第315話 『うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ……!!』
「アツキッ!?」
「ごめっ……うぅ……ごめんよぉ……アイシャ……うぅぅ……っ!」
アイシャが目を見開いて厚樹少年に駆け寄る。
厚樹少年は心配をかけないようにと腕で目元を擦るけれど、その瞳からは涙が溢れ続けていた。
「ごめん……ごめんね……ぐすっ……ア、アイシャが……アイシャの方が……さ、寂しいのに……僕が……うぅ……僕が、泣いちゃ……駄目なのにぃ……」
「アツキ……」
何度も何度も笑顔を作ろうとするけれど作れない。
涙でグシャグシャになった顔に、アイシャを想うその言葉に、仲睦まじい二人は何も言えなくなってしまう。
その気持ちは俺も早霧も痛いぐらいに分かる。
だから本当ならフォローを入れるべきだと思ったけれど、その必要はないみたいだった。
「……ば、ばかやろーっ!!」
厚樹少年の隣にいた、太一少年が叫んだからである。
「……えっ!?」
「……タイチ?」
突然の大声に驚いた二人が太一少年を見る。
太一少年は右手の拳を握り締めながら、一瞬どうして良いか分からず固まった後にその手を高らかに天に挙げた。
「な、泣きたい時は泣いて良いって……父ちゃん言ってたぞ!!」
それは完全な勢い任せかもしれない。
でも二人の為に真っ先に動き出したその想いは本物だった。
「お、男は好きな女の前では涙を流さないのがカッケーけど……本当に大事な時に泣けない男はサイッコーにカッコワリーんだぞ、厚樹!!」
「……た、太一」
「ていうか! さあ! 厚樹!! それとアイシャも!!」
太一少年がキット二人を睨む。
「……う、うん」
「……ナ、ナニ?」
「俺だって寂しいんだよばかやろー!!」
「わぁっ!?」
「ヒャッ!?」
そしてそのまま両手で、二人を巻き込んで抱きしめる。
それはラジオ体操前にアイシャがやっていた事とまるっきり同じだけど、不器用で真っ直ぐすぎる熱い抱擁だったんだ。
「友達と会えなくなるのが、このメンツで遊べなくなるのが寂しくないわけねーだろばーか! ばーか!!」
「た、太一……!?」
「く、くるしー……!?」
流石は男の子なのか。
完全に二人をホールドした太一少年が叫びに叫ぶ。
そんな彼の想いが込められた肩を、厚樹少年とアイシャは何度も叩いていた。
「ちょっとアンタ! 何勝手な事言ってんのよ!!」
「そ、そうだよぉ……!」
その様子をずっと見ていた真里菜と美玖も動き出す。
しかしいつもと違うのは、太一少年に厳しい真里菜だけじゃなく、美玖もこの状況に食ってかかったという事だ。
「アタシだって寂しいのよー!!」
「わ、私もだよぉ……!!」
「え、えぇ……!?」
「ミ、ミンナ……!?」
そして、二人も厚樹少年とアイシャを囲むように抱きしめる。
くっつきラジオ体操の時に三人が独自に編み出していた三角形で輪を作るように、厚樹少年とアイシャを完全に包囲してしまったんだ。
「いつもいつも見てるこっちが恥ずかしくなるやり取りばっかしやがって!!」
「仲良しで羨ましいけど、見てるとやっぱり、ちょっと気まずくなるのよ!!」
「で、でもそんな二人と、一緒に遊べるの、す、すごい楽しいんだよ……!!」
幸せ三角関係トリオの三角形包囲網による抱擁。
ラジオ体操で恥ずかしがっていた三人は、揃って厚樹少年とアイシャに思いの丈をぶつける。
「だ、だから……な、なき……泣きたい時は、泣けよちくしょぉ……!!」
「あ、アンタが……ぐす……さ、先に泣いて……どうすんのよぉ……!!」
「ま、真里菜ちゃんも……うぅ……い、一緒に、泣いてるよぉっ……!!」
そのまま、三人は大きく泣き出してしまった。
連鎖的に広がっていく純粋な涙が、混乱と驚きをかき消して繋がっていく。
「み、みんなぁ……!」
「う、うぅ……」
その想いが、涙が、二人にも伝わっていく。
そしてそれは、厚樹少年の涙をまた溢れさせるきっかけになった。
「あ、ありがとぉ……! うぅぅ……や、やっぱりやだよぉ……! あ、アイシャと……離れたく、ないよぉ……!!」
「……っ!?」
三人に囲まれながら、厚樹少年がアイシャを抱きしめる。
アイシャを想って、言いたくても言えずに、隠していたんだろう。
その言葉を聞いた瞬間に、今日ずっと笑顔だったアイシャの瞳にも涙が浮かんだ。
「あ、アツキぃ……」
「お、俺達もいるぞ!!」
「そ、そうよ、アタシ達も寂しいのよぉ!!」
「こ、このまま静かにお別れは嫌だよぉ……!!」
「タイチ、マリナ、ミク……!」
声が、震える。
「あ、アイシャも……アツキと……み、ミンナと……お別れ……や、やだぁ……」
アイシャの瞳からも、ボロボロと大きな涙がこぼれ出した。
「僕だってやだよぉ……! アイシャとずっと、一緒にいたいよぉ……!」
「俺だって嫌だよ! このまま全員で毎日楽しく遊びてーのによぉ……!」
「卒業だってまだなのに! 何でお別れしなくちゃいけないのよぉ……!」
「み、みんなで一緒に……同じ、中学に……行きたかった……よぉ……!」
厚樹少年が、太一少年が、真里菜が、美玖が。
「う、うぅ……」
そして、アイシャが。
いや、全員がその瞳から純粋な涙を流して。
『うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ……!!』
大きな涙と、真っ直ぐすぎる気持ちが、公園に響き渡ったんだ。




