第205話 「――みゅっ!?」
夏祭りが行われる思い出の神社の前をバスが通り過ぎて数分して、目的地である河川敷へとたどり着いた。
街の外れを流れる河川は流れが緩やかで道も広く、地元ではレジャーに人気のスポットである。
まあ俺も早霧もどちらかと言えばインドア派なのであまり来ないが、数年前の中学生時代にはここで泳いだりした記憶もある場所だった。
「うおーっ! 思ったより人いんなーっ!」
「もうっ! 子供じゃないんだから騒がないのっ!」
「私たち、まだ子供だよ……?」
河川敷には老若男女多くの人が集まっていて、この暑さだというのに活気に包まれている。
元気いっぱいの太一少年がはしゃぎ、それを真里菜が注意して隣では美玖がオロオロしている幸せ三角関係トリオのいつもの構図が繰り広げられていた。
「アツキ、暑いからお水飲む?」
「も、もう大丈夫だよ!?」
一方、厚樹少年とアイシャのラブラブ許嫁ペアは、夏の暑さを心配したアイシャが厚樹少年にまた水筒の中身を飲ませようとしていた。
流石にいくら愛があっても飲みすぎには勝てないらしく、厚樹少年は激しく首を横に振っていた。
「あーつーいー……」
「くっつくな抱きつくな寄りかかるな暑いんだから」
そして暑さに溶けた早霧は俺にダル絡みをし始めていた。
お互いに長袖のジャージのチャックを一番上まで閉めているので暑い事この上ない。でもこの下はどっちもキスマークだらけなので、脱ぐわけにはいかなかった。
「アツキも暑くなればお水飲んでくれる……?」
「アイシャはそんなに僕に飲ませたいの……?」
変な悪影響というか、悪知恵がアイシャについてきてしまっている気がする。
良い思い出を作ってあげようとは言ったけど、このままでは厚樹少年が身体を張りまくってしまいそうだ。
……しょうがない。
「早霧、ちょっと良いか?」
「えー……?」
だらけきって寄りかかっている早霧を引っ張って、連れていく。
目的地はすぐ近く、俺たちが降りたバス停小屋の裏だ。
ここなら人目につかないので。
「――んっ」
「――みゅっ!?」
早霧に、キスをした。
唇に伝わる柔らかな感触も、触れるだけの短いキスなのですぐに離れた。
それでもだらけた早霧の目を覚ますには十分だった。
「にゃ、にゃにゃにゃっ!?」
まさかここで俺の方からキスするなんて思ってなかったらしく、白い顔が真っ赤になっていく。
猫みたいな声や、誰かに見られてないかとキョロキョロする姿も可愛いが、そこは俺も注意を払ったので安心して本題に入る。
「早霧」
「にゃっ!」
「カッコいいお姉さんになりたくないか?」
「……にゃ?」
それは可愛いお姉さんだよ。




