第330話 『お前はそれで良いのか……?』
「ゆずる。それに長谷川も、俺と早霧のせいで色々とすまなかった……」
「う、うん……」
「あ、あぁ……」
この短時間で様々な事があった。
ベッドの上での早霧のキス懇願甘えをゆずるに聞かれるところから始まり、長谷川の生着替えに早霧が乱入や、早霧が隠していた手錠をゆずると長谷川の二人に見られてしまうという、全部早霧がメインで引き起こした出来事の数々。
確かに気まずい点は多いけれど、純情な二人も冷たい麦茶のおかげか落ち着いてくれているようである。
やっぱり夏はよく冷えた麦茶に限るなと思った。
「赤堀、お前はそれで良いのか……?」
そんな麦茶のリラックス効果で落ち着いた、いや困惑した長谷川が俺を見る。
「……あぁ。早霧の罪は、俺の罪だからな」
「……八雲ちゃんの事になると本当に馬鹿になるよな、お前」
――両手に手錠をかけた、俺の姿を、だ。
だって仕方が無いだろう。
あの状況で雰囲気を元に戻すには俺が人柱になるしかなかったんだ。
その結果が、自主的に手錠をかける事だった。
こうして真顔で使っていれば、普通の事だと錯覚して変な想像はしないだろうという魂胆である。
本当は早霧にかけたかったのだけど、それをするとまたややこしい方向になりかねないので俺自身に手錠をかけたという事だった。
「蓮司は私の事大好きだからね……」
「早霧、お前も反省するんだぞ」
「はーい……」
だからと言って早霧が許された訳じゃなかった。
手錠をかけた俺の隣で早霧には正座をしてもらっている。
なんていうか、本当に罪人みたいな並びだった。
「何て言うか、歴史の教科書でこんな絵面見た事あるぞ……!?」
「どんな時も二人で寄り添うのが、さぎりん達の自分らしさなんだね……!」
俺と同じような事を考える長谷川と、感心した様子のゆずる。
自分らしさって言葉、親友と同じぐらい万能過ぎないだろうか?
「……ともかく、全員揃ったんだし話を始めよう」
「本当にそれで行く気なんだな……!」
「当たり前だろ」
「当たり前なんだな……!」
長谷川の反応が一々大きい。
だけどいつもの長谷川って感じがするので、軌道修正は出来た感じだ。
「……手錠をしたまま仕切る蓮司、面白いね」
「早霧、後でお前はお説教だからな」
「なんでぇっ!?」
余計な一言が多いからに決まってるだろうが。
だけどこれがいつも通りの俺達。
いつもどおりの、自分らしさ研究会の一幕なのである。
「あっ、れんじっ! まってまってっ!」
「ゆずる?」
だけどゆずるだけはいつも通りじゃなかった。
それこそいつもならゆずるがグイグイ俺達を引っ張ってくれるのに、今回はゆずるの方が俺にストップをかける。
何だろうか?
そう、思った時だった。
「えっとねっ! もうすぐなんだけどねっ、ひなちんも来るんだよっ!」
「…………草壁が?」
「うんっ! じぶけんはねっ! 全員揃ってじぶけんだからねっ!!」
ジャラッという手錠の鎖の音。
ピンポーンというインターホンの音。
重なったこの二つの音は。
首絞め大好き目隠れ少女の来訪を告げる、そんな音だったんだ。




