第251話 「落ーちーるー!?」
「蓮司に抱き潰された……」
「間違ってないけど、誤解を生む言い方はやめろ!」
時刻は八時過ぎ。
今日も容赦のない太陽光が、閑静な住宅街の道を朝から照らしまくっている。
これからもっと暑くなるのかと思うとかなり憂鬱になるのだけれど、そもそも今この時点でとんでもなく暑かった。
「嘘じゃないもーん! 苦しかったもーん! こんな感じでー!」
「くっつくなくっつくなくっつくな! 落とすぞ本当に!!」
「うわーっ! 落ーちーるー!?」
俺の背中から早霧の悲鳴が聞こえる。
そう、俺の背中から。
経緯を説明すると長くなるのだが、簡単に言うと俺が寝ている隙に悪戯でキスをしたら止まらなくなった早霧が俺の胸元に大量のキスマークを作ったことを自白し、俺がおしおきとしてキツく抱きしめたら拗ねてしまい、その機嫌を良くさせる為に俺は早霧をおんぶして公園まで歩いていた。
とんでもないマッチポンプである。
とんでもなく面倒くさい親友である。
でもこういうところが可愛いんだよなと言ったらそれまでなのだが、今ここで本人に言うと調子に乗りまくるので言うタイミングだけは絶対に間違えちゃいけないんだ。
「す、少し前にもこんなことあった気がする……」
「ああ、公園でな」
俺の背中の上で目を回した早霧が大人しくなった。
それでも力なく全体重を俺に預けてきているので、暑い事には変わりない。
ポロシャツ越しに女の子の柔らかさが全力で押し当てられていて、ここが外じゃなければどうなっていたことだろうか。
「最近の私、蓮司におんぶしてもらってばかりじゃない?」
「……下着が切れたりしてな」
「い、言わないでよ!」
「自業自得だろ……」
そんな中で、昔話に花が咲く。
昔話と言っても、つい先日、文字通り昨日のことさえも含まれていた。
「そう言えば、アイシャちゃんも厚樹くんにおんぶしてもらいながら公園に来たことあったよな」
「あったな」
「二人とも、仲良しだよね」
「だな」
「でも、もうすぐお別れなんだよね……」
「……だな」
そして話題は厚樹少年とアイシャの話になった。
許嫁の二人は、家庭の事情により八月に入ったら離れ離れになってしまう。
それもアイシャのもう一つの故郷であるイギリスに行ってしまうので、会うのはとても困難だ。
しかもイギリスに住んでいる祖母の体調が悪化してしまったという理由なので、いつ帰ってこられるかも分からない。
だから俺と早霧は、二人がせめて笑顔で別れられるように、ラジオ体操からゴミ拾い、そして明日の夏祭りと、皆で楽しめるイベントを考えていたんだ。
「……プレゼント、用意しなきゃ」
「プレゼント?」
「うん。ラジオ体操のスタンプを全部集めたご褒美。八月からは押せないけど、七月は全部参加してくれたんだから、ね?」
「……良いな、それ」
「でしょー!」
得意気な声が背中から聞こえる。
妹分としてアイシャのことを可愛がりまくっている早霧は、俺以上にアイシャに何かをしてあげたいんだ。
もちろん俺もそれに協力する。
何故なら俺にとってもアイシャは可愛い妹分だし、可愛い弟分である厚樹少年の大切な許嫁だからだ。
「それで、何をプレゼントするか候補はあるのか?」
「何も決めてない!」
「……じゃあ、一緒に考えるか」
「うん!」
いきあたりばったりな早霧である。
でもそれが早霧の魅力なんだと、やっぱり俺は思うだけで黙っておく。
今日はラジオ体操も部活もあるし、忙しくなりそうだ。
そんなことを考えながら。
背中から降りる気配のない親友をおんぶしつつ、俺は今日もラジオ体操が行われる公園へと向かうのだった。




