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【書籍化決定】ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
第二章 親友はキスをしたい

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第21話 「このまま……サボっちゃおっか?」

 早霧にネクタイを引っ張られ教室を抜け出したのはこれで二回目である。

 前回は放課後だったが、今は朝のホームルーム前。階段を上る途中でチャイムが鳴るのが聞こえたが俺の幼馴染は止まらなかった。

 首の苦しみに耐えながら到着したのは前回と同じく、階段を上った先にある終着点。絶対に開かない屋上への扉がある、狭く薄暗いスペースだった。


「…………」

「さ、早霧……?」


 そこでようやく早霧にネクタイを離してもらったかと思えば、露骨に視線を逸らされた。


「そ、そうだよね……私だけじゃ、ないもんね……」


 その白く長い髪を指にからめて、くるくる弄っている。


「し、親友だもん……親友も、したいんだよね……?」


 横髪が揺れて見えた色白の綺麗な耳は、先まで真っ赤になっていて。


「そ、それじゃあ……」


 チラッと見てきた淡い瞳は、これでもかと泳ぎに泳ぎまくり。


「す、するぅ……?」


 その短い問いを発した声は、とんでもなく裏返っていた。

 不覚にも、今日一番ドキッとしてしまった。


「ま、待て早霧! 俺は何も言ってないぞ!?」

「……え?」


 それはそれ、これはこれである。

 朝のホームルームをすっぽかしてまで暴走している幼馴染をなんとかして止めなければマズい気がした。

 もう手遅れな気がするが、そんなの関係ない。


「だ、だって蓮司……」


 目に見えて動揺している早霧はこの場所が薄暗くてもハッキリ分かるぐらいに顔が赤くなっていた。

 黙れば美人、黙らなくても美人な、俺の自慢の幼馴染だ。それはそうと、照れる姿は可愛いものでずっと見ていられる。


「キス……したいんでしょ?」


 俺が、当事者じゃなければ。


「……いや」

「えぇ!?」


 したいかしたくないかで言えば、したい。

 けど何度も言うがそれはそれ、これはこれである。

 俺と早霧の間には明確な意識の相違があった。流石に誰だって気づく、俺だって気づく。


「じゃ、じゃあ何で教室のアレは!?」

「いや、その……いつもの、仕返しがしたくて……」


 学園一の美少女が必死の形相で俺の肩を掴んできた。どんな顔でも可愛いと思える無敵の存在に、さっきまで優勢っぽかったのにいつの間にか俺が詰められてしまっている。


「そ、そんな……」


 早霧はガクッと肩を落として俯いた。

 あ、危なかった。このまま至近距離で見つめ合っていたらまた変なスイッチが入ってしまっていたかもしれない。正直近くで顔を見るだけで心臓が高鳴ってしまう。

 幼馴染なのに、ずっと見てきた顔なのに……。


「…………」

「さ、早霧……?」


 また黙ってしまった早霧の名前をまた呼んだ。力無くうな垂れているのに俺の肩を掴む手は離してくれない。

 視界に広がっているのは綺麗な白い髪が伸びる幼馴染の頭頂部。それは凄く良い匂いがしていて、現在進行形で俺の意識をかき乱していた。


「…………」

「ん? お、おい早霧!?」


 グイグイグイ。

 両肩を掴まれたまま俺の身体はなすすべも無く後ろに後ろに押され、すぐに背中が鉄製の扉に当たった。


「……ねえ、親友」

「いっ!?」


 早霧は顔を上げない。

 でも幼馴染ともなれば声だけでどういう気持ちかが分かる……分かってしまった。

 怒ってる、どう考えても怒ってる時の声だった。


「……したい?」


 早霧が顔を上げた。

 笑顔だった。学園一の美少女による満面の笑みだった。目だけ、笑ってなかった。


「……したい、よね?」


 早霧が両手を使って俺の肩に体重をかける。

 物理的と精神的な圧力。背中に当たる扉を這うように俺の身体が下へ、下へ。


「……だから、あんな事したんだもんね?」


 そしてついに俺はその場に座らせられてしまった。扉を背中に預けて膝を雑に曲げた、やや崩れた体育座りのような格好。

 そこに早霧が、まるで俺に覆い被さるように跨っていた。

 誰がどう見ても、とんでもない格好だった。


「……する、よね?」


 肩を掴んでいた手が、俺の頬を挟んだ。細くしっとりとしていて、柔らかで温かな手が、無慈悲に俺の顔をホールドする。

 そして目の前には真っ赤になった幼馴染が恥ずかしさによって若干涙目になって破れかぶれになったような表情が広がっていた。

 更に俺の下腹部には早霧の体重と体温がこれでもかとかかっていて、全ての刺激が幼馴染によって染められつつあった。


「……キス」


 更に体重がかかり、俺の上半身と早霧の上半身までもが重なった。


「ま、待て待て早霧! こ、この状態は本当に――」


 ワイシャツ越しでも感じる大きくて温かい、特段の柔らかさによって俺の思考はパニックになり。


「――んっ」


 それを上書きするような、キスだった。

 全身がほとんど密着した状態でのキスは、まるで早霧と溶け合っているかのような心地よさで。


『キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……』


 一時間目の開始を告げる聞き馴染んだチャイムが、何故か遠い物のように感じた。


「ねえ親友?」


 唇を離した親友が、悪戯に俺を見つめて笑う。


「このまま……サボっちゃおっか?」


 どう考えても親友の距離感じゃないのに、その笑顔に俺は何も言えなかった。

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