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【書籍化決定】ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
第二章 親友はキスをしたい

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第33話 「……し、しんゆー?」

 ドキドキの家庭訪問から始まった、ドキドキの映画鑑賞。

 幼馴染に振り回されっぱなしの俺の心臓は突発的な過負荷と休息を繰り返し、ズタボロだった。

 しかし振り回している本人は本人で――。


『もうこんなイカレたショッピングモールにはいられないわ! ワタシは先に帰らせてもらうから!』

『待つんだジェイミー! 外にはまだゾンビの集団がいるんだぞ!!』


「あわわ……」


『それが何!? あんなのただの作り物でしょ! 驚かせるにしたって悪趣味なのよアンタ……ら……』

『じぇ、ジェイミー……動くなよ、絶対に動くなよ……?』

『ねえ助けてトム! 井戸が! 井戸が床から生えてきてワタシを飲み込もうと』

『分かった! 分かったから静かに! 大丈夫、大丈夫だ、今助ける……!』

『駄目よだって足! 足掴まれて……アアアアアアアアアアアッ!?』

『ジェイミイイイイイイイイイイッッ!!』


「ひゃあああああああああっっ!?」


 ――ホラー映画に振り回されっぱなしだった。

 重ねたクッションを力強く抱きしめながら、食い入るように七五インチの特大テレビを見ながらめちゃくちゃビビッている。


 早霧は、昔から怖いものが苦手だ。

 なのに怖いもの見たさの精神がとても強い。

 その結果、巻き込まれるのは常に俺だった。


『トム! バリケードが破られてゾンビが入ってきそうだわ!』

『黙ってくれケイト! ジェイミーが、ジェイミーが死んだんだぞ!?』

『トム! このままじゃ全員死ぬわ!!』

『ああ……ああクソッタレ! 分かったよ!!』


「ほおおお……」


 でもまあ、それも悪くない。

 こんなに夢中になって楽しんでいる幼馴染の姿が見れるんだから。


『グガアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

『イヤアアアアアアアアアアアアアッッ!?』

『ケイトオオオオオオオオオオオオッッ!!』


「わあああああああっっ!?」

「ぬおおおおおおおっっ!?」


 バリケードが破られて、ケイトがゾンビ集団に食べられた。

 クッションが投げられて、早霧が俺の胸に抱きついてきた。


「む、無理ー! もう無理ー!!」

「お、お、お、落ち着けぇっ!?」 


 俺が落ち着いてられなかった。

 違うだろう……キスと抱きつきは違うだろう!?

 夢中になってる早霧と素の早霧だと違うだろう!?

 制服とTシャツじゃ、感じる柔らかさも違うだろう!?


「……蓮司、良い匂いする」

「……し、シャワー浴びてきたからな」


 急に何を言い出すんだコイツ。


『キャアアアアアアアアアアアッ! ジェシーが井戸にぃ!!』

『逃げるぞヘレナァッ!!』


「ひあああああああああっ!?」

「おおおおおおおおおうっ!?」


 落ち着け早霧! 落ち着け映画! 落ち着け俺!

 横から身を乗り出した早霧がソファーに座る俺に跨って首の後ろに手を回してきた。

 ソファーよりも心地良い柔らかさが全身に密着してきて……って違う違う違う!


「うぅぅ……」

「だ、大丈夫……大丈夫だ早霧……」


 映画の役者もこういう気分だったんじゃないだろうか。

 ていうか、トムの女性関係どうなってるんだ。トム以外全員女性だぞこの映画。

 

 落ち着くように、早霧の頭を優しく撫でる。

 ああクソ、本当に髪サラサラだなコイツ……。

 こんな時なのに、こんな時だからこそ思ってしまう。


 家庭訪問、映画鑑賞のドキドキは既に新しいものに上書きされていた。


『ふぅ……ヘレナ、なんとか逃げ切れたな……』

『ええ、そうねトム……』


「お、おい早霧! 逃げ切ったぞ!」

「え、あ、うん」


 テレビ画面ではトム達が森の中にある小さな小屋に逃げ切っていた。

 何故ショッピングモールが森の中にあるのかというツッコミは野暮だろうか。


 早霧がテレビに振り向くだけで長い髪がふわりと良い匂いを運んできて、そんな野暮は一気に引っ込んだ。


『ヘレナ、俺達このまま生きて……んむっ!?』


「えっ」

「なっ」


 トムがヘレナにキスをされて、ベッドに押し倒された。


『トム……好き。好きよ、トム……んっ』

『ま、待ってくれヘレナ……今は……んっ……はっ……それ……どころじゃ……んむっ』


「…………」

「…………」


 B級ホラーアクション映画から突然ラブシーンが流れ出した。

 金髪のイケメン俳優と美人女優が、ベッドの上で絡み合いながら濃密なキスを繰り返す。


 そして不意に冷静になった。

 俺たちは同じソファーの上で抱きつくように密着している。顔が違い、それはもう当然の事で……。


「……し、しんゆー?」


 テレビから顔を離した親友が、顔を赤くして俺を見つめてきたのは。 


『んっ……へ、ヘレナ……これ以上は……』

『大丈夫よトム……誰も見ていないわ……』


 いつの間にか俺の手が、早霧の細い腰を抱き返していたからだろう。

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