第242話 「一生これぇ!?」
散々好き放題した早霧に手錠をかけた。
まさか早霧も自分が手錠をかけられるとは思っていなかったらしく困惑で固まる。
俺はその一瞬の隙を逃さず、早霧を抱きかかえてカーペットからベッドの上に座り込んだ。
「ふぅ……ようやく落ち着けるな」
「どこがぁ!?」
そのまま早霧を膝の上に座らせて、後ろから抱きしめる。
俺の腕の中では早霧が抜け出そうと暴れていた。
ガチャガチャと手錠の鎖の音がする。
「早霧は調子に乗るとすぐコレだからな。こうして手錠で大人しくさせた方が良いかもしれない」
「親友にすることじゃないよね!?」
「お前からしてきたことだろうが」
「うぐぅ……」
両腕を早霧の腹部に回したまま、前に体重をかけながら早霧の肩に頭を乗せる。
綺麗で長い白髪が俺の顔にかかるが、良い匂いがしたので嫌じゃなかった。
俺に正論のカウンターを食らった早霧は、観念したのか俺の腕の中で大人しくなった。
「うぅ……あの日と同じ体勢なのにぃ」
「早霧が手錠をかけなければこんなことにはならなかったんだぞー?」
ブツブツと恨み言を呟く早霧。
確かにさっきと同じ、神社での思い出の後ろだっこと同じ体勢になったけどちっともドキドキはしなかった。
ようやく早霧を捕まえられたという安心がとても強いのだ。
「蓮司ぃ、手錠外してぇ?」
「駄目だ。色々やらかしたんだから、大人しく反省して罪を償え」
「……償うって、どれぐらい?」
「終身刑」
「一生これぇ!?」
猫なで声で解放してくれと甘えてくるのを却下した。
早霧は気まぐれなわがまま猫なので、要求が通らないとすぐに暴れようとする。
「ちょっとは落ち着け」
「うわっ! うわわぁっ!?」
腕の中で暴れるのを抑えるのも実は一苦労だ。
だから方法を変える。
俺は早霧を後ろから抱きしめたまま、横向きにベッドへ倒れこんだ。
「あー、幸せ……」
「うぐぅ……蓮司は私を手錠で捕まえることが幸せなんだぁ……」
「そっちな訳あるか」
ベッドの上で、後ろから早霧を抱き枕にする。
寝ぼけた時に一度聞かれた幸せという言葉も、二度目に意識して言えばちっとも恥ずかしくなかった。
「早霧の父さんと母さんが旅行に行ったってさ、俺たちはこうしてゆっくりしても良いだろ?」
「それは、そうだけどぉ……」
もぞもぞと、早霧が腕の中で身じろぎをする。
どうやら寝転がりやすい姿勢を模索しているらしい。
さっきまで抵抗していたのにやたらと順応性が高いのも早霧の長所である。
元々寂しがり屋の気質がかなりあるので、突拍子の無さすぎる行動もそれに拍車をかけたようだ。
だからこうして逃げられない状態を作り、後ろから抱きしめて安心させてやる。
早霧は落ち着いて、俺も幸せな気分になれるから一石二鳥だった。




