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【書籍化決定】ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
第八章 俺たちは……勝ちたい

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第263話 『い、いますよぉ……?』

「もぉ……嬉しいのは分かるけど、ちょっとゴウは感激しすぎだよ!」

「ゆずるちゃん……ごめん……」

「で、でもそこが、ゴウの良い所で、す、好きなところだよ……?」

「ゆ、ゆずるちゃん……っ!!」


 長谷川の暴走から少しして。

 ようやく落ち着いてそれをユズルが注意したと思ったら、また暴走が始まりそうだった。

 顔を赤くしてモジモジするユズルが初々しくて、それにつられてマグマのように顔が真っ赤になる長谷川もまた初々しい。


 ただそれを間近で見せられる側に立つと、何だか身体がむずがゆくて恥ずかしい。

 ひょっとして俺と早霧のやり取りを見られていた時も、周りはこんな気持ちだったのだろうか。


「ゆずるんと長谷川くん、お似合いだよね」

「まあ、俺たちと同じで二人も付き合い長いからな」


 告白をして恋人になったのはつい先日だけど、二人も言ってしまえば幼馴染だ。

 ただお互いに純情すぎるので付き合い出した事によって少し空気感が変わったのも間違いない。


 そう考えると、俺と早霧が純情じゃないみたいに聞こえるの良くないな……。


「でも、私たちも負けてないよ……?」

「さ、早霧……!?」


 俺の言葉に対抗心を燃やしたのか、早霧が距離を詰めてくる。

 距離を詰めると言ってもお互いに隣り合った椅子に座っているので、その動きは小さく、だけど露骨だった。

 具体的には俺の太ももに手を置いて、顔を見上げて身を乗り出してくる。

 一気に近くなったその綺麗な顔は、つい数時間前のキスを思い出させるには十分すぎて。


「ど、ドキドキ……!」

「み、見ちゃ駄目だゆずるちゃん……お、俺たちにはまだ刺激が……!」


 それをバッチリ、ユズルと長谷川に見られていたんだ。

 咄嗟に俺と早霧は距離を取る。だけどもちろん、手遅れだった。 


「わ、私たちは気にしないで……続けて?」

「あ、あぁ……俺たちは、じぶけんだしな……!」


 まるで恥ずかしいものを見たかのように、二人の目が泳ぎまくっていた。

 自分らしさ研究会の狭い部室に、とんでもなく気まずい空気が流れ出す。


「そ、それよりも……草壁は、どうしたんだ……?」

「そ、そうだよひなちん! ひなちん遅いね!?」


 この空気を変えたくて、俺は必死に話題を探す。

 しどろもどろになりながら何とかひねり出せた話題に、早霧は全力で乗っかってくれたので助かった。


「あっ、確かに……。ゴウ、何か聞いてる?」

「いいや? ユズルちゃんと同じで昨日のグループチャットで明日はよろしくお願いしますって連絡来たのが最後だぜ……」


 早霧のおかげで二人の意識も草壁へと向いた。

 元々早霧が原因で話題を変える破目になったのだが、まあこれから部活をする上で草壁がいないと始まらないので、早霧は後で問い詰める事にしよう。


「い、いますよぉ……?」


 すると、自分らしさ研究会の部室入り口から正に今探している人物の声がする。


「うわぁっ!?」

「うおっ!?」

「び、ビックリしたぁ……!」

「な、何で隠れてるんだ……!?」


 上から、ユズル、長谷川、早霧、俺の順番で声をあげる。

 何故なら換気の為にずっと開いていた部室の扉から、草壁がずっと顔だけを出してこちらを覗いていたからだ。

 前髪が長く、常時目隠れ状態の草壁が、扉の影から顔を出して覗いていたというこの状況は友人の俺たちからしてもホラーにしか見えなかった。


「す、すみませぇん……お、驚かせてしまいましたかぁ……?」

「い、いやまあ……うん……」


 草壁はまだ、顔だけを出して覗いている。

 それにユズルが自分の胸を押さえながら小さく頷いた。


「み、皆さん盛り上がっていましたので、は、入りづらくてぇ……」

「そ、それはすまなかったが……草壁ちゃん、入ってきて、良いんだぞ……?」


 まだ草壁は入ろうとしない。

 これには元気とピュアが取り柄な長谷川も困惑を続ける。


「ひょわ……」

「どうしたの、ひなちん? 大丈夫?」


 短く鳴くように、いつもの口癖が草壁から漏れた。

 心なしか長い前髪の奥が赤い気がして、それに早霧も気づいたようだった。


「わ、笑いませんかぁ……?」

「笑う? むしろ俺たちがネタになってたのに、何を気にしてるんだ?」

「同志……それも、そうでしたね……」

「そこは否定してくれよ」


 何故か俺の時だけ素直になる草壁だった。

 だけどその正直さは、一周すると辛辣に変わるんだぞ草壁。


「で、ではお邪魔しますぅ……」


 俺の犠牲で、草壁はゆっくりと、警戒する小動物のように姿を露わにしていく。


「わっ!」

「おぉっ!」

「可愛いっ!」


 それに俺以外の三人がすぐ反応した。

 その理由は、草壁が着ている服にあったんだ。


 制服ではなく、小袖に袴と伝統的な衣装。

 極めつけは白と紅というその特徴的な色にあるだろう。

 それは神社で見る巫女装束そのもので、黒髪で落ち着いた印象の草壁が着る事によって和の雰囲気がこれでもかと発揮されていて。


「あ、あまり見ないでくださいよぉ……」


 目隠れの巫女、草壁が恥ずかしそうに部室に入ってきたのだった。

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