第224話 「――う゛あ゛っ゛!?」
早霧は綺麗で可愛くて優しくて良い性格をしている完璧美少女だけど、一つだけ弱点というか欠点があった。
それは、自分の衣服に無頓着な所だ。
学校指定の制服やジャージはともかくとして、私服は壊滅的である。
基本的に自分からは新しい衣服を買いに行かず、行ったとしても成長を見越して常にオーバーサイズの服を買っている。しかしそれすらも使い古していて部屋着なんかはほとんどがヨレヨレになっている物が多々存在しているぐらいだ。
最近は俺と一緒に出掛けることも多くなったけれど、自分の家と俺の家を行き来するぐらいなら常にヨレヨレTシャツが早霧スタイルだった。
さて。
なぜ今突然急に俺がそんなことを思い出したかと言えば――。
『腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動~』
「――う゛あ゛っ゛!?」
「ん?」
ラジオ体操が始まった瞬間に、隣から早霧の可愛くない悲鳴が聞こえ――。
『一、二、三、四、五、六、七……』
「~~~~~っっ!?」
「さ、早霧っ……!?」
早霧が胸の前で腕を組み、身を丸くさせながら俺の後ろに回り込み――。
『手足の運動~!』
「つ、続けて……?」
「い、いやどうしたんだお前急に!?」
すると早霧は恥ずかしそうに顔を赤らめながら――。
『二、二、三、四、五、六、七、八……』
「ブラ……切れちゃった……」
「はぁっ!?」
とんでもないことを、呟いたんだ。
何十何百と着まわされ現れ続けた早霧の下着が、ついに限界を迎えた。
――ラジオ体操でお手本を始めた瞬間という、最悪のタイミングで。
『腕を回しま~す』
「八雲さん、どうかしたんですかぁ?」
「だっ大丈夫だよ!? ほ、ほらっ!!」
「いいっ!?」
急に変な声をあげて俺の後ろに回り込んだ早霧を、草壁が心配してラジオ体操を続けながら声をかける。
すると焦った早霧はあろうことかそれを誤魔化す為に俺の後ろにピッタリとくっつき、俺の腕を掴む。
それは厚樹少年とアイシャだけの時にやっていた前後密着して前の人の身体を動かしながらやる変則的なラジオ体操。
――むにゅっと、俺の背中に大きな二つの感触と凄まじい柔らかさが襲ってきた。
『足を横に出して胸の運動~』
「兄さんと姉さん、何してんだ……?」
「そ、そんなピッタリくっついて!」
「ら、ラブラブだぁ……!」
「こ、これはね、蓮司の動きが悪いから私が動かしてあげてるんだよ!」
「い、いやお前……お前ぇ……!」
しかも胸を大きく逸らす運動でこれでもかと押し当てられる。
俺の両手は捕まれ自由が利かず、どうにかしたいのに早霧に広げられながら下着が切れてポロシャツだけになった胸を押し当てられ続けていた。
『腕を上下に伸ばす運動~』
「あっ! オネエチャン今日もそれやるの! アイシャもやるー!」
「えっ!? あ、アイシャ!?」
「厚樹たちも知ってんのかこれ!?」
「ふ、二人には特別に教えたんだよ!」
それに巻き込まれる厚樹少年が、後ろからアイシャに操られる。
そして俺は腕を伸ばすたびに俺の背中でむにゅむにゅと形を変える早霧の胸の感触に頭がどうにかなりそうだった。
『身体を回す運動~』
「ど、同志……首だけじゃなく身体の自由まで委ねるとは……伝道師とお呼びしてもよろしいですかぁ!?」
「よろしくない!」
上体を逸らしてぐるぐると身体を回す。
どんどん密着する早霧の胸。
早霧もそうだけど、俺の羞恥も最高潮だった。
『両足飛びで~す』
「やっ……んっ……れ、蓮司……こ、こすれ……ぁ……」
「一! 二! 三! 四! 五! 六! 七! 八! ニ! ニ! 三! 四! 五! 六! 七! 八!」
跳ねる度に早霧が俺の耳元に聞こえるぐらいのレベルで甘い吐息を漏らす。
俺は煩悩を断ち切るのと他の参加者には絶対に聞かせない為、全力で回数のカウントをした。
『深呼吸~』
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……!」
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……!」
「ら、ラジオ体操で一心同体になることで、ここまでの息切れをするぐらいのハードな運動になる……ということですかぁ……?」
……そういう事に、しておいてください。




