第301話 「スクミズ……談議?」
「おはよう。何だ今日は朝から皆いて賑やかだな……いてて……」
「パパさん! おはようございます! 腰、大丈夫ですか?」
「ありがとう早霧ちゃん。歩けはするんだけど、かなり痛くてなぁ……」
リビングにて。
母さんの生暖かい視線から逃げるように飲み始めた二杯目の麦茶を俺と早霧がチビチビと飲んでいると、今度は寝間着姿の父さんが現れた。
起きてそのままリビングに来たのか髪は寝ぐせで跳ねていて、今更だけど我が家における早霧の馴染みっぷりが凄いなと思った。
まあ子供の頃からずっと一緒にいた幼馴染なので母さんが言う通り本当に娘当然の存在なのだろう。
「あらアナタ。出かけるのはお昼前なんだし、もっとゆっくりしてて良かったのに」
「ははは。この後の入院が、その、怖くてな……」
「やーね。子供達の前で、子供みたいな事言って」
「分かりますパパさん! 入院、怖いですよね……」
「おぉ、分かってくれるか早霧ちゃん……!」
父さんは母さんとそんな軽口を言い合いながら俺達の対面、母さんの隣に座る。
そんな父さんの入院が怖いというワードに、子供の時に凄く病弱だった早霧が食いついた。
早霧が言うと説得力が凄いな……。
「うんうん。やっぱり、娘って良いなぁ……」
「……そのやり取り、さっきやったんだよ父さん。後、実の息子を忘れないでくれ」
「おお蓮司。分かってるぞ、退院したら父さんと好きなスク水談議……しような?」
「しないぞ!?」
「スク水……談議?」
「父さんの戯言! 父さんの戯言だから!!」
「朝から馬鹿ねぇウチの男どもは……」
父さんからも完全に娘認定の早霧だ。
さっきも見た流れだけどやっぱり実の息子としては黙っていられない。
だけど言ったら言ったで予想外の所からとんでもないカウンターが来たし、隣に座っていた早霧がほんのちょっとだけ俺から離れた。
とんでもないとばっちりな気がする。
「まあ皆集まったし早いけどご飯にしましょ。準備するからちょっと待っててね」
「あ! ママさん私も手伝います!」
「ありがとう早霧ちゃん。でもゆっくりしてて? 今日もラジオ体操とお祭りのお手伝いもあるんでしょ? こっちは大丈夫だから、そっちで怖がりなウチの旦那と早霧ちゃんの事が好きすぎるウチの息子の相手してて!」
「母さんっ!?」
流れ弾が凄い。
ただ早霧が母さんの手伝いをしようとしただけなのに、何故か俺にとんでもないキラーパスが飛んできた。
間違いじゃないし嘘じゃないけど、家族全員が揃った場で急にこれを言われるのはとんでもなく恥ずかしい。
「えへへ、任されちゃった」
「それで良いのかお前……」
「だって蓮司。私の事、好きでしょ?」
「それは、まぁ、そう、だけど……」
「じゃあ良いもーん!」
椅子から立ち上がった早霧がすぐに座り直し、はにかみながら俺の顔を覗く。
そんな可愛すぎる親友の問いに、俺は自分の顔が熱くなるのを感じた。
「青いなぁ……青春の熱か、懐かしい。その熱さで、俺の腰も治らないかなぁ……」
それを父さんは俺達の対面から、新聞を広げて微笑ましく見ているのだった。




