第271話 『ひょ……わ……?』
くじ引きの色は赤と黒。
さっきは俺とユズルが黒で、早霧草壁長谷川の三人が赤だった。
そして今回も全員が同時に割り箸のくじを引いて。
「黒!! 今までの俺とは違うぜ! 今回は黒だっ!!」
「なっ……!?」
真っ先に叫んだのは、やっぱり長谷川だった。
その声に、俺は思わず驚きの声を漏らしてしまう。
何故なら黒の割り箸が二本だけなのは、さっき俺とユズルが黒の割り箸を引いて同じチームになった時点で分かりきっている事だからだ。
この時点で長谷川がユズルとペアになれる可能性は完全に四分の一。
いやもう全員くじを引いているので、答えは決まっているのだろう……。
「ゆずるちゃんはっ!?」
乙女のように長谷川が小さく見える割り箸を両手で握りしめながら、隣に座るユズルを見た。それにつられて俺や早霧、草壁も自分の割り箸ではなくユズルに視線を向ける。
自分の割り箸よりも、ここまで全力で好きな人を追い求めている男の行く末が気になってしまうのだ。
「ゴウ……私、は……」
ユズルが、自分の割り箸を胸に抱く。
いつも明るく元気はつらつなその顔が、一回下に俯いた。
「ゆ、ゆずるちゃんは……?」
長谷川が聞き返す。
大きく生唾を飲み込んだ音が、自分らしさ研究会の部室に響き渡り――。
「…………黒だよっ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
――ユズルは、満面の笑みで黒の割り箸をかざす。
逆境の運命に打ち勝った大男は、歓喜の大声を響かせた。
「おめでとー!!」
「おめでとな長谷川! だけどうるさい!!」
「み、耳がキーンとしますけどぉ……おめでとうございますぅ……!」
「ありがとう! ありがとう! ありがとう!!!!!!!!!!!!!!!!!」
だからうるさいって。
そう言っても止まらないレベルの喜びっぷりだった。
ゴミ拾いから数えたら三回目のくじ引き。
そして念願のユズルとのペアだった。
あれだけ妙な儀式をするレベルで願っていた事が叶った喜びは、近くで見ていた俺たちも自然と嬉しくなるぐらい純粋でキラキラした想いだった。
「みんな、ありがとねっ! だけどゴウ! 大きな声出すとびっくりしちゃうから、あんまり出しちゃ駄目だよっ?」
「ご、ごめんよゆずるちゃん……!」
隣にいたユズルも嬉しそうだ。
身長は圧倒的に長谷川の方が大きいけど、ユズルの注意にタジタジである。
でもどちらも幸せそうで仲睦まじく、やっぱり相性抜群だなって思った。
「……まあ、そうだよな」
幸せいっぱいの二人を眺めながら、俺は自分が引いた割り箸の色を確認する。
やっぱり赤だった。
残りの二つも、もう見なくても分かる。
午後は俺と早霧と草壁の三人だから、全員の願いが叶った結果になっ――。
「あっ、私も黒だ!」
「は?」
――たと、思った。
早霧が、黒に塗られた割り箸を俺たちに見せるまでは。
「ひょ……わ……?」
そしてその手前に座る草壁と、俺は自然と目が合った。
その長い前髪で見えないけどきっと驚愕の表情を浮かべている目隠れ巫女の手には、俺と同じ赤色で塗られた割り箸が握られていたんだ。




