第22話 「なーに話してたの?」
俺と早霧は一時間目をサボった。
その結果、教室に戻ったらクラスメイト達に取り囲まれてしまった。
「なあなあ赤堀! 八雲さんに引っ張られてどこ言ってたんだよお前!」
「やっぱお前達付き合ってるよな!? なあそろそろ隠してないで楽になろうぜ!」
「休憩、休憩してたのか!? 一時間、しっぽり美少女と休憩してたのか!?」
「つーか教室でアレってヤバくね? 俺までドキドキしちゃったじゃんか!」
「アレやばかったよな! 急に赤堀が八雲さんの髪を撫でてさ!」
「あ、赤堀くん……首を絞められるって痛いのと苦しいの、どっちが上なの!?」
ちなみに今は昼休み。
これで三回目の事情聴取である。
授業の合間合間にある僅かな休み時間でさえも俺と早霧にそれぞれ人だかりが出来ていたが、昼休みはその比ではなかった。
俺は窓側一番後ろに。早霧は廊下側一番前に。それぞれ分断された状態で周囲を取り囲まれている。
当然俺の方には男子が、早霧の方には女子が集まっているのだが。何故か先週から首絞めにご執心な女子生徒だけが男子の輪の中に混じっていた。
彼女の執念はいったい何なのだろうか。
「い、いや……あれは早霧を怒らせて説教をされてただけで……」
そんな謎の一端は置いておくとして、目の前の好奇心旺盛な男どもの方が問題だった。
俺が早霧と授業をサボり、屋上の扉の前で身体を重ねてキスをしていたなんて……バレる訳にはいかなかった。
「説教って……そういうプレイか!?」
「堅物そうな雰囲気出しておいてヤラれる側なのかお前!」
「でも実際、犬みたいに引っ張られてばっかだよな赤堀って」
「けどこの前は倒れた八雲さんをおんぶしてたぞ?」
「どっちでも良い! だって羨ましすぎる!」
「そうだそうだ!」
「あ、赤堀くんからも首絞める時ってあるの……?」
ワイヤワイヤ。
有象無象の野次馬と化したクラスメイト達がどんどん盛り上がっていく。
とても居づらい状況ではあるが周囲が勝手に盛り上がってくれる分、話が脱線して俺が話題の中心から外れる比率が高かった。
約一名、ずっと違う事を聞いてくる女子生徒は本当に何なのかは考えないでおく。
『キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……』
そして時間を無駄に浪費したおかげで助け船のチャイムが鳴った。
「え、もう昼休み終わり!?」
「マジかよ何も聞けてねぇ!」
「途中から犬の話になってなかった?」
「お前が家で飼ってるレトリバーの画像見せるからじゃん!」
「い、息できなくて気絶した事、赤堀君もある……?」
クラスメイト達はチャイムが鳴るとまるで蜘蛛の子散らすように各々の席へを戻っていく。騒ぎたがりな奴らだが、変な所で真面目だった。
……それはそうと、一人から変な親近感を持たれてないか?
◆
そんなやり取りが午後の休憩時間にも発生し、放課後になった。
放課後はクラスメイト達にも各々に予定や部活があるので取り調べられるような事はなかった。やっぱり変な所で真面目で律儀な奴らである。
そして今日もボランティア部こと、自分らしさ研究会の活動が特別教室棟一番端の元倉庫だった狭い教室で行われているのだが。
「レンジって最近さぎりんと何かあったのっ?」
我らが自慢する小さな会長、ユズルが首を傾げて聞いてきた。今この教室には俺とユズルしかおらず、逃げ場はない。
早霧は「告白断ってくるねー」とわざわざ俺に言ってから教室を飛び出していき、頼れる大男長谷川は「ゆずるちゃんに手を出したら殺す……」と泣きながら物騒な事を言ってスーパーのアルバイトへと向かった。
「な、何も……無いが……」
「ふっふっふっ、自分らしさ研究会に隠し事は無しだよレンジっ!」
一番の脅威は身内だという事を思い出した。
背が小さい事を誰よりも気にしているユズルは、この半分非公認活動をしている部活の発起人だ。基本は堂々としている彼女だが、そこには様々な葛藤や悩みがユズル本人にあったのだと……長谷川が俺に語りたがっていた。
「さぎりんがすっごい楽しそうなの、レンジのおかげでしょっ?」
「……早霧が?」
「だって久しぶりに会ったさぎりん前よりも良い笑顔で楽しそうなんだもんっ! ご、ごほん! これこそが自分らしさ研究会の目指すべき姿だとワタシは思うっ!」
言葉が砕けている事に気づいたユズルが途中で訂正するが、手遅れだった。
早霧が楽しそう、か……。アイツはいつでも人生を楽しんでいる気がするが。でもユズルは同じ女子同士であり、学校でよく一緒にいる友人なので何か感じる事があるのかもしれない。
そう言えば長谷川が、女の子の事は女の子に聞けと言っていたな……。
聞くなら、今か。
「なあ、ユズルに聞きたい事があるんだが……」
「おうおう良いとも良いともっ! 自分らしさ研究会は悩める生徒をいつでも募集しているよっ!」
屈託のない笑みをユズルは浮かべた。きっとこの明るく前向きな姿勢が早霧と相性の良い秘訣だろう。
だから、それに頼ってみるのも良い気がした。
「それでそれで、聞きたい事ってさぎりんの事っ? それともレンジ自身の事っ?」
「あ、ああ……。ユズルが思う、親友って――」
――ガチャッ!
俺が話し出そうとした瞬間に、部室の扉が開いた。
「ただいまー! あれ、何この雰囲気……?」
入ってきたのは綺麗な長い白髪を靡かせる、ご存じ学園一の美少女だ。机を挟んで向かい合っている俺とユズルを見て、早霧は何を思ったのだろうか……笑顔で。
「なーに話してたの?」
ユズルではなく俺の隣に座ってくる。
肩と肩が触れ、これでもかと言うぐらいに距離が近かった。




