第210話 『あちー!』
上流に向かって河川敷のゴミ拾いを始めてしばらくして、目的地と言うか折り返し場所である簡易テントとゴミ置き場にたどり着いた。
簡易テントの下ではスタッフの人たちが紙コップで飲み物と塩飴を配っていて、その前に並べられたテーブルと机では一仕事終えた参加者が休憩をしている。
全員が手持ちのゴミ袋を半分以上膨らませた俺たちも、ちょうどよく空いていた六人掛けのテーブルに座る。
席は一つ空いているけれど、五人だから問題はないだろう。
俺と長谷川が隣り合って座り、向かい側には草壁、太一少年、厚樹少年の並びで座った。
水筒を持っている小学生組は自分の水筒を、そんなものを持ち合わせていない計画性の無さが露呈する高校生組はスタッフから貰った飲み物で喉を潤していく。
「あちー!」
水筒の中身を豪快に飲み終えた太一少年が唸る。
夏の暑さにも負けないレベルの元気さはまだまだ健在だった。
「良い飲みっぷりですねぇ」
「だろー? 母ちゃんにももっとゆっくり飲みなさいって言われてるんだぜ!」
「それ怒られてない……?」
和気あいあいと、ゴミ拾いで心を通わせた三人が向かい側で馴染んでいる。
草壁は内向的な性格だし飛び入り参加だからどうなるかと思ったけど、大家族の長女という抜群のポテンシャルを発揮していた。
「ここにゆずるちゃんがいれば、ここにゆずるちゃんがいれば……」
「……何してるんだ、長谷川?」
さっきまでの純粋さナンバーワンがどこにいってしまったのか、大男長谷川が俺の隣でブツブツと怪しい呪詛のようなものを呟きながら両手でスマホを弄っている。
その全てがミスマッチしている光景は、夏に見るホラー特集番組より怖かった。
「ああ、これはな……ゴミ拾いのレポートをスマホで書いていたんだ」
「レポート?」
「ああ、じぶけんの活動記録に必要だからな。ゆずるちゃんはこういう頭を使う作業は苦手だからいつも俺がやってるんだ。まあそこが可愛いんだけどな」
「……真面目、なんだな」
「だがレポートの為にゆずるちゃんの写真を使いたかったんだが今この場にいなくてだなぁ!!」
「惚気に舵を切ったのを聞かなかった事にして一度褒めた俺の言葉を返せ」
好感度が乱高下する大男である。
多分これがギャグマンガならコイツは、怒りながら血の涙を流しているだろう。
「でも良いですよねぇ……。お互いにないものを補い合う関係ってぇ……」
「おお! 分かってくれるか草壁ちゃん!」
「は、はいぃ……。わ、私もくび……じ、自分一人じゃあ限界がありますからぁ……!?」
草壁は今絶対に首絞めって言いかけてた。
子供たちの前だからギリギリ踏みとどまったけど、事情を知ってる側からしたらその後の言葉も全部意味深に聞こえる。
「お互いに、ないもの……」
「どうした? 厚樹少年」
「あ、蓮司お兄さん。僕とアイシャにもそういうのあるかなって思いまして……」
草壁にこれ以上踏み込むのは危険だと思っていた矢先、厚樹少年が呟いたのでそっちに話しかける事にした。
本当に真面目に許嫁であるアイシャの事をいつも考えている彼には、時折俺でも頭が上がらない時がある。
「無理して探す必要は無いと思うぞ? こういうのは、気づいたら補い合っているものだと思うし」
「な、なるほど……! じゃあ蓮司お兄さんと早霧お姉さんもそうなんですか?」
「え?」
突然のキラーパス。
「あ、それ俺も聞きたい! 兄さんと姉さんの話もっと聞かせてくれよ!」
「わ、私も同志と八雲さんのお、おは、おははお話しを聞きたいですぅ……!」
「確かに! そう言えば赤堀お前一時期は八雲ちゃんに勝ちたいとか親友がどうとか言いまくってたけどアレどうなったんだ!?」
「そ、それは……」
そしてそれに便乗して全員が俺に視線を向けて来た。
いきなり訪れた四面楚歌とそれぞれの圧が俺を襲う。
俺と早霧の話を、どう答えたら良いものか……。
そう、悩んでいると。
「え? 何々? みんなで蓮司の話してるの? 私も聞きたい!」
「え? はっ? さ、早霧っ!? 何でここにいるんだお前!?」
色々と最悪のタイミングで、下流側にいる筈の早霧が現れたんだ。




