第319話 「い、いつもじゃないよーっ!?」
「な、何でゆずるんがここにっ!?」
「ゆずるからしたら何で早霧がベッドの上にいるんだってなるぞ?」
じぶけんの我らが小さき会長、ゆずるが俺の家にやって来た。
早霧にとっては突然の襲来に驚き、ベッドの上で丸まるのをやめて猫のように飛び跳ねる。
今日一番の俊敏さだった。
「あはは……ごめんね。さぎりん、れんじ、急におじゃましちゃって……おじゃま、だったよね……?」
「っ~! っ~!!」
ゆずるが照れくさそうに指で頬をかく。
この場に長谷川がいたらその可愛さで悶えていただろう。
だけど今悶えているのは早霧で、原因は恥ずかしさだった。
「さっきゆずるからメッセージ来たんだぞ? まあ早霧はぬいぐるみに夢中だったけどさ」
「そ、それは蓮司がぁ……!?」
ベッドの上で女の子座りをした早霧が顔を赤くしてあわあわしている。
早霧は早霧で世界一可愛いが、そろそろベッドから降りないのだろうか。
「悪いなゆずる。わざわざ家に来てもらったのに早霧がこんな調子で」
「う、ううんっ! れんじの家初めて来たし、いつも学校来る時に降りるバス停から近かったから全然っ! で、でも……」
ゆずるがチラッと、ベッドの上の早霧を見る。
「さ、さぎりんとれんじって……いつも、一緒に寝てるの……?」
「い、いつもじゃないよーっ!?」
早霧が叫ぶ。
確かにいつもではない。
早霧が俺と一緒に寝るのは、早霧が俺の家に泊まりに来た時だけだった。
普段の早霧は自分の部屋で一人で寝ているので、いつもではないのである。
……まあつまり、最近はいつも一緒に寝てる事にはなるのだが。
「だ、だよねっ! じゃあさっき部屋の前で聞こえてきたさぎりんの甘える声も、ぬいぐるみさんと一緒におままごとしてる時のセリフだったんだねっ!」
「…………れんじぃ」
「諦めろ早霧。お前の負けだよ」
純粋さは時として凶悪な武器となる。
早霧が涙目になって俺に助けを求めてきたけれど、この状況を見られた時点で勝敗は決まっていたんだ。
「……それで、ゆずる。今日はどうしたんだ? わざわざ俺の家に来なくても、この後に夏祭りの会場で会うだろ?」
「うんっ! それなんだけどねっ!」
ただ、まあ。
現行犯の早霧は助けられないけど俺も俺で気まずいので話題は変えさせてもらう。
俺の質問に純粋なゆずるは表情をパァッと明るくさせてこう答えた。
「さぎりんとれんじみたいに、わたしもごうともっと……仲良くなりたいなって!」
「ゆずるはゆずるのままでいてくれ」
「……ふぇ?」
純粋無垢なゆずるの両肩に俺は手をポンと置く。
今の今までのアレコレを見てそう言ってくれるゆずるの真っ直ぐさは、国宝として保護するべきなんじゃないかと俺の頭の中の長谷川が言っていたんだ。




