第264話 『お、俺たちも着るのか……!?』
「ひょわ……ひょわわぁ……」
草壁が巫女服姿で部室に現れた。
純白の衣の背中には大きなリュックを背負っていて、黒髪との調和と通学用リュックのアンバランスさがまた絶妙である。
そんな草壁が俺たちの前に立ち、恥ずかしそうに背中を丸めていた。だけどその両手はリュックの背負い紐を持っているせいで塞がり、恥ずかしいのに棒立ちという不思議な状態である。
草壁と言えば首絞めの印象が強いが、普通の羞恥に耐性は無いみたいだった。
「ひなちんひなちん! その服どうしたの! すっごい似合ってるよ!」
「ひょわ……そ、そんな私なんかぁ……お、恐れ多いですよぉ……」
「そんなこと無いよ! ねっ、ゆずるん!」
「うんうんっ! ヒナちゃんすっごい似合ってるよっ! 本物の巫女さんかと思ったもんっ!」
「ひょわぁ……!」
そこに可愛いもの大好きな早霧が即座に立ち上がり褒めちぎる。
草壁は全力で首を振って否定したが、そこにユズルの追撃も加わり完全に逃げ場を無くしてしまった。
「ど、同志ぃ……」
「似合ってるぞ?」
「ひょわっ!? ふ、複雑な気分ですよぉ……!」
長い前髪の奥から草壁が救いを求める視線を俺に送ってくる。
だけど似合ってるのは事実なので、俺は特に助ける事はしなかった。
「それでそれで! ひなちん、その巫女服どうしたの?」
「こ、これはですねぇ……え、えっとその……お二人には、公園でラジオ体操に行った時に、町内会の集まりがあったって言ったじゃないですかぁ……」
「えっ!? ヒナちゃんもラジオ体操行ってくれたの!? ありがとねっ!」
「ひょわっ……いえ……ひょわぁ……!」
「草壁がお前たちに挟まれてるせいでテンパってるぞ」
しどろもどろになりながら説明しようとする草壁に、我らが自分らしさ研究会の会長ことユズルがその手を掴んでお礼を言う。
それによってキャパシティオーバーを引き起こしたらしい草壁は目をグルグルと回していた……と、思う。
目が隠れているのでどういう素顔してるのか今でも分かってないんだよな、草壁。
「で、ででで、でですね……町内会の皆さまとお話をしている時にですねぇ、ゴミ拾いからこの部活のお話になりましてぇ……わ、私もお手伝いさせていただきますよぉとなったら偉い人が喜んだと言いますかぁ……な、何でも今年の夏祭りは色々と力を入れているそうでしてぇ……で、その……話題作りの一環としてこちらををを……」
草壁は喋った。
精一杯、喋った。
喋り過ぎて最後の方は壊れたロボットみたいになっていた。
草壁は性格こそ暗めで自己評価も低いみたいだが、大家族の長女で子供たちにも好かれやすく知り合いも多いし勉強もトップクラスとかなりハイスペックなのに。
せめて自己評価だけでも上がればもっと良くなると思ったのだが、自己評価が高い草壁はもはや草壁じゃないんじゃないだろうかなんて思ったりもする。
満面の笑みで首を絞めてとお願いしてくる草壁とか、やっぱりホラーだ。
「じゃあつまりひなちんは夏祭りで町の巫女さんになるんだね! すごいよ!」
「い、いえ……そのぉ……わ、私だけじゃなくてぇ……」
「え?」
褒められ慣れていない草壁は逃げ出すように背負っていた通学用リュックを机の上に置き、慌てた様子で中に手を突っ込んで。
「み、皆さんも良ければ協力してくださいってぇ……い、言われましてぇ……」
「わあっ!」
綺麗に折りたたまれた、巫女服を取り出して机に広げた。
それにより茶色一色だった机が紅白に彩られていく。
「これ、私たちも着て良いの!?」
「は、はいぃ……ぜひともってぇ……か、勝手に決めて申し訳ないですぅ……」
「そんなことないよっ! こんなに可愛い巫女装束を着れるなんて、すごく嬉しいっ! ありがとねヒナちゃんっ!」
「えへ、えへへへへぇ……」
早霧とユズルが歓喜し、草壁はこれでもかと口角が吊り上がっていた。
長い前髪で物理的に目が見えないので、口の変化が良く分かる。
「な、なあ赤堀……」
「ん? どうした長谷川、そんな小声で」
「み、皆さんってことは……お、俺たちも着るのか……!?」
「そんな訳ないだろ」
何で顔を赤らめてるんだよお前は。




