第二章 エピローグ
モモはスマホの画面を見つめたまま、ずっと口元をにやにやさせていた。
ホーム画面に設定したのは、ついさっき撮った集合写真だ。
亜蓮を中心に、花緒や御之、千助、自分まで写って。戦いを終えた直後だというのに皆が笑顔で、退魔師らしからぬ明るさを放っていた。
暁月のメンバーになってから、まだ日が浅い。それでも毎日少しずつ実戦を重ね、歓迎会までしてもらって、今こうして仲間と並んで一つの写真に写っている。それが嬉しくてたまらなかった。
(なんか……仲良しって感じ……!)
思わず頬がゆるむ。しかもこのところ、花緒と御之の口喧嘩も少しずつ減っている。大人な二人だから、衝突しながらも折り合いをつけ始めているのだろう。
チームがひとつになっていく。その感覚に胸がそわそわする。
「ほな、そろそろか。花ちゃん」
不意に、軽い声で御之が花緒へ呼びかけた。言葉の意味を察し、それまで笑みを浮かべていた花緒の表情に影が落ちる。
だが、モモは気づかない。スマホを握りしめたまま、うっとりと夢の続きを見ているような笑顔を浮かべている。
「――そう、ですね」
花緒は静かに目を閉じた。そして次に開いた瞳は、氷のような冷徹を宿していた。
花緒の白い手が闇夜に翳される。音もなく結界の膜が広がり、仲間達を閉じ込めるようにプリズムの光が周囲を包み込んだ。
「モモさん」
名前を呼ばれ、モモはきょとんと振り返った。
視界に映ったのは、これまで一度も見たことのない、花緒の――冷たく、悲しい顔。
「ごめんなさい」
――ヒュッ。
風を裂く鋭音。次の瞬間、モモの視界がぐるりと一回転、二回転し、ドンッという衝撃と共に地に落ちた。
「――えっ?」
モモの目が瞬く。
転がった視界の端に、蒼白な亜蓮の顔。
凍りつく千助。
冷徹を貼りつけた花緒の横顔。
そして黒い糸――式神クロチを武器に変えて握る御之の手。
全部、見えている。
頭が落ちているのに。
……………………なんで?
「てめえ……何やってんだよ!!」
千助が御之の胸ぐらに掴みかかって怒鳴りつける。
亜蓮はただ呆然と掠れた声を漏らした。
「……なんで……」
「亜蓮。この子はただの鬼やない」
御之の声は感情を殺した氷のようだった。黒いガラケーを開くと、モモが契約したときの式神画面が浮かび上がる。
「契約した式神の正体は、俺には筒抜けや。種族、真名、弱点――全部な。この子は普通の鬼やのうて、屍鬼や。人を喰らい、人に成り代わる、人食い鬼や」
千助の顔色がさっと青ざめた。画面にはモモのドット絵と、紫に光る不吉な式神文字。
「人を食った屍鬼は、食った人間の能力を得るか、そいつに成り代わる」
「……亜蓮様」
花緒が声を重ねた。その表情は、私情を冷徹さで押し殺して強張っている。間違いなく、このタイミングの為に、御之と裏で情報を示し合わせてきていた。
「……亜蓮様、最初から全部おかしかったんです。彼女は貴方の力を授かってすぐにそれを使いこなしました。前線の国家退魔師でも咄嗟には扱えないその力を、何の訓練も積んでいない、普通の女の子の彼女が。私でさえ、この力に慣れるまで三日を要したのに」
亜蓮の背に冷たいものが走る。
「彼女の戦い方、気配。どこか、似ていると思いませんか。……あらゆる武芸を遊び感覚で体得し、時代が違えば鬼神と呼ばれたであろう、華上歴代最強の……あの方に」
亜蓮の胸の奥でぞっと嫌な予感が膨れ上がる。
絶望に瞳を見開くモモ。
――その色は、かつてのあの少女と同じ金色だった。
「モモさんは――華上 雪乃の成り代わりです」
これにて第二章完結です。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
少しでも面白かった、第3章も楽しみ、と思っていただけましたら、リアクションや感想、ブクマや⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎で励ましていただけると頑張れます。
第3章は、暁月VS国家退魔師隊異能部隊の親善試合がメインになりますが、
亜蓮の姉・雪乃=モモとなった過去にも迫っていきます。
慈雨月もいよいよスポンサーとして暁月と本格的に接触、
花緒を巡る亜蓮と慈雨月の争いも続きます笑
亜蓮と御之が出会った時のバディ感溢れるエピソードも入れる予定です。
千助は親善試合に出るんでしょうか。
もちろん退魔師隊連中もわちゃわちゃやりながら、試合では本気を出します。
第3章もどうぞよろしくお願いいたします。




