第1章11話 英雄の帰還。でもサービス残業はやんないよ♪
ーードドンッ! ドドンッ!
ーーワァアアアアアアア……ッ!
英雄の帰還を、夜空を焦がす花火と大歓声が出迎えた。
巨大な城門のアーチを潜り、片腕の装甲機兵が城下町の石畳を踏み鳴らす。
後頭部と背嚢の狭間に立ち、シオンはギル姫に腰を支えられて、沿道の観衆に手を振って応える。
真夜中とは思えない賑わい、盛り上がりだ。
「シオン様ぁっ!」「ギル王女~っ!」
レブナ城の大通りに面した民家商家は、戸を開け二階の窓を開き、満面の笑みに感涙を零す家人が、籠一杯の花を蒔いて二人の凱旋を讃えた。
「うむ! 良い気分じゃ! 胸を張れシオ!」
「あははは……柄じゃないなあ。顔から火が出そう」
王族らしくパレードは慣れっこのギルは威風堂々として、陰キャ喪女オタクのシオは強張った顔で、ヒクヒクしてる。
「グガァ?」
「ホントに火を噴いちゃダメだよ、グガちゃん。ほら可愛い可愛い」
「グギャギャギャ♪」
頭をワシャワシャ撫でられて、ご満悦のぬいぐるみ、もといチビ赤竜だ。
自分が倒されたお祝いだと、知ってか知らずか上機嫌で羽をパタパタ、尻尾フリフリ。
「なんでルビィとガイラは、居ないのよ?」
「ルビィは予備のブルスで、ぶっ壊れたベスタ改を回収中じゃし、ガイラは一目でトロルと分かるからの。しかも鎧が壊れてすっぽんぽん。連れて来れんじゃろ?」
一分の隙なく着込んだ全身鎧で戦場を駆けずり回り、いざとなれば躊躇なく脱着、際どい下着鎧で暴れ回るガイラ。
「無闇矢鱈に脱いではおらん。断じて性癖ではない」
とは本人が強弁するところだが、シオンの目には疑わしくて。
「来たがってたんじゃ?」
「シオの側に居たいと駄々をこねておったが、ダメと言ったわい。最後はXCPが羽交い締めで、アキラメルに連れ戻したわ」
ガイラは暴虐野蛮で知られる岩喰い鬼の女戦士だが、意外にも実直で生真面目な常識人。
フォヴォーラ族長の娘であり魔王軍の元幹部、育ちがよく世間の荒波に揉まれたご令嬢と言えば、分かりやすい。
「なのにどーしてヘンタイなの?」
「惚れた相手の前だと、理性が蒸発するんじゃと」
さもありなん、と頷くギル姫。
「勘弁してよ。あたしの側でヘンタイになんのさ」
「戦の興奮、冷めやらぬのじゃ。誰も彼も戦に活性化した己のマナに酔い、生存本能がたぎっておる」
シオンの腰から下へ、ピッチピチの操縦服を撫でるギル姫の手が、際どい所まで下がってきて。
「ちょっ!? ギルっ、ドコ触ってんの!?」
「くひひ。今宵のレブナ城は、どこもかしこもお盛んじゃぞ。み~んな仲良しなのじゃ♪ 儂らものぉ?」
「ふみゃんっ!?」
エメラルドの瞳にピンク色のハートマークを浮かべて、シオの腰に頬ずりするミニマムエルフ。
「城に着く前にの、ちぃと二人で抜け出さぬか? 戦勝パーチーなんぞ退屈じゃぞ? ルビィやガイラ、ジュンコにXCPまで一纏めに相手するのも大変じゃろ? のうのうのう?」
「グガグガグガァ♪」
ーーポヨポヨポヨ。
グガと一緒にシオンの弾力を堪能し、マナ酔いエロエルフはご満悦の体で抜け駆けを試みた。
「お主とて、辛抱たまらぬのではないか? 儂はお見通しじゃぞ。正妻じゃからなぁ」
ねっとり猫なで声で、じゃれつく姫の妖しい媚態。
一瞬、トゥンクと心が揺れ、体の芯が熱くなる、いやずっと疼きっ放しだった。
激ムズのクエストをクリアした達成感で気分が高揚し、疲れてるのに眠れなくて、ふわふわした感じ。
ちょっとワルいコトがしたくなる、あの瞬間だ。
「あるよねぇ。チャットで感想戦したり、コンビニでお高いアイスを買い食いしたり、課金ガチャを回したり、推しのグッズをポチったりさ」
ちらっとギル姫を見ると、両手を差し伸べて甘える顔。
「お忍びデートじゃ。着替えもあるぞ」
腰に括った魔法のポシェットを開き、質素な町娘に扮する服をシオンに見せてキシシと笑うギル。
「呆れた。準備してたんだ」
「チャンスは活かす主義での。で、どうなんじゃ?」
「いいよ、行こ!」
ギル姫の軽い体を抱き上げる。
勢い余って二人の顔が急接近。
「の」
こうと決めたときのシオンは、眩しいぐらいに闊達で、思わずギルは見とれてしまって。
と、グガがシオンの頭にぴょんと乗っかった。
「グガァ♪」
「ふふっ、グガちゃん帽子みたい」
くすくすと笑いあう二人の鼻先が、触れ合って。
きゃーと黄色い声が上がる。
「見られちゃったね。ゴシップネタはマズいかな?」
「……話題の提供は王族の義務みたいなモノじゃ。しかしこの後、追いかけられるのは避けたいの」
「何とかしてよね、魔法使いさん♪」
シオンはギルの前髪の、金糸の中で煌めく緑の一房を咥え、おでこに口づけた。
「じゃ、ブルス。あたし行くから、後は宜しく!」
ーータンッ!
愛機の肩を蹴り、シオンはギルと宙に飛び出す。
「なんならぁっ!」
商家の屋根に着地、そのまま駆けだして。
「マナよ、我が身を隠し、我が行く手に足場を為せ。そは古き技、我が血が覚ゆる妖精の戯れなれば!」
ーータタッ。
「わぁ! 飛んでる? ううん、空中を走ってるんだ! それに、誰もあたしたちを見てない! よぉっし!」
シオンは花火に照らし出された、教会の尖塔を目指す。
パレードの道から少し離れていて、人気がなくて。
二人が夜の町に溶け込むのに、ぴったりの場所。
「あははははっ! ギルっ! イケナイこと、いっぱいしようねっ!」
「ん」
見上げて目を閉じ、腕の中で何かを待つ妖精姫。
あざといなあ、でも可愛いなあ。
こんなの、するしかないじゃない。
夜風を切る爽快感、期待と興奮のワクワク感が、胸いっぱいにこみ上げて。
「好きだよ、ギル」
シオンは大きくジャンプして、ふわりと浮いた瞬間に、そっとキスして。
二人きりで迎える夜明けはまだ遠く、巷に愛が溢れて行くのだった。
初めてまして。あるいはお久しぶりです。
第1章11話をお読み頂き、ありがとうございます。井村満月と申します。
第一章、最終話です。やっとでしたぁ!
ヒロインみんなで仲良く大団円にしようかな、と思ったんですが、正妻のギル姫がこのチャンスを逃がすわけもなく。
凱旋パレードから二人で逃げちゃいました♪
この後は楽しくデートして、あまあまラブラブのイチャイチャをするんです!
グガちゃんも一緒だけど、邪魔しないと思います。賢い赤竜なので……しないかな? するかも。
イチャイチャしてるうちに、高ぶるシオンの破格の魔杖も沈めなけりゃいけないんですけど、他の皆がいなくて大丈夫かな?
何しろ今夜も激戦をくぐり抜けた、シオンの愛は破格なので!
シオンの破格ぶりは、皆様のご想像にお任せします♪
リクエストを頂いたりしたら、どこかにナニかひょっこり出ちゃうかも?
はてさて、第一章と言うことは続きがあるわけで、他のヒロインとのイチャイチャも書きたいですし、まだまだ活躍してないキャラクターや魔法やモンスター、装甲機兵、装甲機獣に艦艇もいっぱいありますからね!
お、いち早く二人の脱走に気づいたXCPが、探し出そうとしてますね。
でも街頭に監視カメラもないし、ドローンはもったいなくて飛ばせないし。
ジュンコが不粋だから探すなって言ってますね。
「どうせ一人じゃ身が持たないから、そのうち泣きついてくる」って?
もうワイン一瓶空けて二本目だこの人。
ってガイラはモリモリご飯食べてるし、ルビィは着慣れない礼服を着せられて貧乏くじ。
逃げ出した英雄とお姫様、へべれけ艦長の代わりに、戦勝パーティーに強制参加だそうで。
「俺の柄じゃねえんだよ。新米め、後でぐっちょんぐっちょんに泣かせてやる」ですか、そうですか。
「もちろんお仕置きですよ、マスターも腹黒姫も」
「我が嫁の匂いなら、すぐに見つけられる。だから先ずは腹ごしらえだ。うまい飯を食ってこい流れ星」
「食えねえんだよ、お上品なパーティーの主賓はな!」
あらあら、みんな元気ですね。
お仕置きの場面も私、気になります!
それでは皆様、第二章でお会いしましょう!