第288話 『はなび!』
『れんくん! たいいん、おめでとー!』
最近毎日見る昔の夢。
昨日は未来というか俺の妄想の夢だったけど、今回は間違いなく夢である。
白く大きな病院の入り口で、幼いころの早霧が俺を満面の笑みで迎えに来てくれた事はハッキリと覚えているからだ。
『さっちゃん! ありがとー!』
『れんくん! れんくん!』
小さな早霧が俺に飛びついた。
子供のころはずっと俺が早霧の看病をしていたから、その逆の立場になった早霧はすごく心配だったんだろう。
『さっちゃんくるしい! くるしいよー!』
『だってれんくん! れんくんがれんくんなんだもん!』
早霧が俺に抱き着き、一緒に迎えに来てくれた父さんと母さんが微笑ましくそれを見つめる。
感極まると何言ってるかわからなくなるのは子供の時から今も変わっていなくて、夢を見ている俺も嬉しくなる。
『れんくん、はなび! はなびしよ!』
『はなび?』
『うんっ! おまつり! はなび、なかったから!』
駐車場に停まった車の中で。
一緒に後部座席に座った早霧は後ろから大きな花火セットを取り出した。
それは子供が持つには大きなサイズで、大小様々な行楽用の花火が入っている。
色取り取りに梱包されている花火を抱えながら、早霧はキラキラと目を輝かせた。
『いいよ! さっちゃんがしたいなら、いっしょにやろうね!』
子供の時の早霧はお祭りといえば花火のイメージを持っていたけれど、俺たちの暮らす街で夏祭りが行われる神社は小さな山とも言える林の中にあるので打ち上げるような花火を行えなかった。
その話を夏祭り前にしてたから、俺が入院してる間に用意してくれたんだろう。
『うんっ!!』
俺の返事に、早霧は大きく笑った。
その心からの笑顔に、昔の俺も夢を見ている俺も幸せな気持ちになったんだ。
◆
「う、ん……?」
不思議な朝だった。
俺はいつも寝起きが悪いのに、今日は独りでに目が覚めたんだ。
カーテンの向こう側、窓の外は薄っすらと明るい。今日は七月三十一日だから日中に太陽が出る時間は長く、俺が思っているよりもまだ朝早い時間なのだろう。
そんな事を寝起き一発目の朝にそんな事をスラスラと思いつくぐらいには、頭の中がスッキリした朝だった。
「…………」
ベッドの上で寝返りを打ってボーっとする。
予想外に出来た朝の時間で、ゆっくりと夢の内容を思い出し始めた。
子供の時の俺が退院した日。
迎えに来てくれた早霧が花火セットを持ってきてくれた。
その日の夜は一緒に花火を楽しんだ記憶もある。
俺は早霧のやりたい事を一緒にやって、笑顔を見るのが昔から好きだ。
それが俺の生きる理由と言っても良いだろう。
「さぎり……」
その名前を呼ぶだけで幸せになる。
世界で一番愛しくて大切な親友の名前。
「早霧……」
繰り返すように名前を呼ぶ。
昨日も一緒のベッドで寝て、夢でも見るぐらい大好きな顔が見たくて――。
「……早霧?」
――そこで俺はようやく、早霧が隣にいない事に気がついたんだ。




