第259話 「んんんんんんんんんーっ!?」
「くーるーしーいー……」
早霧が目を閉じながら呟いている。
当然それは嘘で、ただのキス待ちだった。
ただ問題なのはこの場所と早霧の恰好である。
風呂場で、スクール水着姿で、仰向けに寝転がっていた。
ほとんど身体のシルエットそのままを映し出している裸に限りなく近い恰好で。
さっきまで一緒の湯船に入っていたので全身が髪まで濡れているような状態で。
無防備に俺のキスを待っていると言うこの状況は、とてもクルものがあったんだ。
「……仕方ないな」
わがままを言う親友の言いなりになるのは癪だけど、俺だってキスをしたいのは事実である。
湯船から出て早霧の隣に膝をついた。
綺麗で可愛い顔も水に濡れていて、いつもとは違う美しさを感じる。
人魚姫に恋をした人も、同じ気持ちなんだと思った。
「……早霧」
「……ん」
そっと早霧の頬に手を添える。
くすぐったいのか、ピクッと早霧のまぶたが動いた。
きめ細やかな肌。このまま頬に手を添える事も、首を撫でる事も、その下にある胸にいくのも自由だ。
だけど俺は頬から手を動かす気は無い。
早霧と、キスをしたいから。
「――んぅ」
唇いっぱいに柔らかい感触が広がる。
濡れているおかげか滑りが良くて、簡単にその内側に入る事が出来た。
「んっ、んむぅ……!?」
驚いた早霧の息が漏れる。
だけど舌同士が触れ合うとすぐに落ち着きを取り戻した。
ずっとぬるいお湯につかっていたのに、口の中は火傷しそうなぐらいに熱を帯びている。湯冷めで身体が冷えないようにゆっくりと舌を絡めていくんだ。
「ん……ちゅ……ぁ……ちゅる……ん……んぅ……ぅ」
舌を絡ませる度に早霧の甘い声が漏れる。
キスは何度もしているけれど、体感的に舌まで絡ませる深いキスは久しぶりな気がした。だからという訳じゃないけれど、止まれる気がまるでしなかった。
「んっ……んんっ……ん……んんん……んぐっ……!」
いつもなら息苦しくなって一度口を離すタイミングだ。
だけど俺はそのままキスを続ける。
早霧が寝ている俺の身体にキスをしまくったように、俺だって出来るならキスをずっとしていたかったから。
「ん……! んんー! んん! んんっ……!?」
早霧の吐息が大きくなってくる。
でも逃げ出すとか暴れるとかそういう素振りはまるで無くて、むしろ早霧の方から舌を絡めてきた。
息を忘れて早霧と唇を重ねるけれど、それでも息の限界はきてしまう。
唇を離そうとするけれど、何故か早霧の方から舌を伸ばしてきた。
離れたくないのだろうか。
仕方がないので俺は早霧の舌を唇で挟み、思いっきり吸ってみた。
「んんんんんんんんんーっ!?」
混ざりあった唾液の音が浴室に響きわたってから、唇を離す。
いつもより長い銀色の橋がお互いの口から伸びて、それが全部重力に従って早霧の顔に落ちていく光景は、直接的な表現だけど、とてつもなくエロかった。




