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ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
第一章 幼馴染にキスをされた
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第5話 「裸も見たのに?」

 幼馴染が分からない。親友とは何か分からない。早霧の考えが分からない。

 四六時中俺を悩ませる問題ではあるが、こと学生生活においてそれはそれと言う場面は多岐に及ぶ。


「ねえ蓮司。もう少し私が持つよ?」

「大丈夫だ。気持ちだけ受け取っておく」

「むぅ」


 昼休み、クラス委員の俺と早霧は職員室から次の授業用のプリントを教室に運んでいた。

 世界史の先生はこだわりがある人で毎回教科書の他に自作のレジュメを複数枚生徒一人一人に配っている。単純計算で百枚以上、凄い熱意だ。ちなみにレジュメとは発表用の資料とかそういう意味合いらしい。

 普通に資料で良くないかと思うが、横文字の侵食が激しいグローバルな昨今なので仕方がないのだろう。


 それはそれとして、俺からの断りを受けた早霧は何だか不服そうだった。


「私の気持ちも知らないのに……」

「何か言ったか?」

「いーえー? 蓮司の気のせいじゃない?」

「おい、止めろ、足を蹴るな、危ないから!」


 レジュメの束、数にして俺の二割程度を抱えた早霧が執拗に俺の右ふくらはぎをつま先で狙ってくる。

 昔から俺に不満がある時は言葉よりも行動に表れる幼馴染だった。


 ……普段は蓮司呼びで、普通なんだがなぁ。


「美少女の蹴りはご褒美だって長谷川くん言ってたよ?」

「美少女なら何でも許されると思うんじゃない」


 それはあくまでも一部の意見だろう。否定はしないが一般常識みたいに語る早霧の将来が不安になってきた。このままわがままが加速しないだろうか、人様に迷惑をかけるような子じゃないのは確かだが。

 とりあえず長谷川は後で絞める事にする。


「ほら、階段なんだから蹴るのを止めろ。本気で危ないから」

「はーい」


 こう言う所だけは聞き分けが良い。

 上り階段、早霧を先行させてその後ろをついていく。両手は塞がっているので色々と無防備なのだ。色々と


「ほーんと、こーいう所もさあ……」

「何か言ったか?」

「蓮司が下から覗きそうだなって」

「だ、誰が覗くか!」

「裸も見たのに?」

「誤解を生む発言は止めろ! 子供の時の話だろうが!!」


 学校で何を言い出すんだコイツは。

 は、裸だって幼稚園とか小学校低学年の話で、今は違うだろ今は。背が高くてスタイルが良くて足も長くて胸も、大きくて……。


「あ、またエッチな事考えてるー?」

「か、考えてない!」

「え? 昔から蓮司、変な事考える時は瞬き多くなるの気づいてないの?」

「そ、そうなのか!?」

「ふふ、嘘でーす!」

「お、お前なぁ!」


 油断も隙もない幼馴染に弄ばれている。

 けれどこの時間が心地良かった。

 こういう言い方はアレかもしれないが、他に適切な言葉が見つからないので妥協しておく。変な意味ではない、決して。


「けど顔には出やすいよ? 照れてる蓮司、凄く可愛いもん」

「うっ……! ま、前見て歩け危ないから!」

「大丈夫だってもう上り終わ――」


 瞬間、早霧の身体が足を踏み外して。


「早霧っ!!」


 ――バララッ!

 咄嗟に投げ出した資料達が音を立てて階段に落ちていった。


「ったく、言ったそばからお前は……大丈夫か?」

「う、うん……」


 背中から落ちそうになった早霧の肩を抱き、後ろから支える。体が大きくなってもこういう所は本当に昔のままだなコイツは。


「蓮司、書類が……」

「ん? ああ、拾えば大丈夫だろ。それより早霧が怪我無くて良かった」

「……また、そうやって」


 誰からもレジュメと呼ばれない、書類及び資料だった。

 一方の早霧は俺に肩を抱かれたまま俯いてしまっている。早霧は優しいからな、自分のせいで資料をばら撒いたと思って罪悪感に駆られているんだろう。

 ここは気の利いた冗談でも一つ……あっ。


「で、でも拾わないと……」


 チャンスだと思った。


「お前が気にする事じゃないぞ? だって俺達は――」


 今日、昨日、一昨日と手玉に取られている幼馴染に反撃出来る最強の一手。


「――親友、だろ?」


 そう笑って、両手が塞がっている早霧の頭を撫でた。

 白く絹のように滑らかで手触りの良い長い髪。乾かす時とか大変そうだ。


「…………」


 何はともあれ、決まった!

 最大のカウンターを早霧にお返しする事が出来たんだ!

 ほら早霧もぐうの音が出ないで――。


「……ぅぁぅ」


 ――何だ、その可愛い声。


「……わ、わわわっ! 私、お言葉に甘えます! 先に行きます!」


 バッと勢いよく離れた早霧は喋り方が変になっていた。


「あ、ありがとね! それから……ありがと! ……あ、ありがとう!」

「何で三回も言った!? って、おい……」


 書類を胸に抱えて、微妙に語尾を変えたお礼を言った早霧が走り去ってしまった。


「……思ってたのと、違うんだが」


 そんな可愛い反応を、されるなんて思ってなかった。もっと気楽に、冗談めいた……いや、今、早霧を、可愛いって……俺が?


「……ひ、拾うか」


 頭に浮かんだ意識を誤魔化す為にぶちまけてしまったレジュメを拾ってやり、教室に戻ると昼休みが終わった。


 強いて、その後の事を語るとするならば。


「なあ赤堀、昼休みに八雲ちゃんと何かあったのか?」

「……い、いや」


 放課後まで、早霧は顔を合わせてくれなかった。

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