第202話 「あっためてー?」
スク水は、学校で着るべきだと思う。
何故そう思うのかと言えば、早霧が今俺のベッドの上で、俺の隣でスク水を着て座っているからだ。
色白の肌の上に纏った濃紺の水着はピッチリとしていて、身体のラインをこれでもかと浮かび上がらせている。発育がよく、色々な意味で元気に育った親友の姿は嬉しくもあれば目の毒でもあった。
水着と言えばプールの匂いを考えるかもしれないけど、今の早霧からはお風呂上りで甘い香りが漂っている。
長く白い髪の隙間から覗く首筋には俺がさっきつけたキスの痕が見えて、それがよりいかがわしさを増やしていた。
「おりゃ、おりゃ」
そんな俺を、早霧がひじでつついてくる。
これに何の意味があるのか分からないけど、その場その場の勢いで動いている早霧にとっては今さらだった。
「何か言ってよ……」
「す、すまん……」
どうやら俺の反応待ちだったらしい。
突拍子もないことばかりする早霧だけど、羞恥心は人並みに持ち合わせていた。
それがまた愛おしい部分だと思う。
「蓮司が私をこんな格好にさせたんだから、責任を取るべきだと思うの」
「責任って……」
着たのは自分自身だろと言いかけて口を閉じた。
早霧が着替えるしかなくなってしまった原因を作ったのは俺なのだ。
それは今もチラチラ見えている首筋の赤い痕を見れば一目瞭然で、その弱点があるからこそ俺は何も言えなかった。
「お、俺は……何をすれば良いんだ?」
嫌々ながら俺は聞く。
いや、嫌じゃないしむしろ嬉しい。それこそ前みたいに俺がスク水を着ろとか言われなければ基本的には何でもご褒美になるだろう。
「で、でも五分! 五分だけだからな?」
「えー!?」
ただバスの時間はどんどん近づいているので、それだけは要注意だ。
「これからゴミ拾いだぞ? それに、終わった後ならいつでも……」
あれ? 俺は何を自分から言ってるんだろうか?
「本当!? 約束だよ! じゃあとりあえず今は五分だけね!」
そしてそれに速攻食いついてきた。
淡い色の瞳がキラキラと輝いている。
子供かと思うけど、そんな子供っぽさだってとても可愛かった。
「じゃあねー、えっとねー、何してもらおっかなー?」
「考えてなかったのか……」
ザ・行き当たりばったり。
それが早霧だ。
「五分だけだしぃ、そうだなぁ……へ、へくちっ!」
「さ、早霧!?」
悩んでいた早霧が、可愛いくしゃみをした。
そのまま両手で自分の胸を抱いて身体を震わせる。
「れ、冷房効きすぎじゃない……?」
「いや、お前、その恰好……」
外は炎天下だった。
だからエアコンを最強にしていた訳だけど、稼働してから一時間も過ぎていれば部屋はキンキンに冷えているという訳である。
さっきまではベッドの上で早霧の体にキスをしまくっていたので火照っていたけれど、一度シャワーを浴びて水着姿でいるには寒すぎるらしい。
ごもっともだけど、今まで気づかなかったのかとも思った。
「はぁ……。まあ、そろそろ出かけるしエアコン止め」
「とりゃーっっ!!」
「うおおっっ!?」
ベッドの端にあるエアコンのリモコンを取ろうとした所で、俺の体は早霧による強烈なタックルを食らってしまう。
そのままベッドに倒された俺が上を見てみれば、何かを企んでいる早霧の顔があった。
「冬にコタツの中でアイスを食べるのって美味しいよね?」
「は、え……?」
何言ってるんだコイツと思った。
言いたいことは分かるけど、今は夏だしシチュエーションが真逆である。
いや、真逆ってことはまさか……。
「あっためてー?」
「おまっ!?」
そのまさかだった。
ベッドの上に押し倒した俺に、早霧は覆い被さりながら抱きついてくる。
夏服越しに感じる早霧の身体は、スク水という事もあってかさっきとはまた違った柔らかさを感じた。そしてそんな恰好をしていたせいで身体は少しだけひんやりしていたけど、冷房に比べればあたたかかった。
「んー! あったかーい!」
「や、やめっ! 変に動くなぁっ!?」
「えー?」
暖を求めて早霧が蛇のように絡まってくる。
柔らかい、柔らかい、柔らかい。
全身を柔らかさが包んでいた。しかも良い匂いがするし、良い匂いもする。
俺の頭はパニックだった。
「じゃあ……ちゅー、する?」
「じゃあってなんだ!?」
ずいっと、ベッドの上で早霧の顔が近づいてくる。
この状況下に加えて、キスのスイッチまで入ってしまったらしい。
「だって蓮司の口の中、あったかいもん……」
「変な言い方しないでくれるか!?」
いや、そりゃあ早霧の口の中も凄くあたたかいし、今重なっている身体よりも舌が絡んでくるけれど……。
「そ、それにまた夢中になったら時間が……」
「五分だけ! 五分だけだから!」
「そう言って今までんんっ!?」
「――んぅ」
俺たちがバス停についたのは、バスが発車する直前だった。




