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【書籍化決定】ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
第三章 早霧はキスをされたい

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第59話 「親友だもんね!」

 学園一の美少女でクラスの人気者な早霧が、朝の教室で俺に抱きついてきた。

 思わず反射的にその名前を呼んだが、思考はフリーズしているに近い状態である。そんな刹那にも似た静寂の後、その突拍子もない行動から何が起きるかといえば。


「やっ、八雲さんが赤堀くんに抱きついたぁっ!?」

「ゆ、夢か……これは夢なのかっ!?」

「やっぱりあの二人って付き合ってたの!?」

「俺ずっと前から怪しいと思ってたんだよ!」

「だよなぁ! しかも八雲さんからって……赤堀の奴めぇ!」

「けどこれで限りなくゼロだったチャンスが完全に無くなったと諦めがつくんじゃないか!?」

「え!? お前どう見たって明らかにチャンスのチの字も最初から無かっただろ!」

「そうそう! 他の学年やクラスと違って私達はあの二人をずっと見てきたんだからさ!」

「二人がついにくっついたって事は、告白連続お断り伝説もついに終わるのかな?」

「いいや玉砕しまくって噂が広まっている二年と三年はともかく、まだ純情な一年や来年の新入生はするんじゃないか?」

「そこは赤堀氏に男気を見せてもらいたい所でございますな!」

「それはそうと羨ましいぃぃっ!!」

「あ、あわわわわっ!? さ、さぎりんがレンジに……ぎゅー、ぎゅーって!!」

「み、見ちゃ駄目だゆずるちゃん! 見るなら俺を見てくれっ!!」

「や、やっぱり絞めたんだ! 昨日絶対に何かあって、お互いで首の絞めあいっこしてたんだっ!!」


 ……大混乱である。

 パニックに近いクラスメイトがある事ない事を思い思いに叫びだし、それにつられたユズル、長谷川、草壁の三人も好き勝手言いたい放題祭りだった。


「ねえねえ、待ってた? 待ってた?」

「お、おお落ち着け早霧! ままま、まずは一端離れてくれ!」

「えー? しょうがないなあ、蓮司はー」


 そんな混沌とした状況の中でゴーイングマイウェイを貫く幼馴染様は抱きつきながら何かを期待した目で俺を見上げてくる。

 その仕草の全てにやられそうになるが、衆人環視の中心というとても恥ずかしいこの状況には耐えられないので理性が全てをカバーした。

 俺はその細い肩を掴んで一気に引き剥がそうとすると、思いのほかすんなりと早霧の身体が離れていく。


 それにしてもこの幼馴染、ニッコニコである。


「あ、あのぉ……」


 と、そんな俺達のやり取りを最初から目の前でずっと見ていた草壁がビクビクとしながら話しかけてきた。

 気弱な印象なのにこの注目が集まる空間で、いの一番に話しかけてくる度胸というか胆力が凄い。臆病に見えるだけで実はやる時はやる奴なのかもしれない。


「あ! ひなちんおっはよー! あれ、ゆずるんと長谷川くん、どーして私達の席に座ってるの?」

「あ、あ、お、おはようございます……へへ、友達と、挨拶……へへへっへ……」


 今の疑問はそこじゃなくてお前だぞ、早霧。それを割って言うには俺が当事者過ぎるので黙るしかなく、草壁に全てを任せるしかなくて。

 だが草壁は挨拶が返ってきた事に嬉しくなって変な笑いをしていた。長い前髪で両眼が隠れているので口元が緩みきっている事しか分からない。


「へへ、その、へへへ、つかぬ事を、お聞きしたいのですがぁ……へっへ……」

「うんうん! どしたの?」


 笑いが止まらない草壁とずっと笑顔の早霧。同じ笑顔でもこんなにも光と闇で明暗が分かれているんだなと思った。

 それにしてもこの場で彼女は何を聞くんだろうか?

 そう考えているのは俺だけじゃなくクラスメイト達も同じようで、全員がオドオドしている草壁に注目していた。


 草壁は俺と早霧の秘密を知っている唯一の人物である。

 人に注目される事が苦手なのにこの衆人環視の中で勇気を出して一歩踏み出してくれた、そんな彼女ならきっとこの状況を打破してくれるに違いない。


「昨日、どちらから首を絞めたんですか?」


 ――お前はそういう奴だったよな、草壁。


「やだなぁ、絞めてないよー!」

「……ひょえっ?」


 この状況で草壁を頼りたいのに、早霧が正論過ぎて何のフォローも出来なかった。


「え、ですが……お二人は付き合いを始めたのでは?」

「えっ?」


 と、彼女の独特な感性から導き出されたであろう問いが偶然にもクリティカルヒットをしてしまった。それは偶然の産物から出てきたラッキーパンチかもしれないが、この場にいた全員が聞きたかった事だろう。

 首絞めという突拍子も無い質問にざわつき出したクラスメイト達がその確信に触れる言葉にまた静まり返った。


「付き合ってないよ?」


 けれどもちろん、その問いに返す返事は早霧の中では決まっていたんだ。それはまるっきり、約二週間前のやり取りをそのまま繰り返していて。


「私と蓮司はー……」

「え?」


 だが、それは今までのように早霧だけの答えで終わるのではなく。



「親友だもんね!」


 俺の右腕に自分の両腕を絡めて、そんな事を教室で言ってのけたのだ。



『…………』


 固まる草壁、固まるユズルと長谷川、固まるクラスメイト達、固まる俺。クラス中が、静まり返った。

 当然だ。腕で腕を絡めるという仲が良いラブラブカップルが街中をかっ歩するようなポーズを決めながら、堂々と親友だと公言したのだから。

 前回と違ってそれには行動が伴い、結果混乱だけが増していく。


「……あ、あぁ」


 その中で唯一事情を知っている草壁だけがボソッと呟いた。そしてその長い前髪から哀れみの視線が俺にだけ向けられる。見えないが、目がまくれていて見えないが、間違いなく哀れみの視線だった。


「あ、そうだ蓮司!」


 その静寂の中で早霧が思い出し方のように俺の名前を呼んでくる。

 自分の発言でこの何とも言えない空気を作り出したのにこの親友は未だに我が道を突き進んでいた。


「先生に呼ばれてるから一緒に行こっ!」

「せ、先生から? 俺とお前がか?」

「……クラス委員だからね!」


 何か今、変な間があったんだが。


「だがあと十分もせずにホームルームがぁっ!?」

「いーからいーからっ!」

「何でそこ掴んだお前ぇっ!?」


 俺の腕を離したと思ったら、ネクタイを掴んで引っ張り出した。グイッと首が引かれて俺は教室を後にしていく。

 何とも言えない感情を帯びたクラスメイト達の視線を感じながら、こんな事、前にもあったなぁとか……何処か他人事のように思いながら。


「ひょわあああああああああっ! あ、アレですよアレぇ!!」


 廊下に出た時に教室の中から聞こえてきた、目隠れ少女の歓喜の叫びは聞かなかった事にする。

 この変わったようで変わらない、けど確実に早霧の中で何かが変わっていた展開だけで俺はもういっぱいいっぱいで。

 元気でいて欲しいとは言ったが、ここまで元気になるなんて聞いてなかった。

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