第312話 『ラジオ体操第一~!』
『ラジオ体操第一~!』
アイシャが厚樹少年に後ろから抱きついた瞬間、スマホからラジオ体操の音源が流れ出す。
その突然の行動に俺も一瞬思考が停止した瞬間、次に動き出したのは早霧だった。
「よーし! やろーう!」
「早霧っ!?」
「ほらみんなも私達に真似してねー!」
早霧が後ろから抱きついてきて、俺の両手を掴む。
密着した背中から伝わる大きな胸の柔らかさが、俺の抵抗しようとする意識を奪っていった。
『腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動~』
「こうやって、女の子が前にいる男の子と一緒に運動するんだよー!」
「ぐっ……」
早霧が俺を操りながら説明する。
大好きなアイシャの為なら恥ずかしさは消えるらしい。
さっきまで照れまくっていた早霧は何処に行ってしまったんだろうか。
『手足の運動~』
「ま、マジでやるのか……!?」
「さ、流石にそれは恥ずかしいですよ……!」
「で、でも、ちょっと……良いなぁ……」
だけどマトモな、普通の感性を持っている人もいた。
太一真里菜美玖の幸せ三角関係トリオである。
突然始まったくっつきラジオ体操を見て純情な三人は揃って顔を赤くして、お互いに視線を右往左往しながらドギマギと普通のラジオ体操をやっていた。
『腕を回しま~す』
「アーツキ! アーツキ!」
「あはは! アイシャ、もっとゆっくりだよ!」
そんな彼らの横で許嫁の二人は愛あるラジオ体操を進めている。
愛あるラジオ体操って何だって話だが、厚樹少年もアイシャも凄く良い笑顔だった。
『足を横に出して胸の運動~』
「あ、厚樹……マジかお前!?」
「す、凄いわアイシャ……よくそんな堂々と出来るわね……!?」
「た、楽しそう……」
仲睦まじい二人を見て三人が動揺している。
何かフォローを入れてあげたいが、俺も早霧に捕まってしまっていて何も出来なかった。
『腕を上下に伸ばす運動~』
「そうだよみんなー! このくっつきラジオ体操はね、好きな人の事がもっと好きになれるラジオ体操なんだー!」
「……らしいぞ」
否定が出来ない俺がいた。
ウキウキしながら俺と一緒にダンスでもしているかのようにラジオ体操をする早霧がまだ困惑している三人に語る。
さっきのベンチの仕返しなのか無意識なのか、後ろから俺の肩に顎を乗せてきていて、密着度はより上がっていた。
『身体を回す運動~』
「好きな人を、もっと好きに!?」
「好きな人って……た、太一と、美玖と……」
「や、やろうよ太一くん! 真里菜ちゃん!」
そこで動きがあった。
どんどん動揺する三人の中で、一番大人しかった麦わら帽子がトレードマークな女の子、美玖が二人の手を掴んだんだ。
『両足飛びで~す』
「み、美玖!?」
「アンタ何を!?」
「わ、私もみんなと一緒にやりたい……! こ、こう、ぴょーんぴょーん……!」
そして動きはジャンプに変わる。
美玖は二人の手を握りながら精一杯に飛び跳ねた為、それに太一少年と真里菜も動きを合わせるしかなかった。
『手足の運動~』
「さ、最後だけだからな……」
「あ、アタシも、ちょっとだけなら……」
「えへへ、やったぁ……」
くっつきラジオ体操ではないけれど。
三人は輪になって、お互いの手を握り合いながら身体を動かしている。
どうやら彼らの中での正解を見つけたようだった。
『深呼吸~』
「みんなー、お疲れさまー!」
「……急に始めたけど、みんなお疲れ」
「オネエチャン! たのしかったーっ!」
「蓮司お兄さんも、ありがとうございました!」
「ま、まぁ……こういうのも、たまには、良いんじゃね……?」
「そ、そうね……くっつくのは恥ずかしいけど、手を握るぐらいなら、ね……?」
「こ、今度はもっと三人で仲良しになろうね! 太一くん、真里菜ちゃん……!」
そうして七月最後のラジオ体操が終わる。
紆余曲折あったけど、最後はみんな良い笑顔だった。




