第239話 「蓮司に捕まっちゃったー!」
俺は早霧に手錠をかけられて捕まってしまった。
いや自分でも何言ってるかわからないけど本当のことだ。
俺の両手には冷たい手錠がかけられていて、バッチリと短い鎖で繋がれている。
外そうにも外せない、力を込めて引っ張ろうとしても手錠が手首に食い込んで痛いだけだった。
「うわぁ……。なんか、犯罪臭すごいね……」
「やったのお前だからな!?」
――ガチャガチャ!
外そうとしてもやっぱり外せない。
その手錠をつけた張本人は、そんな俺を見て少し引いていた。
「ぬいぐるみで誤魔化せ……ないね」
「……ないね、じゃないが!?」
ベッドに置かれていた無数のぬいぐるみの中から、早霧のお気に入りである白い羊のぬいぐるみを手錠の上に持たされた。
手錠と言うアイテムはぬいぐるみ一匹じゃ浄化できないぐらい生々しい。
「ママは、つけると喜ぶよって言ってたんだけどなぁ……」
「早霧、その深堀は良くない。パパさんの為にも」
ちょっとだけ嫌な想像をしてしまった。
これから一週間旅行らしいけど、大丈夫だろうか、とか。
早霧の破天荒っぷりは絶対に母さん似だよなぁ……。
「蓮司はそれ外せないんだよね?」
「節穴か?」
――ガチャガチャ!
さっきから何度も外そうとしているけど、全然無理である。
何かやり返してやろうにも、両手が塞がれていると何も出来なかった。
「……じゃあ、お邪魔します」
「お邪魔しますってなんだ!? って、おい!?」
まるで暖簾をくぐるように、早霧が俺の両手の間に入ってくる。
手錠をかけられている俺は身動きが取れず、手錠と俺で出来上がった輪の中にスッポリと早霧が収まった。
「えへへー。蓮司に捕まっちゃったー!」
「捕まえたのお前だからな!?」
俺の腕の中で早霧が嬉しそうに笑う。
正直、どの口がそれを言うんだと思った。
見方によっては俺が早霧を後ろから抱きしめている、そう、思い出のキスの時と同じ状況に見えなくも無いが俺の両手には手錠がかけられている。
大切な思い出を前にしても、手錠のインパクトは絶大だった。
「私が蓮司を捕まえて、蓮司が私を捕まえる。これで無敵だね!」
「何と戦ってるんだ……って、狭いんだからこっち向こうとするな!」
「えー? この状態での蓮司の顔、もっと近くで見たーい!」
「いやこのままだと危ないからっておわっ!?」
「うわぁっ!?」
ただ一つ、いや二つ思い出と違う点は俺が手錠をかけていることと、お互いに立っている状態だったということだ。
そんな不安定な中で早霧が俺の両腕の中に入り、無理にその中で振り向こうとすれば……結果は一目瞭然である。
俺と早霧は仲良く後ろに転んでしまった。
強い衝撃はあったけど、ぬいぐるみだらけのベッドの上なので痛みは無かった。
「ったく……言わんこっちゃない。早霧、大丈夫か?」
「あうぅ……」
ベッドに倒れこんだ時、衝撃で無数のぬいぐるみが一瞬宙を舞ったのが見えた。
それも重力に従ってすぐにボスっとベッドに落ちて、俺と早霧で騒がしかった部屋の中に静寂が訪れる。
腕の中には早霧がすっぽりと収まっていて、俺たちは全身が完全に密着している状態だった。
「……はっ!? 蓮司の匂いがする……」
「……お前が俺の胸元に顔埋めてるからだろ」
「蓮司の匂いがして、蓮司がいて、私は蓮司に捕まってて?」
「捕まえたのも勝手に捕まったのも早霧だからな?」
衝撃で早霧の方が記憶喪失になってしまったみたいである。
しかも自分に都合のいいことだけを忘れるチート記憶喪失だった。
「すーはー……」
「吸うな! 深呼吸するんじゃない! 何だかんだで風呂入らずに早霧の家来たんだから!」
「私、ここに住む……」
「お前の家でお前の部屋だぞ!?」
「私の骨は、蓮司の中に埋めてもらうんだ……」
「言いたいことはなんとなく理解出来るけど、それは可愛いのラインを余裕で超えてるぞ!?」
多分、ずっと一緒にいたい的なニュアンスなんだろう。
言葉選びが致命的なせいで、とんでもないスプラッタな状況になってるけど。
「……動けないから離れてくれないか?」
「えへへー、もうちょっとだけー!」
「はぁ……ちょっとだけだぞ?」
「うん!」
早霧がグリグリと、俺の胸元に顔を押し付けてくる。
嬉しそうな声とその姿、それに全身に伝わる熱と柔らかさに俺は何も言えなくなってしまった。
何だかんだ言って、やっぱり俺はとんでもなくチョロいのだろう。
早霧が幸せなら、それで良いのだから。
――ガチャガチャ!
「…………」
うん。
訂正する。
この手錠さえ無ければ、本当に幸せだったんだけどなぁ。




