが理由で!」

ーーザシュンッッ!!

「死ぬんだよお前ぇっ!」

 下腕が抜いた二振りの剣の切っ先が、マイヤズの分厚い胸部装甲を貫通する。

 操縦席から背嚢(バックパック)まで、深々と。

「ぎゃあああああッ!!」

 GAの主動力は蓄電池(バッテリー)駆動だ。

 これが損傷しても爆発しないが、背部に搭載された砲弾が誘爆し、機体を爆散させる。

ーードゴゴゴォンッ!!

 爆発の瞬間、上腕の装甲板を肘から展開交差させ、爆炎を受け止めるGA。

 燃え広がる業火を踏み分け、庇った翼を左右に翻す赤黒の装甲機兵(ギガアーム)の姿に、二機のコリファを相手にしていたルビィは唇を曲げて忌々しげに呟く。

「出てきて早々、味方殺しか」

「ボクらしいよねえ? アハハハッ!」

 量産機のコリファやコリファ、マイヤズとは一線を画す四腕のデザインは、革命軍の優性戦闘種(バトルクローン)の彼に与えられた専用機ブランシェだ。

 上の二腕は蝙蝠の飛膜めいた装甲板が広げられ、三本の鉤爪とビーム砲の砲口が備えており、下の二腕は先ほどマイヤズを貫いた細身の長剣を携えている。

「あ~あ。情けないよねえ。廃棄物寸前の成り上がり劣性クローンに、いいように暴れられてさあ。あ、お前たちはもう下がってろ。邪魔なんだからさ」

 隠密など考えていないのか、外部スピーカーから悪態を放ちつつ、二機のコリファを後退させるブランシェの操縦士。

「トカゲがつむじを曲げるからさあ、手を出すなって言われてたんだけど、この体たらくじゃしょうがないよねえ、スターロード?」

「相変わらずイキってんな、トリン。また胸に風穴開けられたいか?」

 二人は旧知の仲、元は戦友だ。

 互いに通信機の周波数を合わせ、モニター越しに顔を見せた。

 白髪白皙の少年の顔は、仇敵にまみえた憎悪と悦びに笑みを浮かべ、紅を引いた唇を舐める。

「キミこそ、また背中をバッサリ斬ってあげようか? 手足を飛ばす? 首は最後にしてあげるよぉ!」

 彼我の距離は五十メートル、GAなら十歩、決闘の間合いだ。

「チィッ!」「ハハッ!」

 横薙ぎにぶっ放されたベスタ改の突撃銃の弾幕を、楽しそうにくぐり抜け、下腕の長剣で斬り上げるブランシェ。

 ベスタ改はダッキングでかわし、左手で抜いたリボルバーの銃口を向けるが、ブランシェは素早く頭上へ跳躍していた。

 両上腕の掌底部が輝き、放たれる電子ビーム。

ーービシュウウウウッッ!

「うぉっと!」

 前に飛び込み、地響きを立てて前転したベスタ改が、ブランシェの着地を狙って背中を撃つ。

ーードゥンッ! ドゥンッ! ドゥンッ!

 プラズマを仕込んだ三発の弾丸は、しかし。

ーーバウッ! バウッ! バウッ!

 振り向きもせずブランシェが広げた、上腕の飛膜装甲が防ぐ。

 鮮血じみた深紅のマナに防がれ、解放された灼熱気塊(プラズマ)は光芒を散らされ表面を灼くに留まった。 

「チッチッチッ、嘘つきだなあ。穴を開けるなら胸だって言ったよねえ?」

 魔法界で万物は、魔力(マナ)を帯びる。

 人が乗ったモノには、騎手の意思や気迫、すなわち自我(エゴ)が魔力を喚起し増幅されて。

 特に人型であるGAは、操縦者のエゴが伝わりやすく、他の形状の兵器よりも強大な魔力を宿し優位に立つ。

 正に人機一体、物理法則に縛られたカタログスペック以上の性能を発揮するのだ。

 プラズマ弾を防ぎきった、今のブランシェの飛膜装甲のように。 

「背中を切られた仕返しに、と思ったんだがな。まあいい、ちっと遊んでやる」

「そう来なくっちゃねえ!!」

 興奮に上擦った声を上げ、赤眼を輝かせ白い頬を朱く染めるトリン。

 GAで魔力を引き出す代償は、マナ酔いだ。

 強い魔力とエゴは、人の心を酔わせる。

 酩酊、興奮、錯乱、発情。

 魔術を学ぶ者はエゴとマナを制御し、マナ酔いを防ぐところから修行が始まるが、ガリア界から転移してきたGA乗りが、そんな修行をしているはずもなく。

「あはははははっ! いっくよぉっ!」

 振り向きざまに薙いだ細剣から伸びた深紅のマナが、数十メートルの刀身となってベスタ改を襲う。

 咄嗟に右腕の小盾で受けたが、GAの胴ほどの太さがある巨木を数本、斬撃に巻き込み切り倒した。

 ルビィとトリンの戦意(エゴ)が拮抗していなければ、彼女もコクピットごと真っ二つだ。

「ったく、熱くなっちまうじゃねえか。今夜は大変だぜ、シオン!」

 宿敵のエゴに当てられて、ルビィも身体の火照りを感じていた。


「向こうはトリンデッドか。なら私の所には貴様というわけだな、イワン!」

 斬機戦斧を肩に担ぎ、仁王立ちで誰かを呼び止める女戦士。

 姿が見えたわけではない。

 居るだろうと推察し、カマをかけたはったり(ブラフ)だが、果たして。

「いや、オレの狙いはファレンファウスト聖王家の第三王女だ。通してもらえないか、ガイラ」

 木陰を縫って宙を滑るように現れたのは、ガイラに劣らぬ旧知の大男だった。

 ガイラが魔王軍を離反する前は、共にアキラメルを襲った事もある、出身不明の傭兵だ。

 灰色にくすんだツーブロックの髪の下、左目を黒革の眼帯で覆い、くたびれた軍用コートを左肩に引っかけて手を見せず、右手には対装甲ロケットランチャー。

 名前を呼ばれて生じた眼帯男の小さな思念の揺れを、女戦士は鋭敏な勘で嗅ぎ取るや否や。

「はっ! ふざけるな!」

 ガイラはイワンに応えつつ、戦斧を薙ぎ払って殺気を乗せた真空刃を放つ。

「交渉決裂か。相変わらず血の気が多いな」

 右手につけた指輪を輝かせ、浮遊魔法でふわりと浮いて避けたと思いきや、殺気に誘導された見えざる刃はなおもイワンを追った。

 構えた無反動砲を撃てず、咄嗟に着地し指輪の魔法をかけ直した大男の周囲に、マナの煌めく盾が三枚現れ、一枚が真空刃を受け止め霧散する。

「貴様、本当に機甲界(ガリア)出身か? 並みの魔法使いより良く魔法を使う」

「器用だと、よく言われる。こんな事ならGAに乗るべきだったな。岩喰鬼(トロル)に生身では面倒だ」

 携えていたロケットランチャーを、いつの間にか長柄の鉾槍(ハルバード)に持ち替えて。

 大剣以上に重い両手武器を、右手だけで軽々と構えるイワン。

 と、ガイラの足元にいつの間にか転がっている、二つの丸い球体。

「ぬぅっ! 小賢しい!」

 後ろに跳びずさった直後、爆風と破片がガイラを襲った。

ーードゴォンッ!

 目を庇いつつ気配だけで斧を振りあげるや、強烈な衝撃が、そして異様な呪力が腕を襲う。

「ぬぐっ! 魔槍の類か!? 何でも持っているな、貴様は」

鱗の冠鉾(ロードオブスケイル)と言うらしい。斧ごと石化させるのを、闘気で阻んだか」

 打ち込みを弾かれたイワンが、なおも右手一本で鉾槍を構え直す。

「私は岩を喰らう(トロル)だぞ? 石になると思うのか?」

 全身に浴びて肌に食い込んでいた手榴弾の破片を、ふんと腹に気合いを入れて弾き出すガイラの一言に。

「なるほど。だが防いだ以上、疑わしい理屈だ」

「ふっ、つくづく賢しい奴め」

 つい苦笑を漏らした女戦士の、柔和な笑顔に。

「以前は軽口を叩く余裕も見せなかったが、何がお前を変えた?」

「我が嫁だ。もし私が倒れても、我が復讐と宿願は嫁が果たす。だから生き急ぐ必要がなくてな」

 微笑んだままガイラが、ひゅんと振り回す斬機戦斧(ギガスレイヤー)

「今の私は一味違う。覚悟するがいい!」

「確かにな。さて、どうしたものか」

 そう他人事のように呟く、イワンの無造作な構え。

 隠した左手に何を握っているか読めないが、トロルは臆さない。

「私に斧で挑むか! よかろう、モルク・フォヴォーラ・トロルのガイラ、いざ参る!」

初めてまして。あるいはお久しぶりです。

 第1章5話をお読み頂き、ありがとうございます。井村満月と申します。

 今回はアキラメルを付け狙う敵が現れましたね。

 トリン君は火星革命軍で生み出された優性戦闘種。反射神経や筋力体力、鋭敏な知覚などあらゆる面で優れた改良遺伝子を持つエリートGA乗りです。元は金髪でしたが、ルビィさんと色々あって白髪に。戦うのが大好きで、獲物を嬲るのも楽しむ加虐趣味の危険な美少年。今は魔王軍に組していますが、ルビィとシオンに激しい敵愾心を燃やしてます。

 トリンの専用GAブランシェは、エース用の上位機種で、特に格闘戦に優れた機体です。四腕の異形ですが、トリンの体格を模してフレームがリファインされており、フルマニュアルに対応しています。また上腕の電子ビーム砲も一撃でGAを撃破できる火力。頭部スリットの下に火炎放射器も装備しており、攻撃的なGAです。飛膜装甲はスライド式で折り畳める防御装甲で、滑空の補助も行えます。

 さて、もう一人はイワン。出身不明の隻眼の大男で、常に左腕を隠して片手で戦っています。常に冷静で無表情ですが、妙に律儀で受け答えに愛嬌があり、意外にボケ役です。機甲界の銃器兵器と魔法界の魔道具の両方を使いこなす武器庫みたいな魔法戦士で、その剣呑さは元魔王軍幹部のガイラに引けを取りません。また戦場で暴走しがちなトリンのお目付役ですが、便乗して自分の目的を果たそうとするため、制止役には向いていません。ギル姫を標的にしていますが、どうしたいのかは不明です。

 今回登場したのはこの二人ですが、まだ見ぬ敵も居ますので、どうか乞うご期待。

 シオンとヒロインたちの奮戦ぶりを、この次もお楽しみ下さいませ!

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