第313話 「アイシャちゃん!!」
「はーいみんなお疲れさまー! 今日もスタンプ押しちゃうよー!」
「よっしゃー! 今日も俺が一番乗りだぜー!」
「あーっ! アンタいっつもそうやって抜け駆けするんじゃないわよー!」
「な、仲良くしようよぉ……!」
ラジオ体操が終わり、いつものように早霧が笑顔で声をかける。
今日も真っ先に駆け寄ったのは元気いっぱいな太一少年で、その後ろに真里菜、美玖と続いていた。
ついさっきまでは仲良く顔を赤くさせながらラジオ体操をしていたと言うのに、子供の切り替えというものはとても速いのである。
「よーし! 七月コンプリート!」
「そうは言ってもまだ一週間とちょっとじゃないの!」
「に、二枚目も、頑張ろうね……!」
早霧にスタンプを押してもらった幸せ三角関係トリオの三人が賑やかに語りあう。
そう、彼らにはまだこれから八月が訪れるのだ。
だけど、一緒に八月を迎えたくても迎えられない人もいる。
「オネエチャン!」
「アイシャちゃん! スタンプあーげる!」
「わーい!」
アイシャだ。
彼女は今日を最後に、来週からは病気の祖母の家があるイギリスへ行ってしまう。
許嫁でとても仲が良い厚樹少年とも、もうすぐお別れなのだ。
だけど彼女は明るく、満面の笑みで早霧からスタンプを押してもらっている。
ラジオ体操前には俺達が寂しくないようにと、ハグをしてくれた。
アイシャはとても優しくて、強い女の子だ。
「アツキもアツキもー!」
「うん! 早霧お姉さん、お願いします!」
「もっちろーん! 厚樹くんにも、ぽちーっと!」
そんなアイシャの隣で厚樹少年もスタンプを押してもらっている。
出会った時からずっとアイシャに寄りそっていて、その姿は昔の俺と早霧を見ているようだった。
そう考えると厚樹少年も、とても心が強い。
俺だったら早霧と離れ離れになるなんて絶対に耐えられないからだ。
少しの旅行ならまだしも次にいつ会えるか、一緒に過ごせるようになるかは不明。
夏休みが終わっても、俺は二人の力になりたいと思うんだ――。
「じゃあみんな、ちゅうもーく!!」
――そしてこれは、その第一歩。
全員にスタンプを押した早霧がもう一度元気よく手を挙げた。
「お! 何だ何だ!?」
「どうしたんですか?」
「ほ、他にも仲良しになれるの、やるとか……?」
「アイシャずっと見てるー!」
「僕もすぐ横にいますので大丈夫です!」
ノリと反応が良い小学五年生達は揃って早霧に注目した。
ラジオ体操前の恥ずかしがりが嘘のように、早霧は全員の視線を集めながらも全員に笑顔を振りまいていく。
「なんと今日は! 選ばれた人に特別なプレゼントがありまーす!!」
「うおおおおおっ! マジでー!?」
「ちょ、うるさ!? アンタって決まった訳じゃないでしょ!?」
「で、でも楽しみだね……!」
「アツキ! アツキ! プレゼント!」
「貰えると良いね、アイシャ!」
ハードルが上がるのなんて、なんのその。
勢いに乗った早霧は全員を期待させていく。
普段なら大丈夫かと心配になる所だけど、誰かの為に頑張る早霧は無敵なんだ。
「じゃあ発表します! ジャカジャカジャカジャカジャカジャカ、ジャン!!」
独特なセルフドラムロール。
全員の視線が集まる中で、早霧が手を差し伸べたのは――。
「アイシャちゃん!!」
「やったー!!」
――もちろん、アイシャだ。
「えー、アイシャかー、良いなぁー!」
「おバカ! アンタは期待しすぎなのよ!」
「あ、そっか……アイちゃんは……」
「……良かったね、アイシャ」
選ばれなかった幸せ三角関係トリオと、厚樹少年がそれぞれ反応をする。
厚樹少年はもちろんのこと、三人の中では美玖も気づいているようだった。
「じゃあアイシャちゃん、こっちへどうぞ!」
「うん!」
ちょっとだけ二人が移動して。
さっきまで座ったベンチの前に向かい合って並ぶ。
その姿は朝礼で校長先生にこれから表彰される生徒みたいだった。
「九重アイシャちゃん! アイシャちゃんは七月の間、毎日ラジオ体操に来てくれて見事スタンプを全部埋める事が出来ました! 初日に言ったようにぃ、そんなアイシャちゃんには可愛い可愛いプレゼントだよー!!」
「わーっ! ニャーンちゃん!!」
早霧はベンチの裏に隠していた紙袋から青色の猫のぬいぐるみをプレゼントする。
その明るく可愛いお祝いには悲壮感なんてものは一切無く、アイシャも笑顔で受け取った。
「アツキ! みんな! ニャーンちゃん!」
「可愛いねアイシャ!」
「猫のぬいぐるみか……流石に俺の趣味じゃねぇな……」
「だから何でアンタが貰う前提の話なのよ!」
「で、でも可愛いね……!」
青色の猫のぬいぐるみを大事そうに抱えたアイシャが全員に見せていく。
早霧が選んだぬいぐるみで、こうして喜んでもらえて凄く良かったと思うし、俺も心の底から嬉しい。
「じゃあ、厚樹くん!」
「……えっ?」
だけど、プレゼントはこれで終わりじゃないんだ。
「朝日ヶ丘厚樹くん! こっちへどうぞ!!」
「ぼ、僕もですか!?」
このプレゼントは、二人が持ってこそなのだから――。




