第232話 「……あの時、みたいって?」
早霧の好きなところを一つ言えば一回キスをして良いらしい。
そう言ったから不意打ち気味に褒めてキスをしたら固まってしまったので、続けようと思う。
「白くてサラサラで綺麗な髪」
「――んぅ」
「撫でると良い匂いがするし」
「――んぅ」
「同じシャンプー使ってるとは思えないぐらい触り心地が良いよな」
「――んぅ」
「淡い色の瞳はずっと見てられるよ」
「――んぅ」
「キスした後、こうして潤むのもたまらない」
「――んぅ」
「笑顔が一番だけど、正直切なそうな瞳も大好きだ」
「――んぅ」
「鼻も高くて細いし」
「――んぅ」
「ドヤ顔をして威張る時、ちょっと膨らむのも可愛いと思う」
「――んぅ」
「唇は……言わなくても分かるだろ?」
「――んぅ」
「早霧のせいで、俺はお前に夢中なんだから」
「――んぅっ!?」
キスだけじゃ我慢できなくなってきた。
俺を夢中にさせる悪い唇を、キスしながら舌でなぞる。
するとなすがままだった早霧はビクッと小さく震えた。
「顎の下、キスの前に撫でられるの好きだよな?」
「――んんっ」
「くすぐったそうに目を細めると、俺も嬉しくなるよ」
「――んんっ」
「キスをする時、いつも反射的に目を閉じてるけどさ」
「――んんっ」
「その顔見るの、すごい好きなんだぞ?」
「――んっ?」
「だから、もっと見ても良いよな?」
「んひゃぁっ!?」
寝転がりながら横にいる早霧を褒めてキスをし続けるのは気持ち良いけれど少し疲れる。だからまた早霧の両脇を持って起き上がり、俺は壁に背中をつけて座ってからその上に早霧を跨らせた。
夢中でキスをされ続けて蕩けた顔が驚きに変わったのがよく見える。
でもそれはキスを止める理由にはならなかった。
「可愛い」
「――んっ」
「世界一可愛いぞ」
「――んっ」
「怒った顔も、泣いた顔も、笑った顔も、全部」
「――んっ」
「早霧の顔なら、一生見てられるよ」
「――んっ」
「なあ、親友?」
「――んぅ!?」
わざとキスをするのを止めて。
俺はさっきの早霧みたいにおでことおでこをくっつけた。
「まだ、顔しか褒めてないぞ?」
「――ぁ」
キスの連続で少し熱っぽくなったおでこと赤い顔が目の前に広がる。
淡い色の瞳は見開かれ、キスで塞がれていた唇はあわあわと震えていた。
「綺麗な首だよな」
「ひゃっ!?」
キスをしながら、早霧の首を撫でる。
「正直、さっきの浴衣姿でうなじが見えた時はかなりグッと来たよ」
「ん、うぅ……!」
くすぐったそうに早霧が身をよじる。
「いっつもダボダボな服着てさ、鎖骨や胸元に視線がいかないと思ってるのか?」
「そっ、ちが……!?」
露出した肩と胸元にキスを落とす。
「俺や家族以外には、見せちゃ駄目だからな」
「んっ!? やっ、ま……っ!」
早霧の胸に顔を埋めるように、大きな胸の膨らみ始めた場所に口づける。唇とは違う柔らかさとあたたかさを感じた。
「でも、やり過ぎは良くないよな?」
「――んぅぅっ!?」
ここでもう一回顔を上げて、唇を塞ぐ。
まさか戻って来るとは思ってなかったのか、早霧はさっきよりも大きく震えた。
「んっ……ぁ……ちゅる……れ……れんりぃ……んちゅ……んぅっ……!」
早霧の唇を舌でこじ開ける。
小さく漏れた吐息に触れながら、早霧の口内に入っていった。
口の中はどんな部位よりも熱くて、ほんのりとさっき公園で一緒に飲んだぶどうジュースの風味がする。
早霧は甘い声を漏らしながら、俺の舌に自分の舌を絡めてきた。
「すき……ちゅ……わたしも……ん……れんじ……ぁ……すきぃ……」
今まで我慢してきたのか、それとも完全にスイッチが入ったのか、俺がキスしていた筈なのに早霧の方から積極的に深いキスを続けてきた。
「…………」
「んみゅっ!?」
俺は舌を一度引っ込めて早霧の舌を誘導する。
そして俺の舌を追って今度は俺の口に入ってこようとした早霧の舌を、俺の唇で挟んだ。
「ぷはっ……。好きなところを俺が言わないと、キスしちゃ駄目なんだろ?」
「え……だ、だってぇ……」
「言ったのは早霧だぞ? 俺がキスしようとしたのに、駄目って言ったじゃないか」
「い、いじわるぅ……」
「我慢する顔も可愛いよ」
「――んっ!? んぅぅ……」
いじわるは少しにして、欲しがる早霧の唇をもう一度塞ぐ。
潤んだ瞳はすぐに蕩けて、またキスに夢中になっていった。
「……公園でキス出来なかったけどさ、俺もしたかったんだぞ?」
「私も……してくれると思った……」
息継ぎの為に唇を離す。
でも代わりに、今日はまたおでこをくっつける。
「厚樹少年たちの前だったしさ。……それに公園じゃあ、あの時みたいには出来ないと思うんだ」
「……あの時、みたいって?」
早霧は俺に聞き返す。
その顔は、分かっている顔だった。
「早霧」
俺は至近距離で早霧と目を合わせながら、そっと腹部に手を回す。
「――シャツ、脱がすぞ?」
「――うん」
そして優しく、早霧のダボダボのシャツをまくり上げた。




