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【書籍化決定】ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
第八章 俺たちは……勝ちたい

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第214話 「私の負けだよ?」

『えー皆さん。本日の清掃活動、大変お疲れさまでした。皆様のご協力のおかげで誰一人怪我や熱中症になることなく、とても河川敷が綺麗になりました。明日からは業者が河川敷に入るため数日の間通行が出来なくなりますが、日曜日には近くの神社で例年通り夏祭りを開催いたしますので楽しみにしてください。それでは皆さん。重ねてになりますが、本日はありがとうございました』


 最初と同じように、簡易的に作られた壇上に立った年配男性が頭を下げる。

 それと同時に集まった人たちから拍手が巻き起こり、拍手が収まる頃には各々が雑談や感想を言いあったりして和やかな雰囲気に包まれていた。


「みんなー、お疲れさまー!」


 そしてそれは俺たちも同じだった。

 スッキリした顔の早霧が俺たち全員に笑顔で声をかける。

 でもその目元はさっきまで大泣きしていたせいか、少しだけ赤かった。


「さぎりんもお疲れー!」

「お疲れさまですよぉ!」

「お疲れさまでしたー!」

「お、お疲れさまです!」

「オツカレサマーッ!!」


 早霧の言葉に、ユズル、草壁、真里菜と美玖にアイシャの女子グループが元気に言葉を返す。

 何故女子グループだけなのかと言えば、当然理由があった。


「お、俺……ゆずるちゃんに何を命令されちゃうんだ……!?」

「チクショーっ! 負けたーっ!!」

「まあ、追いつかれた時点で負けてたもんねぇ……」


 ゴミ拾い勝負に負けたからである。

 厚樹少年が言う通り、上流にある休憩所で全員が合流した時点で女子グループはゴミ袋がいっぱいになっていた。

 最初のスタート地点であるここに戻る為に上流で新しいゴミ袋を貰って一緒に行動すれば、その差が埋まる事は当然だが皆無だった。


 ちなみに、草壁においては命令したりされたり相手がいないのでどっちに転んでもノーダメージである。


「ふっふっふっ……太一に何を命令しようかしらね……」

「くそっ! 今に覚えてろよ真里菜……!」

「あっ、あの、お兄さんみたいに、太一くんも、私たちの好きな所を言ってほしいな……」

「何言ってんだ美玖!?」

「あ、良いわねそれ! という訳で太一! 今からお兄さんの真似をして私たちを褒めなさい!!」

「絶対やらねーよ!?」

「あっ! 待ちなさいよー!!」

「まっ、待ってよー……!」


 早速、太一少年と真里菜と美玖の幸せ三角関係トリオが勝者のご褒美と敗者の罰ゲームである何でも言う事を聞く権利を行使しようとしている。

 しかし太一少年は恥ずかしいのか走って逃げてしまい、いつものような追いかけっこが始まってしまった。


「ゆ、ゆずるちゃん……俺は、何をすれば良いんだ!?」

「えっ、あっ、そ、そのぉ……ま、まだ決めらないからまた今度でも良いかな?」

「お、おうよ! ゆずるちゃんのお願いなら、何日でも何カ月でも何十年でも待つぞ俺は!!」

「そっ、そこまでは待たせないよっ!?」


 片や、長谷川とユズルの出来立てほやほやカップルは、仲睦まじくもこちらもいつもみたいなやり取りをしている。

 しれっと長谷川が何十年も待つとか言っているが、それは解釈によってはプロポーズなんじゃないだろうか。

 こんなに人が集まる場所で堂々とそんなことを言えるなんて、度胸がある奴だ。


「アツキ! アイシャとずっと一緒!」

「うん! ずっと一緒だねアイシャ!」


 うん、癒し。

 厚樹少年とアイシャのラブラブ許嫁ペアはもう言う事が無い。

 勝っても負けても幸せな二人は、勝負する必要すら無かったのかもしれない。

 けれどこれもこの後の事を考えると、大切な思い出になるだろう。


「ひょわ……? な、何故だか急に疎外感を感じますよぉ……」


 周りがワイワイやりだして、草壁は周囲をキョロキョロする。

 飛び入り参加という事もあるけれど、よくよく考えれば草壁には対になる相手がいないのだ。

 悪い奴じゃないんだけど、むしろ献身的で責任感もあって世話焼きで良いところだらけなんだけど……本人の性格と癖を理解してくれる相手はまだ現れていないのである。


「こ、こういう苦しさも……一周回ってアリなのではぁ……?」


 労いの言葉をかけようと思ったが、やめた。

 なんか一人で新境地に踏み込みそうだったからだ。

 下手に関わったら大変なことになると、本能が告げている。


 だから俺も周りに倣って、聞くとしよう。


「早霧はどうするんだ?」

「え? 何が?」


 俺と同じように周囲のワチャワチャを楽しそうに見ていた早霧に話しかける。

 しかし当の本人は何が何だか分かっていない様子で、キョトンと首を傾げた。


「早霧が言い出しっぺだろ? 多くゴミを集めたチームの勝ちって。だから今のうちに――」

「私の負けだよ?」


 ――なんだって?


「だから、私の負ーけ!」


 聞き間違いかと思った。

 でも、聞き間違いじゃなかった。

 早霧は清々しいまでの笑顔で俺に負けを宣言する。


「いやいや、そっちの完全勝利で終わっただろ? 他のみんなだって、そういう反応だし……」

「でも、私は負けたよ?」

「んん?」


 いまいち話がかみ合っていない気がする。

 他に何か、勝負してたっけか?


「あーあ、蓮司に先越されちゃったなー」

「先?」


 残念そうに、でも笑顔で。

 早霧がゆっくりと俺に近づいてくる。

 そこから至近距離で俺を見上げる顔は、誰がどう見ても敗者の顔じゃなかった。


「……今度は私の方が、蓮司のこと大好きだってちゃんと言うからね?」

「……っ!?」


 にひっと笑う親友の新しい一面に、俺の胸の奥が大きく跳ねた。

 その隙を逃すまいと、早霧はただでさえ近い距離をさらに詰めてくる。


「だから、今日は私の負けだから――」


 そしてそのまま、他の誰にも聞こえないように俺の耳元でそっと。


「――何でも、好きなこと命令して良いよ?」


 そう、囁いた。

 思わずバッと距離を取って早霧を見れば、悪戯な笑みを浮かべながらもその顔は夕日に染められたかのように真っ赤になっていた。


「か、考えとく……」


 反則だった。

 自分でも恥ずかしいのに諸刃の剣で斬りかかってくる早霧に、俺は一杯食わされてしまった。


 顔が、身体が、胸が熱い。

 夏と、厚着のせいだろうか?

 いや、愛しい愛しい親友のせいだった。


 こうして河川敷のゴミ拾い対決と、朝から実は続いていたどっちの方が相手の事を好きか勝負は一端の幕を閉じる。


 大きな愛の痛み分けとそれ以上の愛しさを、俺たちはお互いに感じ合いながら。

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