第253話 「何でそんな冷静なのっ!?」
「け、結婚!?」
「うん! 結婚! いつするのっ!?」
アイシャのキラキラと輝く蒼い瞳が早霧を射貫く。
二人は出会い頭に抱き合ったので、早霧に逃げ場は無かった。
「ど、どうして急にそんなこと聞くのかな……?」
「? だってオネエチャンもオニイチャンも、どっちも好きなんでしょ?」
「そ、そうだけどぉ……」
凄い。
あの早霧が押されている。
純真無垢なアイシャの質問に早霧はタジタジだ。
「け、結婚はまだ早いって言うか……私も蓮司もまだ、子供だしぃ……」
「オネエチャンもオニイチャンも大人だよ?」
「あ、アイシャちゃんから見たらね!?」
顔を真っ赤にしながらも何とか答えようとする早霧に、アイシャの追撃が続く。
俺でもキスが無ければあんなに早霧を追い込めないかもしれない。
「れ、蓮司ぃ……」
「大変だな早霧も」
「何でそんな冷静なのっ!?」
「一度通った道だしな」
「いつ!?」
ついこの前。
母さんが俺にいつ結婚するのかってぶっこんできたから。
早霧もかぁと、見ていてしみじみする。
「す、すみません蓮司お兄さん……アイシャが……」
「おお厚樹少年。おはよう。気にするな。俺は今のところ困ってないからな」
珍しくタジタジな早霧の様子を楽しんでいると、ようやく息を整え終えた厚樹少年が俺に話しかけてきた。
その表情から疲れは取れつつあるが根が真面目なのだろう、申し訳なさがこれでもかとにじみ出ていた。
「た、助けてよぉ……!」
「まあ、早霧はアレだけどな」
「あはは……すみません。昨日、読ませていただいた本にアイシャが夢中になってしまって……」
「本……? ああ、そう言えば草壁と一緒に本屋に行ったんだったか」
「はい。ひなお姉さんには僕たち大変良くしてもらって。そこでアイシャが貰った恋愛小説に夢中になってしまったんです。えっと、これなんですが……」
そう言って厚樹少年は小脇に抱えていたバッグから一冊の本を取り出して、俺に見せてくれた。
タイトルは『となりにいるおうじさま』
表紙には優しい絵柄で、学校の机に座る二人の男女のイラストが描かれていた。
「……なるほど。この本に影響されたと」
「はい。昨日夢中になって読み終えてからずっと、早霧お姉さんと蓮司お兄さんに聞くんだって……」
「そんな内容なのか、この本は?」
「えっと。僕はまだちょっとしか読めてないんですけど、幼馴染でずっと隣にいた高校生の二人が、お互いの気持ちに気づいて結婚するって話みたいです」
「…………なるほど」
言われてみると、何か似ている部分が多かった。
早霧のことだ。
アイシャと二人きりの時に、俺とのアレコレをあることないこと吹き込んでいたのだろう。
それにアイシャが感化されていた時にこの本と出会い、登場人物に俺と早霧を重ねたようだった。
……ふむ。
「アイシャ。そろそろ早霧を離してやってくれないか?」
「あっ! オニイチャン!」
「蓮司遅いよっ!?」
「すまんすまん。さてアイシャ。早霧との結婚なんだけどな、今こうしてアイシャが早霧に抱きついていると、早霧はアイシャのものになっていて、俺は結婚したくても出来ないんだ」
「れ、蓮司!?」
「だから離してやってくれないか? 早霧は俺の、大切なお姫様だからさ」
「……っっ! うん、わかった!!」
「ありがとうな」
今度はキラキラなお目目が俺を射貫く。
だけどアイシャは厚樹少年に似てとても素直な子なので、すぐに頷いて早霧から離れてくれた。
「れ、れれれれ、れんじぃ……っ!?」
「これでキスマークの件はチャラな」
ただ早霧の顔は赤いままで、嬉しいのか怒ってるのか分からない顔になっているけれど。
多分両方だろう。
まあ俺としては朝の仕返しが出来たので良しとする。
「おーっす! 兄さん姉さん! 厚樹とアイシャも! 今日は俺達が最後かぁ!」
「アンタが草壁お姉さんにもらった本に夢中になって夜更かしするからでしょ!」
「で、でも太一くんも真里菜ちゃんも本を好きになってくれて私は嬉しいよ……?」
そこに遅れてやってきた三人の声が響いた。
太一、真里菜、美玖の幸せ三角関係トリオの三人である。
「よし。何はともあれ、全員揃ったしラジオ体操を始めるか。今日も暑いしな!」
「私も色々と熱いんだけどぉ……!?」
という訳で、今日も無事全員が揃った。
流石に今日も連続で草壁はいなかったが、学校で会うから良いだろう。
まあそれでも、助けてやったのに何故か恨みがましく見てくる早霧もいるが……。
俺と早霧の痴話げんかを小学生たちに見せる訳にはいかないので、今日は俺が仕切ってラジオ体操を始めるのだった。




