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【書籍化決定】ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
第四章 俺たちはキスをさせたい

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第85話 「オススメだよ?」

「苦しい……」


 お洒落なカフェを出てようやく早霧がえっち以外の言葉を喋ってくれた。カフェでえっちしか言わないって状況的にどうかと思うが実際そうだったので仕方ない。

 馬鹿みたいにデカい、馬鹿なんじゃないかって値段の、馬鹿みたいなパンケーキを一人で黙々と平らげた幼馴染が顔をしかめながら腹を擦っていた。


「どう考えても一人で食べる量じゃなかったろ、アレ」

「デザートは別腹だもん……」

「デザートしか食ってないだろお前」

「朝ごはんちゃんと食べたし……」

「朝食べててよくアレ食えたな」

「朝はコーンフレークだったから……」


 朝食といえば朝食だが、なんともいえない。

 コーンフレークにバニラアイスにアイスが乗った特大パンケーキ。

 なんていうかアメリカを感じる。


「苦しいなら少し休んで帰るか?」

「今止まったら大変な事になりそう……」

「……なら人混みを避けて適当に歩くか」

「でも行きたいところある……」

「……何処だ?」

「薬局」

「胃薬でも買うのか?」

「違うけど」


 この流れで違う事あるのか。

 そんなこんなで違うらしいが、俺たちは薬局という名の大手ドラッグストアにやって来ていた。

 ショッピングモールから少し離れた所にある市民御用達のドラッグストアは広々としていてスッキリしている。

 早霧を歩かせる目的もあったが人の多いショッピングモール内のドラッグストアを使わずに正解だった。


「私カート押したい」

「子供か」


 復活した早霧が店に入ってすぐにあるショッピングカートにカゴを一つ乗せる。


「それで何を買うんだ?」

「んーとね、とりあえずシャンプーとリンスとトリートメントとボディソープと洗顔料に化粧水……あとリップクリームとか」

「多いなおい」


 とりあえずでアメニティグッズを連呼していく。

 この辺りの感覚の違いはまるっきり男女のそれだろう。

 俺だったら残り少なくなった物しか買いに来ない。


「そう?」

「そうだな」

「そうなんだ」


 英語の三段活用みたいなやりとりをして俺たちはドラッグストアの中を歩いていく。まずたどり着いたのはシャンプーとかのコーナーだ。

 風呂場用品は大体纏まっているので、楽である。


「あ、これこれ。今私このシリーズ使ってるんだー」


 そういって早霧は迷い無くシャンプーやらリンスやらトリートメントやらをカゴにぶちこんでいった。

 どれもこれも俺が絶対に手に取らないものばかりである。


「オススメだよ」

「俺に言われてもな」

「オススメだよ?」

「いや俺はメンズ用コーナーにある方が」

「オススメ」

「……そうか」


 謎の圧があった。

 早霧一押しらしいがそもそもこれは俺の買い物じゃないんだけどな。


「あ、リップクリームはこれ!」


 そしてお次はリップクリームコーナー。

 なんか見たことない種類のリップクリームが並んでいる。この世界にこんなに多くのリップクリームがあったのか……。


「……これ、違いはあるのか?」

「大ありだよ! ありあり!」


 ありありって何だ?


「……そうなんだな。リップクリームって、冬につけるイメージなんだが」

「ちっちっちっ、甘いよ蓮司、さっきのパンケーキぐらい甘いよ。唇だってお肌なんだから、毎日ちゃんとケアしてあげないと駄目なんだよ?」


 着るものには拘らないくせに肌のことになるとちゃんとしているのが女の子らしさを感じた。もちろん今までも感じていたが、俺が隣で実感したのは初めてである。


「なるほど、勉強になるな」

「でしょー? 早霧先生にお任せあれ!」


 上機嫌だった。

 褒められて嬉しいらしい。


「それにする時はちゃんとしてたいもんね!」

「ん?」

「あっ……」

「おう……」


 早霧が固まり、つられて俺も固まった。

 不意打ちである。

 不意打ちの自爆である。

 出かけて買い物やら食事を楽しんで、すっかり忘れていたことを思い出した。

 当然そんな状態になれば視線が向かうのは、そのリップクリームが塗られるであろう薄桃色の唇で。


「オ、オススメ、デス……」

「ソ、ソウカ……」


 お互いぎこちない言葉を交わしてドラッグストアの中を歩いていく。

 それから店を出るまで隣にいるのに視線は合わせず会話も無くなり、会計中はレジのおばちゃんから変な目で見られた。

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