Raison d'être
成績は良くはない。
だけど、決して悪くもない。
中の上、所謂普通という感じ。
部活もそう。
補欠ではないけど、絶対的なレギュラーでもない。
何かに秀でてる訳でもない凡庸なポジション。
結局、これも普通。
「結花は何が言いたいんだよ」
「赤点ばっかで帰宅部の秀樹には分かんないのよ」
「そんぐらい分かるって。要はみんなに認められたいってんだろ?」
そう思うことは理解出来る。
でも、ちょっと違う。
勉強や部活に限らない。
例えば趣味でもいい。
自分で自信を持てる何かが欲しい。
でないと自分の存在意義が見当たらない気がしていた。
そもそも秀樹に文句は言えない。
考えてる私自身が、それが何なのかよく分かってないのだから。
「結花は難しいこと考えてんだな」
「そうでもないよ」
高校三年。
中学生の頃、高校生なんて大人だと思っていた。
いざ高校生になってみると違っていた。
中学と案外変わりない。
かと言って子供のままでもない。
何て微妙な年頃なんだろう。
「高校生って中途半端だよね」
「まあ、確かにな。でも、その半端な部分を成長してって少しずつ大人になってくんじゃないの?」
秀樹のクセに生意気だ。
思ったより芯を食った大人な答えに反論出来ない。
そう感じる、ということは私はまだ子供でしかないということなのかもしれない。
「考えたってどうしようもないと思うぞ」
「私って考え過ぎなのかな?」
「そうじゃないの? みんなそうだろう」
私だけが歩んでいる訳ではない。
周りのみんなも同じように通ってゆく道。
だからこそ、平凡な私は自信の持てる何かを見つけたかったんだ。
人より誇れる何かを手に入れないと大人に近づけないと思っていた。
「結局、普通っていうか平凡っていうか、どこにでもいるような存在なのよね、私は……」
「んなことねーよ。俺にとって結花は大切な存在だぞ」
「……」
「え? ヘンなこと言った?」
「そういうこと話してんじゃないの」
「そうなん?」
私が誰かの大切な存在になれてる。
私を認めてくれる誰かが側にいてくれる。
私は必要とされてるんだ。
「……ありがと」
「何が?」
「何でもない」
それだけで私の存在意義が証明された気がした。
自分では分からない自分の居場所。
私の求めてた何かがうっすら分かった気がした。
そして、知らない内に手に入っていたのかもしれない。
「よし! じゃあ、行こうか」
「どこ行きたい?」
「どこでもいいよ」
私はちょっとだけ大人に近づけた気がしていた。