第1章4話 目ざといコックとガラス玉。
艦内通話も管制してるXCPが告げると、ジュンコの燃え上がる威勢がたちまち消火された。
「やなタイミングだね……繋ぎな!」
「やあ艦長。窓の外に変なのが見えてるけど、いいのかい?」
映し出されたのは食堂の調理長ルー・セガワ。
快活で不敵で人を食った笑顔を浮かべる、小柄なベリーショートの黒髪少女だ。
日焼けした褐色の健康的な肌、陸上競技選手を彷彿とさせるスレンダーな肢体。
黒のタンクトップシャツにホットパンツという薄着姿でエプロンを羽織り、コック帽を被ってる。
「変なのってなんだい?」
「小鬼が木の上で、ガラス玉を振り回してるね。ほら、ホーガン投げ? 中にオレンジ色の輝く液体が」
ただのコックだと言いながらルー、妙に勘が鋭い。
「船外カメラには、小鬼はどこにも映ってません」
慌てて通話に割り込む、元魔王軍の女戦士。
「爆弾小鬼、いや精鋭小鬼だ! 隠形魔法で城に近づいていたな。ガラス玉も魔法の爆弾だ!」
「あ、あそこ! アキラメルのすぐ側!」
シオンの見ようとする意志が魔力となって伝わり、再び発光するブルスのカメラアイ。
隠形を暴き、目に捉えた小鬼の姿は全身泥まみれの黒ずくめ、顔にも墨を塗った小鬼族の精鋭が、ゲラゲラ笑いながら紐に繋いだガラス玉を今にも投擲寸前で。
「させるもんかぁゴブリンどもぉっ!」
さっき撃った方のロケットランチャーを背中のラックに戻し、腰のホルスターからGA用の自動拳銃を抜くブルス。
一連の動作はシオンが操縦桿で入力した操作を、ドラムズが実行する自動操縦だ。
シオンは軍人ではなく、GAをマニュアルで操縦はまだできない。
だが雑食系のオタクで重度のゲーマーだ。
人付き合いが苦手で対戦は避けてるが、ロボットアクションゲームはシリーズ通じてオールSランクでクリアしている。
「暴徒鎮圧低致死性スポンジ弾だけどぉ! 運が悪けりゃ死んじゃうからね! あたしも覚悟完了してるんだからぁっ!」
できるだけ殺さない。でも、やらなきゃいけない時がある。
だからシオンは躊躇わず撃つ。
ーードゥンドゥンドゥン!
「ゲギャギャギャギャーッ!?」
直径四十ミリのスポンジ弾が雨あられと降り注ぎ、悲鳴を上げて吹っ飛ばされるゴブリンたち。
しかし流石はレンジャー、根性の据わった奴が何匹か、撃たれ悶絶しながらガラスの爆弾を投げ飛ばした。
「回避ぃっ!」
「できません。当たります」
ーードドドォン!
命中したのは三発、紅蓮の火球が炸裂したが、装甲を破れず艦を少し揺らした程度。
被弾箇所は艦橋の直ぐ下、右舷甲板の上の気嚢の一区画、そして。
「副砲に当たりました。ちょうど砲身の根元ですね。歪んだかヒビが入ったか、暴発警報が出てますが、撃ってみます?」
浮力の現象で傾く船体の姿勢を制御しつつ、淡々と言うか楽しそうに被害報告するシープ。
「撃つなぁ! ええい、痛み分けだ。本艦はここまで。作戦は第二段階へ移行。後はシオンと姫さんに任せるよ!」
上空へ舳先を上げ、気嚢の浮力と下方噴射でふわふわと上昇を始める駆逐艦。
このまま城の前にいれば、地竜の攻撃に巻き込まれる為だ。
背中の連装砲以上の威力を持つ、ドラゴンの切り札に。
「さぁて、竜の息吹を見事受け止めて見せようぞ! くひゃはははっ!」
臆すどころか高揚に瞳を輝かせ、ギルキュリアが胸の絶壁を誇示するようにばんと張る。
「ほ、ホントにやるのぉ? お城に逃げた皆を守るには、ここが踏ん張り所だって、分かってるけどさ」
「案ずるな! 何のために儂がお主の隣におるのじゃ? お主と言う破格の魔杖を振るうためぞ!」
そもそもと言葉を続ける、エルフのロリ姫。
「いかにアレが羽根無しの地べた這いとて、一応はドラゴンの端くれ。人々を守り彼奴を倒すとなれば、相応の策が必要じゃ」
竜族の中では下級と言われる地竜ですら、暴れれば災害級の被害をもたらす。街を破壊し山野を焼き尽くし、地形すら変えるのだ。
討伐には一国の騎士団が全滅必至で戦陣を張るか、救世の英雄勇者クラスの冒険者の一団が命がけで挑む相手である。
いかに未来兵器と言えど駆逐艦一隻にGA二機、岩喰鬼の戦士が一人では明らかに力不足。
「じゃが勝機はある。真の竜ほどの知性がない地竜には、破格の魔杖たるお主を振るう、我が魔導の冴えなぞ思いも寄るまい。きひひひひ!」
「あ~あ、さっそくマナ酔ってるわ。ホントは肌も黒いんじゃないの、この性悪姫」
「同感だ。魔王軍の参謀に大勢いるぞ、この手合いは。笑い声など堂に入ったものよ」
「腹黒なのは前からだぜ。口八丁でウチのアキラメルを聖王国に抱き込んだからな」
「抱き込んだと言えばシオンもさね。毎晩お熱いコトでさぁ」
「それは全員毎晩デスヨネ。録画はバッチリデスヨ。CM入りで有料配信します?」
「だっ、誰に見せるって言うのよぉあんなのぉ!」
すりすり頬ずり姫を引っぺがしつつ、顔を真っ赤にして喚くシオンに、ニヤけたルビィが真顔に戻る。
「っと、気をつけろ。いつものお客さんが来たぜ」
初めてまして。あるいはお久しぶりです。
第1章4話をお読み頂き、ありがとうございます。井村満月と申します。
今回は料理長のルーさんが登場。飄々としていて色々目ざとい子で、隠れていたゴブリンの精鋭部隊を見つけちゃいました。色気がない? いえいえけっこう薄着で無防備、知ってか知らずかシオンをドキッとさせる小悪魔なんですよ。
さて前回に引き続き、設定話ですが。
今のところ機甲界出身組は、ルビィがMRVからLOTO、ジュンコとルーがLOTO、XCPが虐殺機械からアキラメルです。
魔法界出身はギルが諸王家同盟、ガイラは魔王軍からアキラメルに所属を変えました。
シオンは現代日本出身でアキラメル所属です。
アキラメルはLOTOの軍艦ですが、艦長など主要な士官が転移時に行方不明になり、残った乗員から元船長の経験を買われたジュンコが艦長になりました。
LOTO機動艦隊司令部と何とか連絡を取ってますが、独立愚連隊の状態で補給がままならず、ギルに口説かれ護衛を務めています。
弾薬より深刻なのは推進剤で、無くなれば艦が動かせないので、気嚢で浮かせて節約しています。
魔王軍側にMRVのガドやEEMPのコリファが従軍しているのも、同じ様な事情です。
ゴブリンレンジャーは魔王軍の雑兵であるゴブリンから、優秀な者を選抜訓練した精鋭部隊。魔王軍に協力するEEMPの教官が指導し、潜入工作能力を身につけました。作戦がうまくいくとゲラゲラ笑っちゃうのは、治しがたいゴブリンの習性です。
次回はルビィ曰わく、いつものお客さん。
因縁浅からぬ敵の登場です。
シオンとヒロインたちの奮戦ぶりを、この次もお楽しみ下さいませ!