第231話 「いだだだだだだだだっ!?」
「いだだだだだだだだっ!?」
「こら動くな。動くともっと痛くなるぞ?」
「だ、だってぇ……痛いんだもんいだだだだっ!?」
カーペットにうつ伏せに倒れ、つった早霧の右足を伸ばしながらマッサージする。
痛みに悶える早霧はひたすらに悲鳴をあげていた。
「れ、蓮司ぃ! も、もうちょっと優しくぅ……」
「少しだけ我慢しろ。ちゃんと処置しないと癖になるらしいからな」
「蓮司が厳しい……いだだだぁ!!」
強張った早霧の右足をグイグイと動きをつけて伸ばしていく。
這いつくばった時に変な伸ばし方をしたせいか、早霧はやたらと悶えていた。
「お、お願い! ちょっとだけ……ちょっとだけで良いからぁ……」
「ちょっとって、どれぐらいだ」
「……蓮司が、私にチューしてくれるぐらいだあああああっ!?」
たまには強引なのも良いと言っていたので強くしてみると、早霧は身体を大きくビクつかせた。
もちろん、その原因は痛みである。
「ひ、ひぃ……ひぃ……」
早霧は虫の息になり、グデっとカーペットに倒れこんだ。
強張った右足も元に戻り力なく伸びている。
ダボダボなシャツからは背中と腹部が露出し、ショートパンツから伸びる白い生足と見ようによってはエロく見えなくも無いかもしれないが、さっきまでの悲鳴が全部台無しにさせていた。
「どうだ? 少しは良くなったんじゃないか?」
「鬼畜蓮司……」
早霧がカーペットに顔を伏せたままボソッと呟く。
これはあれだ。痛みは無くなったけど過程が過程だったから拗ねたパターンだ。
「はぁ……。仕方ない奴だな」
「にゃあっ!?」
俺は立ち上がり、拗ねた早霧の両脇に手を差し込んで持ち上がる。
猫みたいな持ち方をすると猫みたいな声をあげた早霧と共に、俺はぬいぐるみだらけのベッドに倒れこんだ。
「同じ体勢でいるとまたつるぞ?」
「あ、うぅ……」
ベッドに倒れたことによって乱れた綺麗な白髪を指で整えながら俺は言う。
早霧は何か言いたいことがあったんだろうけど、急にベッドに運ばれたことで全部吹き飛んだみたいだった。
「私知ってる……こういうの、DVって言うんだ……」
「もう一回つるような体勢に固めてやっても良いんだぞ?」
「蓮司大好きー!!」
ノータイムで早霧が俺の胸に顔を埋めてくる。
めちゃくちゃ現金な奴だったが、早霧も拗ねるのを止めるタイミングを逃していただけなので機嫌が戻ったのならこれで良かった。
「みゅぅ……」
「ん?」
早霧が鳴いた。
ベッドの上、俺の胸の中で。
「れんじ……」
「どうした?」
声だけで何となく察する。
分かっても早霧に言ってほしいので、俺は聞き返した。
「ちゅーしよ?」
「鬼畜でDVじゃなかったのか?」
「いじわる……」
「――んぅ」
拗ね気味に、顔を赤く染めた早霧からキスをしてきた。
短く触れるだけのキスでも、今日初めてのキスなのでとても気持ち良い。
「えへへ……今日のファーストキスだね?」
ようやくキスが出来たことが嬉しいのか、今度はおでこをグリグリと押し付けながら微笑んだ。
今日のファーストキスって何だって思ったけど、俺も似たようなことを思っていたので嬉しくなる。
「じゃあ、今度はセカンドキスだな?」
そう言って今度は俺から早霧の唇を塞ごうとして。
「待って」
「……ん?」
その唇が、早霧の人差し指で止められた。
早霧だけしてズルいぞと思いながらも、何を言うのかその言葉を待った。
「ちゅーしたい?」
「したい」
「えへへー、でもさっき酷いことしたから駄目ー!」
唇の前、両手の人差し指で小さな×を作る。
その仕草が可愛すぎて無理やり唇を奪ってやろうかと思ったけど我慢した。
「でも私は蓮司と違って優しいからぁ、私の好きなところを一つ言うごとにキスをして良――」
「俺だけに生意気で甘えん坊なところ」
「――んっ!?」
なるほど。
好きなところを一つ言えば、一回キスをして良いんだな?




