第207話 『デケェーッ!!』
早霧が提案した、ゴミ拾いで勝った方の言う事を何でも聞くというご褒美によって、小学生たち五人組が目に見えてやる気を出していた。
全員一致団結してくれたのはこれからの事を考えると悪い事じゃないんだが、理由が理由なので少しだけ不安だった。
「おーいっ! さぎりーん! レンジーッ!」
「ここにいたか赤堀ー! 八雲ちゃんー!」
そんな夏の暑さとは真逆な不安を感じていると、夏の太陽のように爽やかに手を振って人込みの中から見知った大男と小柄な少女が現れた。
我らがボランティア部こと自分らしさ研究会の副会長長谷川と、会長のユズルである。
先日想いを伝えあって付き合いたての初々しい身長差幼馴染カップルは、一日や二日過ぎた程度じゃ変わらない元気さで現れた。
「あ、やっほーゆずるん! それに長谷川くんも!」
「学校以外で会うとなんか不思議な感じだな……」
いつも通りのメンツ、格好も全員が長袖か半袖かの差異はあるけれど学校指定のジャージ、ポロシャツ、ハーフパンツといういつもの恰好。
しかし場所は河川敷で、他にも人が大勢いる。
なんていうか、すごく夏休みって感じがした。
「うおーっ! デケェーッ!!」
「こ、こら失礼でしょアンタ!?」
「ご、ごごごごめんなさい……」
そんな長谷川とユズルの登場に、いや特に大男長谷川の登場に幸せ三角関係組が大きく反応する。
確かに、いきなり知らない身長とガタイが良すぎる大男が現れたらいくら小学校高学年でもビビるに決まってるか。
「お! 赤堀、この子たちはまさか!」
「れ、蓮司お兄さんこの人って……?」
そんな時、ピッタリと長谷川と厚樹少年の声が重なる。
話題には出していたけれど、そういえば俺と早霧以外は初対面だった。
「えっと、まずはこっちから。この大きいのが長谷川で、隣にいる小さいのがユズル。どっちも俺と早霧のクラスメイトで友達だから、心配しなくて良いぞ」
「おおっ! お前らが噂のラジオ体操小学生か! よろしくなっ!!」
「さぎりんたちから話は聞いてるよっ! みんなよろしくねっ!!」
長谷川の大きさに圧倒される厚樹少年をよそに、自分らしさ研究会の元気担当である会長と副会長はいつも通りの明るさで笑顔を振りまいている。
「で、二人に紹介するけど、こっちの仲良しでピッタリくっついている二人が厚樹少年とアイシャ。それで更にこっちの仲良し三人組が太一少年と真里菜と美玖で、全員ラジオ体操に来てくれている小学五年生だ」
「おーすっ! よろしくなデカイ兄ちゃんに小さい姉ちゃん!」
「よ、よろしくお願いしまーす!」
「よ、よろしくです……」
「蓮司お兄さんのお友達でしたか……。よろしくお願いします! ほら、アイシャも」
「よ、ヨロシク……!」
全員が顔を合わせて挨拶を済ませる。
その後すぐに動いたのは、全員の中で一番活発的な太一少年だった。
「なあなあデカイ兄ちゃん! 兄ちゃんは俺たちの仲間だよな!」
「おっ! なんだ仲間って! なんか良く分からんが仲間に入れてくれるのか!」
「あ、ズルいわよ太一!」
「へへーん! チーム分けで男女別れたんだからズルくなんかねーよ!」
「ま、真里菜ちゃん……でも数はこっちの方が多いよ……?」
「ねえねえ、レンジにさぎりん? チームってなんのこと?」
早速勧誘をしながらいつものように明るい言い争いをしている三人組を横に、ユズルが俺と早霧に話してくる。
それにいち早く反応したのは、何故かずっと胸の前で腕を組んで大将面をしていた早霧だった。
「よくぞ聞いてくれたねゆずるん! えっとほら、私たち部室でくじ引きをして、男女分かれることになったでしょ?」
「うん、今日はよろしくねっ!」
「よろしくよろしく! でね、ここにいる皆も同じように分かれたんだけど、勝負をする事にしたんだー!」
「勝負?」
「そう、真剣勝負! 勝った方が、負けた方に何でも言う事を聞かせられるの!」
腰に手を当て、反対の手で青空を指差しながら早霧が宣言した。
その瞬間、何故か背後で爆発や雷みたいなエフェクトが見えた気がする。
……ひょっとしたら、疲れているのかもしれない。
「な、何でも……!?」
「い、言う事を……!?」
ワンテンポ遅れて、それに強く反応したユズルと長谷川。
それはもう、二人の目がくわっと見開いて。
「ご、ゴウが……何でも聞いてくれる……!」
「ゆ、ゆずるちゃんが……俺に、何でも……!?」
言わずもがな、それは単純な二人にも火をつけてしまった。
「や、やるよみんなっ! わ、私たちでこの河川敷を綺麗にしちゃおう!」
「やるぞ男どもっ! 俺たちで河川敷の、いや河の中のゴミまで拾ってやるぜ!」
あ、駄目だこれと思った。
この二人までこうなってしまっては、もう誰も止められない。
そんな時、遅れて人込みの中からこっちに駆け寄って来る人影があった。
「み、みなさぁん……お、遅れてすみませぇん……!」
目隠れ少女、首絞め大好き草壁である。
俺や早霧はともかく、何故か彼女も長袖ジャージを着ていた。それも上下で。
暑くないのだろうか。
「やっほーひなちん!」
「やるよひなちゃん!」
「ひょわっ!? や、やるって何ですかぁ!?」
目隠れジャージ少女は早速、早霧とユズルに捕まった。
首を右往左往激しく揺さぶりながら、救いの視線を長い前髪の内側から送ってきている気がする。
「まあ、その……何だ。お互い頑張ろうな……」
「ど、同志ぃ!? 何故遠い目をしていらっしゃるのでぇ!? 説明を、説明を求めますよ私はぁ……!?」
良かった。
この場にツッコミをしてくれるマトモな人物が現れて、本当に良かった。




