第311話 「ミュージックスタート!」
「あー。今日はお祭りがあるからいつもより少しだけ早く集まってもらった訳だけど、みんな体調は……んー、眠かったりしないか?」
「ダイジョウブ!」
「僕も大丈夫です!」
「俺もバッチリだぜ!」
「いやそれアンタが待ち合わせギリギリまで寝てたからでしょうが!」
「わ、私も大丈夫、です……!」
アイシャを筆頭に。
厚樹少年や太一達が元気よく手を挙げる。
小学生の元気はもちろん、どうやらこの中で朝に弱いのは俺だけのようだ。
だけど今日はやたらと朝早くに目が覚めたのでもう眠気は存在しない。
それを抜きにしても朝から色々ありすぎたので、目が覚めない方がおかしかった。
「だ、だいじょぶー……」
まあそのせいでおかしい早霧が、俺の後ろに隠れているんだけどさ。
何て言うか、初めてアイシャと会った時みたいである。
あの時はアイシャが厚樹少年の後ろに隠れてたもんなぁ……
「オネエチャン、どうしたの?」
「お姉ちゃんはな、まだ猫ちゃんの世界にいるんだ」
「ニャー?」
「にゃーだな」
「な、何でそれで通じ合ってるの!?」
あ、帰ってきた。
しおらしい早霧も昔を思い出して好きだけど、今はラジオ体操の前だったからこれで安心だ。
それこそしおらしい姿は俺の前でだけ見せてほしい。
「何でって……小さい時の早霧ともこうしてただろ?」
「そう、だけどぉ……」
あまり俺を舐めないでいただきたい。
何十、いや何百回、早霧の好きなぬいぐるみと一緒におままごとをしてきたと思っているんだろうか。
まあ俺の話は置いておいて、今は早霧とラジオ体操が優先だった。
「それよりも、しっかりラジオ体操やってアイシャ達にプレゼント渡すんだろ?」
「!!」
こっそり早霧に耳打ちをすると、淡い色の瞳がクワッと見開かれた。
アイシャの事になるとめちゃくちゃお姉さん気質になる。
めちゃくちゃ分かりやすいな……。
「よーし! みんなー! 今日も元気にラジオ体操いってみよー!」
「ワーイ!」
「ねえさん復活はええな!?」
やる気になった早霧が笑顔で手を挙げて号令をする。
早霧の事が大好きなアイシャがそれに続き、いつも純粋な反応をくれる太一少年が気持ちの良いツッコミを入れていた。
「さあ蓮司、ミュージックスタート!」
「ラジオ体操を何だと思ってるんだお前……」
早霧がパチンと指を鳴らす。
だけど俺はまだスマホを取り出していないの、そんなすぐに始められる筈が無い。
「オネエチャン! オネエチャン!」
「どうしたのアイシャちゃん!」
俺がポケットからスマホを取り出しアプリを立ち上げている間に、アイシャが早霧に話しかける。
さっきまでの照れ顔が嘘のような良い笑顔だった。
「アイシャね、アレやりたい!」
「良いよ! ところでアレって?」
良いよって答えてから内容を聞くんじゃない。
そう思いながら、ミュージックアプリが開けたので再生ボタンを押す。
全員が聞こえるように音量確認をして――。
「コレー!」
「あ、アイシャ!?」
「な、何だ!?」
「アイシャ何してるの!?」
「あ、アイちゃんが、あっくんにぎゅって……!?」
――アイシャが、後ろから厚樹少年に抱きついた。
その姿を見た太一真里菜美玖の幸せ三角関係が当然のように顔を赤くする。
『ラジオ体操第一~!』
それと同時にスマホから大音量で流れ出す音楽。
「オネエチャンも! マリナもミクもー! やろー!」
アイシャが率先して厚樹少年を後ろから抱きしめてその両手を握る。
それは俺達が初めて出会った時、厚樹少年の後ろに隠れていたアイシャの為に早霧がやりだした……くっつきラジオ体操だった。




