第１章１話 魔王軍襲来！ 装甲機兵《ギガアーム》で迎え撃て！
数十メートルを跳躍した人型の巨体が着地し、合金製の足裏が夜の森林の土を踏みしめた。
木々の茂みに隠れていた小鳥や野鼠、銅角鹿の親子が、怯えて逃げ去る。
全高十メートルほど、飾り気のない作業重機に丸みを帯びた装甲を被せた、頭身低めの野暮ったい人型巨大ロボットだ。
鉄帽状の頭部中央、単装のメインカメラが魔力を帯びて発光し、周囲を見渡して。
「もうこんな近くに敵！？ 避けるよ、ギル！」
鮮やかなピンクと黒のツートンカラーの髪を、碧玉のクリップでサイドアップに結った少女が操縦席で、ギルと呼ばれた姫に声をかけ、腰を落とした装甲機兵に軋んだモーター音を響かせつつ、横に数歩飛びずさる。
「おおっと！？ 揺れるのじゃあシオぉ」
月軌道条約機構《ＬＯＴＯ》の装甲機兵ブルスの操縦席は狭い。
無理やり横並びに座り、即席のベルトで細い腰を固定した小柄で幼い容貌の長耳妖精が、操縦服姿のスレンダーな肢体へ、役得とばかりぎゅうっとしがみついた。
「ちょちょちょちょっ、邪魔邪魔邪魔ぁ～っ」
ギル姫は銀のティアラを載せた金髪にエメラルドのメッシュが数条混ざった碧眼、幼く可愛く、金糸銀糸で飾られた法衣の胸はツルペタで。
かたや操縦士のシオは、少年のように細い身体の線がくっきり浮き出た格好。
胸もお尻も健やかに育っているが、ちょっと控えめなボリュームだ。
「くひひ。良いではないかちょっとくらい。シオを気持ちよくするのが儂との契約じゃろ？」
「幸せにするのが、でしょーっ！」
と、夜闇の向こうから放たれる、数条の火線。
刹那、照らし出されてまた消える人影に、シオンは驚きの声を上げる。
「ガドが二機に、コリファ！？ なんで魔王軍に火星革命軍と地球帝国の機兵が居んの！」
二機はスリット式センサーアイが不気味な、小兵ながらも重厚な戦車を鎧武者に仕立てたゴツいデザインの火星革命軍ＧＡ。
もう一機は地球帝国のＧＡで、西洋甲冑を着込んだ戦闘機を思わせる、簡素なゴーグル型カメラの機体だ。
元の世界では月軌道条約機構と三つ巴で激闘中のマーヴとエンプのＧＡが、仲良く肩を並べて機関銃を構え、ブルスを撃破せんと銃撃してくる。
「ああもう、敵同士が呉越同舟ってぇ赤壁かっ！」
ＬＯＴＯ、ＭＲＶ、ＥＥＭＰ、いずれもガリア機甲界から剣と魔法のロマン魔法界へ、次元転移して来た機動兵器の軍隊である。
それが魔王軍の尖兵となって人々に銃口を向け、シオンの背後にある城を、近隣の人々が逃げ込んだ場所へと攻め込んできた。
シオンは、どちらでもない。
現代日本から異世界転移した転界人。
桃色紫音と言う名のブラック企業勤めのアラサーオタクで、ボサボサ黒髪ぽっちゃり体型の眼鏡喪女だったのに。
気がつけば若返ってて髪もピンク色で、このＧＡブルスのコクピットの中だったのだ。
「色々あったけどさ、あたしは助けてくれたみんなを守るんだ！」
ギルと一緒に訪ねた村で、快く歓待してくれた村人たちが、魔王軍に家や田畑を焼かれて逃げてきた。
その消沈した顔を一人一人思い出し、シオンは奥歯を噛み締める。
「ゲーマーなめんな。撃ってくるなら撃ち返すんだからぁっ！」
喚きながらシオンは、ブルスが両肩に担いでいた無反動砲を構えさせた。
「どっちも人のマナを感じぬ無人じゃシオ！ やってしまえぃっ！」
「そんならあああああああああ」
雄叫びと共に右肩の一丁から放たれたロケット弾が噴煙を引いて角張ったコリファを直撃、爆発四散させる。
「あと二機！」
「そいつぁもらった」
背面バックパックのスラスターから噴炎輝かせ、頭上を飛び越えた青いＧＡが、空中で突撃銃をゴツい拳銃に持ち替えて。
「電磁拳銃だ。当たると焼けるぜ」
ーードドゥンッッ！！
大口径の銃口から電光を散らして放たれた、二発の青い閃光を放つ電離気体封入弾丸が、巨人型兵器の頭部に撃ち込まれた。
もんどりうって後ろにぶっ倒れた二機の装甲機兵が、破裂した弾丸から機体内部に拡散するプラズマに部品を焼かれ、火花を散らして沈黙する。
「悪いな新米。ベッドから出るのが遅れたぜ」
毛先が赤い焦げ茶髪で大柄でタフなタレ目の女が、ニヤリとニヒルな笑みを浮かべた。
「まあ、新米って呼ばれるのはゲームで慣れっこだけどね。何度も世界救ってるし」
「そりゃあ頼もしいな。だがお前を新米と呼べるのは、俺だけだ。それとも撃墜王と呼んで欲しいか？」
「遠慮しとく。ルビィがふさわしいもん」
ブルスの隣にズンと着地したベスタ改は、比べて少しスリムで頭身も少し高い。レーシングモデルのようなシャープなデザインだ。
両腕に折り畳み式の小盾を装備して太くなっており、マッシブな印象も受ける。
「お主、とっくに前に行っとるハズじゃろが」
「怒るなって姫さん。アキラメルから無人のベスタを二機、ロケットランチャーを持たせて、前に引っ張ってきた」
後方に着陸中の母艦が、アキラメルという駆逐艦だ。装甲機兵の搭載数は、最大で三機。
ギル姫が雇った貴重な戦闘艦で、絶対に沈められたくない船だ。
「ＸＣＰだけにやらせたんじゃ、無人操縦ＡＩの調整が間に合わなくてな。敵の足留め役だが、あわよくば本命を狙わせる」
「むう、乗り手が見つからんかった二機じゃな。ならば文句は言えぬのう」
拳銃を突撃銃に持ち替えながら、ベスタ改が単眼カメラを上げ下げして詫びる。
「リボルバー拳銃のプラズマ弾、ベスタ改はいいよね、ルビィ。ブルスじゃレールガンは出力不足で撃てなくてさ」
「よく言うぜ。その旧式が好きで乗ってるくせに」
薬室内にプラズマを封入した特殊弾は、暴発させないよう低反動の電磁砲で発射する。
銃把と掌の接続器を通じて、機体から十分な電力の供給が必要なのだ。
充電池だけで動く旧型のブルスと違い、現行主力機のベスタは発生器も内蔵している。
「あたしは量産型が好きなの。扱いやすいし、よく壊すし」
「それでバケモン退治を買って出るたぁ、命知らずだな。俺なら勘弁だ」
「発電機と推進器の燃料で、誘爆するのも怖くない？」
「それは戦い方次第ってな」
ルビィと呼ばれた操縦士が、操縦服のたわわな胸をバウンと重めに弾ませ、肩をすくめて見せる。
「さてと。給料分の仕事をするか」
第１章１話をお読み頂き、ありがとうございます。井村満月と申します。
今作は私の趣味全開で人型機動兵器バトルと、剣と魔法と怪物の異世界中世ファンタジーを悪魔合体させちゃった、ちょっとエッチな冒険譚です。
主人公のシオンちゃんは、現代日本から異世界転移して、ロボットアニメのヒロインみたいになっちゃった、アラサー雑食オタクの喪女。
エルフのお姫さまの王国を助けるお礼に「幸せにして！」とお願いしたら、昼夜問わず気持ちよくされちゃうモテ期が到来。
魔力を使うとお腹から生えちゃう魔法の杖の、無尽蔵の魔力が溢れるご立派な様子に、出会ったヒロインたちがメロメロになっちゃうんです。
ギルキュリアちゃんは１２０才のエルフのお姫さま。黙ってれば華奢で可憐な少女ですが、マナ酔いしちゃってハイテンションな酔っ払い。
そして颯爽登場のお姉さんがルビィ。タフでマッチョでニヒルなエースで、懐も胸も腕もでっかく経験豊富な火星の戦闘用複製人間。
色々と盛り沢山な作品ですが、シオンとヒロインたちの奮戦ぶりを、先ずはお楽しみ下さいませ！
