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【書籍化決定】ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
第三章 早霧はキスをされたい

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第44話 「ふーん?」

 俺と早霧の関係を他の人に一から説明するのは……とても恥ずかしかった。

 だけど中途半端に、キスをしているという情報だけが知られている状況は更に変な誤解を与えかねない。


 だから、事実をありのままに伝える事が出来たからだろうか。

 

「……ありがとう」

「えぇ!? な、何でお礼を!?」


 話し終えた俺は、何故か自然と頭を下げていた。

 胸の中のモヤモヤが完全に無くなった訳ではないが、軽くなったような気がする。


「ど、同志はひょっとして……初心な女の子に恥ずかしい惚気話を聞かせて悦に浸る癖があるんですか……?」

「そ、そんなものは無いっ! 何て言うか、草壁に話したおかげで少し気が楽になったみたいな……」

「あ、わ、分かります……! 私も先ほど皆さんに相談した時、楽になりました!」

「……やっぱり、誰かに話すって大事なんだな」

「そ、そうですね……お話するって……大事ですね……」


 少し、間が空いて。


「……この道徳の授業みたいな会話は何だ?」

「……さ、さあ?」


 お互いに首を傾げた。

 これはもしかすると、溜め込んでいたものを吐き出した者だけが感じるシンパシーみたいなものかもしれない。


「そ、それで……何ですけどぉ……」


 草壁が小さく手を上げて。


「同志は……八雲さんと幼馴染でキスをするようになった間柄ですけど、それは恋人ではなくて親友だからすると言われ、だけど好きな気持ちを自覚してしまいずっと悩んでいる……っていう事であってます?」

「……ああ。当事者の俺でもあまり理解出来ないのに、この短時間で把握するだなんて凄いな草壁」

「でへへぇ……」


 その上げた手を後頭部に回して、不器用な笑い方をした。

 ちゃんと笑う所、初めて見たなぁ。


「な、何ていうかこういうの……と、と、と、友達の相談に乗ってるみたいで良いですねぇ……!」


 かなり声が上擦っている。

 長い前髪で目は隠れているが、多分笑顔だ。


「俺は友達に相談しているつもりなんだが……」

「ひえっ!? ち、ち、違いますよぅ! わ、私と同志は同志ですので! そ、そんな友達だなんておこがましくておこがましくて……」


 同志は同志だと、哲学的な否定をされた。

 友達より同志の方が親密に感じるのは俺だけだろうか。

 ちゃんと話したのは今日が初めてという事もあり、まだ彼女の基準ラインや価値観は謎が多い。


「こ、こういうのはぁっ! でしゃばりすぎたら同志と八雲さんの仲に亀裂が走って私が刺されかねないんですよぉ……!」

「いやいや。そんなサスペンス的な事になる訳無いだろう?」

「し、絞められる前に刺されるのは嫌なんですっ!!」


 絞めると刺さるを天秤で量る奴、初めて見た。


「と、とにかく私は陰ながら同志の恋路を応援するだけに徹しますので! あ、何かこれ……同志っぽいですね良いですね!」


 基本ビビリでオドオドしているのに、楽しそうに話す姿は普通の女の子って感じがする。

 早霧やユズルの他にも愉快な女子がまだクラスにいたとは思わなかった。


 だから、話しやすかったのかもしれない。


  ◆


 パソコン室での密談は終わり、大急ぎで昇降口の前に設置された自動販売機で人数分のジュースを買って部室へと戻った。

 二人で分担したかったのだが、私が全員分を持ちますと草壁が言って聞かなかったので彼女の両手には五本のジュースが抱えられている。

 女子に全部を持たせるという罪悪感にかられながら俺は、両手が塞がっている草壁の変わりに部室の扉を開いた。


「ご、ゴウっ……本当にこれで良いのかなっ!?」

「も、もっと強くして良いんだぜゆずるちゃーんっ!!」

「こ、これが二人の愛なんだね……!」


 狭い部室。

 机の上に寝転がった大男の太い首を、小さな女の子が掴もうとしているという言葉にし難い光景が広がっていた。

 言わずもがな、長谷川とユズルである。その横では早霧が両手を握り締めて食い入るようにそれを見つめていた。


「な、な……」

「何で私達がいない時にそんな素晴らしい事をしてるんですかぁっー!?」


 絶句している間に、後ろから草壁が叫ぶと――。


「ああ、ひなちゃんおかえりっ! 帰ってくるのが遅かったから先に試してみてたんだよっ!」

「だ、駄目ですよぉ! そんな絞め方じゃ喉仏が押さえられて危険ですってぇ!」

「え、そ……そうなのっ!?」

「は、長谷川くんもぉ! 知識が無いのにもっと強くなんて言っちゃ駄目ですぅ!」

「ご、ごめん……」


 ――なんとユズルと長谷川相手に説教を始めたんだ。

 ちゃっかりと両手に抱えていたジュース達を俺に預けて。


 部室を出る前じゃ信じられない光景だった

 これは彼女が馴染んで気を許したのか、それとも首絞めに特別な想いがあるのか、どちらだろうか?


「れーんーじー?」

「うおっ!? さ、早霧か……」


 そんな光景に呆気に取られている所に、意識外から早霧が話しかけてきた。

 さっきまで草壁に俺のキスと想いの話しをしたばかりなので、変に意識をしてしまう。


「遅かったね? ひなちゃんと仲良くしてたのー? このー、このー!」

「や、やめろジュースが落ちるだろ!?」


 何の嫌味も無く、幼馴染は俺の脇腹を肘で突いてくる。

 それがくすぐったくて本当にジュースが落ちそうになり、ぶどうジュースの缶を一つ、早霧が手に掴んだ。

 草壁が心配しているような、サスペンス的な事にはどう見たってならないような雰囲気だ。


「冷えてるね」

「ん? そりゃあ、買ったばかりだからな?」


 急いで帰ってきたおかげで、まだキンキンである。


「ふーん?」

「さ、早霧?」


 何故か早霧は一歩、腕と腕が当たるぐらい距離を詰めてきた。ジュースを置く為に動いても、くっついてくる。


「良いですか!? 首絞めはとっても危険なので遊び半分でやってはいけないんですよぉ……!!」


 急遽始まった草壁による首絞め講座が終わるまでずっと、早霧は俺の隣から離れてくれなかった。

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