第1章3話 砲撃戦! 駆逐艦vアースドラゴン!
「虐殺機械の本領をお見せします。第五の力が私に干渉しなければですが」
副砲の単装電磁投射砲を上甲板に、下甲板に船体固定の主砲である電離気体砲一門、左右甲板と連装機関砲、ミサイル発射管二本をそれぞれ備えた細身で紺碧色の船体が、ゆっくり浮かび上がる。
「くくく、もう後には引けぬぞシオ。儂と主は一蓮托生じゃ。胸が高鳴るのぉ!」
可憐なエルフのイメージをかなぐり捨て、不敵で好戦的な笑みを浮かべるギル姫だが。
隣の席でモニターに映し出された標的を見たシオンが、思わず指差しツッコミを入れる。
「むむむ無理無理無理っ! アレ無敵で戦艦で大なヤツぅ! なんでドラゴンが砲塔ゲットして背負ってんのよぉーっ!?」
遙か遠くから地響きを立て進撃するのは、連装砲塔を二段背負い、四足で歩む緑麟の地竜。
全長百五十メートルのアキラメルの半分ほどの大きさだが、それだけに背中の砲塔の威容が目立つ。
「敵を映像で捕捉。なかなか変わった装甲機獣ですね。東地球帝国巡洋艦の火薬式連装砲の砲室を二基、背面に搭載しています」
再利用品らしい砲塔を背中に背負うドラゴンの姿は異様で、怪獣めいた迫力がある。
事前情報では竜の亜種と言われる地竜が、聖王国の城を目指して侵攻中としか、シオンは聞いてない。
「ドラゴンをサイボーグ化する技術は、魔王軍にも地球帝国にまだないでしょう。なので体内に弾薬庫はなく無改造、いわゆる砲塔式で弾数も少ないと推測しますが、それでも単純火力はアキラメルより上です」
「竜のくせに魔王軍の手先になる手合いじゃからな。所詮は羽も生えとらん地べた這いじゃ。嬉しそうに機械を背負いおって、竜の誇りなんぞ持っとらんわ」
「超転移現象で私たちの世界から、いきなりここに転移したんだもの。生きてく為には誰とでも手を組むわよねえ」
「だからって設定盛り過ぎぃっ! あんなでっかいドラゴンなんてえええええええ」
全高十メートルほどの人型兵器と比べると、地竜は象どころか鯨並みにデカい。
アキラメルと異なり火薬式の実体弾なのは、信頼性とエネルギー消費の少なさが利点だ。しかも艦艇が展開する電磁防壁は、光学兵器より実体弾の方が貫通しやすい。
歩みを止めたアースドラゴンは、その背に背負った巨砲を小さく揺らし、砲身の方位と仰角を修正した。
目が眩むほどの閃光と紅蓮の放火が、周囲を真昼のごとく照らし出す。一拍遅れて響き渡った轟音。
ーードドォンッ! ドドォンッ!
巨大な二連砲塔から放たれた四発の実体弾が、ブルスやアキラメルの上を飛び越え、レブナ城に撃ち込まれる。
「城を撃った! 大丈夫なの!?」
そびえ立つ城の前面に張られた不可視の魔法障壁が、炸裂する爆炎で激しく揺らぎ明滅し、浮上し始めた駆逐艦の姿をオレンジ色に照らし出した。
ーーゴゴゴゴ……。
地震のような振動が城郭や周囲の木々を揺らし、深い堀に波頭が広がる凄まじい着弾爆裂。
衝撃に激しく揺さぶられたコクピットの中で、ギル姫は再びシオンに抱きつく。
「ふふ、ポヨポヨだの。役得じゃ」
「どさくさ紛れに揉むなあっ!?」
それでも何とか初弾は防ぎきった、が。
「ダメじゃ。城壁の魔法陣が過負荷で割れかけとる。異世界の大砲はとんでもない威力じゃな。次は被害が出よう」
「そんな。でも作戦じゃあたし達はまだ……」
「安心しな。こっちがやり返すよ! 対艦兵装、全門斉射ぁっ!」
モロトの号令に応え、アキラメルの下甲板の装甲がが下に開放、露出した主砲から赤橙色に煌めくプラズマを放つ。
同時に四角い砲身の電磁副砲が紫電を散らして四連射、四本の発射管からミサイルが噴炎の尾を引いて飛翔し、彼女のツンと突き上げた胸をゆさっと揺らした。
ーーズビュウウンンッッ!!
ーードンドンドンドンッ!
ーードシュドシュドシュドシュッ!
プラズマ砲が地竜の肩口に直撃、まばゆい閃光と化して緑麟を灼き焦がす。
「ゴガアァアアアアッ!」
瞬間、ドラゴン目掛けて飛翔するミサイルの弾頭部に、魔法陣が煌めいた。
途端にあらぬ方向へ進路を乱し、空中や地面で爆発する。
「電子妨害? 何とかサーカス? アニメで見た!」
思わずはしゃぐシオンにしがみついたまま、くわと牙を向いて何が起きたか看破するギル姫。
「小癪なトカゲめぇ。迂闊じゃった。矢止めの魔法なんぞ使いおって、ますますドラゴンの風上にも置けぬ。余裕ぶって当たって泣き叫ぶのが、お約束じゃろうが!」
「そのパターンだと『やったかで無傷』だと思うなあ」
「ああ、今のは魔法でしたか。故障か新手の妨害かと思いました。副砲着弾します」
ーードォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
「グガァアアアアアアアッ!」
四発とも直撃はなく至近弾、土煙を盛大に巻き上げた。
「ミサイル再装填、急ぎな! 主砲は?」
「砲身冷却とプラズマ充填に時間が掛かります。副砲は照準修正完了。こちらに電力を回せば撃てます」
「なら、とっとと撃つんだよ!」
威力は負けるが小口径で単装、地竜より早くレールガンの発砲準備を終えたアキラメルが、再度砲撃する。
ーードゴッォ! バギャッ! ゴガァアアンッ!
四発中三発が、地竜の背負う砲塔に命中、もう一発は顔面近くで爆発し、横っ面を張り倒した。
「グギャオオオオオッ!」
さすが巡洋艦の砲塔の装甲は分厚く貫通できなかったが、二段四基の砲身が曲がり、不具合が出たようだ。
ギギギと軋んだ様子で砲塔を旋回させ、アキラメルに照準を合わせようとするが、上手く砲口が向かない。
「よぉし! 船乗りがトカゲに大砲の撃ち合いで負けるもんかい。このままやっちまうよ!」
まるで海賊じみた物言いだが、それもそのはずジュンコ・モロトは戦時徴兵された商船の船長である。
真っ当な船乗りだと本人は言うが、実は海賊だったのではと、まことしやかに囁かれていて。
ーージリリリリン♪
「艦長、食堂からお電話です」
艦内通話も管制してるシープが告げると、ジュンコの燃え上がる威勢がたちまち消火された。
初めてまして。あるいはお久しぶりです。
第1章3話をお読み頂き、ありがとうございます。井村満月と申します。
城に迫る敵は背中に二連装砲塔を二つ背負った、巨大な地竜!
空を舞う駆逐艦アキラメルと砲戦開始です!
設定話ですが、装甲機兵や駆逐艦、地竜の背中の砲塔などは、シオンちゃんより先にガリア機甲界から異世界転移してきました。
機甲界は某ロボットアニメみたいな世界で、金持ち達が色々やらかした後の未来世紀です。
金持ち達が地球を見捨てて移住した火星で、虐げられた複製人間が革命起こした火星革命軍。
環境悪化と金持ち達の破壊工作でボロボロな地球で、強い指導者として王侯貴族が担ぎ上げられ、東西分割統治する事になった地球帝国。
大事な宇宙船と資源と技術と人間を、金持ち達に分捕られて宇宙で全滅寸前になり、月と軌道上の人工都市が手を組んだ月軌道条約機構。
元は火星の金持ち達が反乱鎮圧の為に作ったけど、設計ミスで暴走して人類抹殺に乗り出したのが虐殺機械の大軍団。
この四者が地球のすぐ側に機動要塞を浮かべて大決戦中、異世界転移現象が大発生して、ロマン魔法界の各地に場所も時間もバラけて出現しました。
四者共に指揮系統は分断、宇宙用の艦船は中々動けず、補給もままならない。
かといって中世ぐらいの技術レベルと侮って略奪しようとしたら、魔法やら勇者やら怪物やらに返り討ちにされて。
人間種族の諸王家同盟や魔王軍に雇われ食い扶持を稼ぎつつ、原隊復帰を目指しているのです。
このチャンスに立身出世、自分の王国をおっ立てようとする野心家も居ますし、虐殺機械も自分が知覚できない魔法に興味津々で離反したりしてますが。
さて駆逐艦アキラメルは、地竜から城を守れるでしょうか?
シオンとヒロインたちの奮戦ぶりを、この次もお楽しみ下さいませ!