第238話 「自首しよ?」
ここは早霧の部屋。
時間的には早霧の父さんと母さんが旅行に行ってから三十分後ぐらいだ。
「蓮司容疑者! 嫌がる早霧ちゃんを玄関で無理やりくすぐったというのは本当ですか!?」
「…………」
早霧の部屋に合った筆箱をマイクに見立てて、俺の頬に押し当ててくる。
誰が、とは言うまでもなく調子に乗った早霧だった。
「しかもそれをママに見られて恥ずかしい思いまでさせて……これは責任問題ですよ! 責任はどう取るおつもりですか!?」
「…………」
早霧は獲物を見つけた記者のように俺に質問攻めをしてきている。
恥ずかしさで拗ねない分いくらかマシだが、それでも調子に乗った早霧はこれ以上ないぐらいに面倒くさかった。
「そもそも玄関でくすぐる方がどうかしてると思うよ?」
「何で急に冷静になった?」
ふと我に返ったように冷静になる早霧。
俺の親友はスイッチのオンオフがとんでもなく激しかった。
「あー喋ったー! さっきまでずっと黙ってたのにー!!」
しまった、罠だった。
冷静になったと見せかけて、だんまりを決める俺に喋らせる為の罠だった。
「蓮司、自首しよ? 今なら早霧ちゃんも許してくれるよ?」
「さっきからずっと謝ってるんだが……」
「ギルティー!!」
どうしよう、早霧が暴走モードに入ってしまっている。
何を言っても通じない自由の化身だった。
「そんな乙女心もわからない蓮司にはお仕置きのぉ……」
早霧が机の中をガサガサと漁り出す。
お仕置きとか理由を付けつつ、どうせいつものキスだろうと――。
「手錠ー!!」
「お前が自首しろよ!?」
――そう、思っていた。
早霧が机の中から、銀色にギラつく手錠を取り出すまでは。
「やだなぁ蓮司、今罪を犯しているのは蓮司だよ?」
「いやお前だろ! 何で机の中から手錠なんか出てくるんだよ!?」
「え? ママのおさがりで貰っただけだよ?」
「だけじゃないが!?」
キョトンとする早霧。
それを聞いた俺は理解が追いつかなかった。
早霧が机の中から取り出した手錠は元々早霧の母さんが使っていた物でそもそも手錠を使う理由は何だと問われれば真っ先にあの優しい早霧の父さんが出てくるわけでそうなるとこの手錠は早霧の母さんもとい早霧の父さんのお古でそれを取り出したということは早霧がまさか俺を捕まえようとしているんじゃないだろうかいやいやまさかいくら早霧とはいえ後先考えずに人の手に手錠をかけるなんて馬鹿な真似はしないだろうする筈がないだって俺は親友を信じているのだから――。
「逮捕ーっ!!」
「…………」
――ガチャン!
俺の両手に、手錠がかけられた。




