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【書籍化決定】ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
第七章 俺たちはもっと仲を深めたい

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第188話 「……じゃあ、なっちゃう?」

「パパー! 誕生日おめでとう!」

「あなた! おめでとう!」

「おめでとうございます!」


 ――パンッ!!

 夜、七時。

 早霧の父さんが仕事から帰って来てリビングに入った瞬間、俺たちは同時にクラッカーを鳴らした。


「……へ?」


 それに目を丸くして驚いた早霧の父さんは、クラッカーから飛び散った紙テープまみれになりながら固まっている。

 そこにいち早く動いたのが、このサプライズを計画した早霧だった。


「本当はちゃんと誕生日にお祝いしたかったけど、パパ来週から出張に行っちゃうから、ママと一緒に驚かせたかったの! パパ! お誕生日おめでとう!!」

「さ、早霧……う、うぅぅ……っ!!」

「もうあなたったら、本当に泣き虫なんだから……」

「だ、だってぇ……!」

「えへへー、ぶいっ!」


 早霧の気持ちがこめられた突然のサプライズに、泣き上戸な早霧の父さんは眼鏡を外して目元を強く擦る。

 それに早霧の母さんが微笑みながら近寄り、サプライズに成功した早霧は振り返って俺にピースサインをしてきた。

 家族全員がとても嬉しそうで、見ている俺も幸せな気持ちになる。


 最初は俺の勘違いから変な暴走をしてしまったけど、こうして早霧の父さんへのサプライズ誕生日パーティが始まったんだ。


  ◆


 楽しいパーティが始まって、早霧一家と俺は同じテーブルで豪華な料理を食べた。

 会話が弾み、早霧と父さんと母さんの馴れ初めの話になって、実の親の話はやっぱり聞きたくないのか早霧がそれを止めようとしたりして。


「ママ。早霧。それに蓮司くん。今日は本当にありがとう!」


 そして最後に大きなホールケーキを切り分けた後、改めて早霧の父さんが俺たちに満面の笑みでお礼を言ってきた。

 幸せな笑顔とは、こういう顔を言うのだろう。


「ううん、私もすっごい楽しかったよ!」

「早霧……!」

「そうよ。私もあなたが喜んでくれてすっごく嬉しいわぁ!」

「ママ……!」


 母娘に笑顔で返されて、早霧の父さんはまた泣きそうになっていた。

 何だかこういうの、すごく良いなぁ。

 人の家だからだろうか?

 俺の家だったらこんな素直に祝わないと思う、違う意味で騒がしくなりそうだ。


「蓮司くんも、ありがとう……!」

「い、いえ! 俺の方こそ家族だんらんの中にお邪魔しちゃって……」

「何を言ってるんだい! 蓮司くんは昔から、家族みたいなものじゃないか!」

「あ、ありがとう……ございます」


 どうしよう、俺もすごく嬉しい。

 早霧の父さんが言う通り、昔からずっと一緒でお世話になっているけれど、改めてこの歳になっても家族みたいだと言ってくれるのが本当に嬉しかった。


「蓮司、照れてるー!」

「そ、そりゃ照れるだろ!」


 それを隣に座っていた早霧に茶化される。

 良いだろ、早霧の父さんだって嬉しくて泣くぐらいなんだからさ!


「あらあら、仲が良いのね」

「嬉しいけど、僕は複雑な気分だよ」


 そんな俺たちを見て、早霧の父さんと母さんは優しく微笑んだ。

 ああ、やっぱり……こういうの良いな。

 我が家なら全力で母さんが囃し立てて、急に父さんが変なことを言うのが目に見えていた。

 でもそこに早霧がいるなら、それも良いかなとか思ったり。


「ふふ、見られちゃってるね」

「見られちゃってるね、じゃないが!? は、恥ずかしくないのかお前は!?」


 その間も調子に乗った早霧が、人差し指で俺の頬をつんつんとつついてくる。

 それのせいか嬉しさや照れはいつの間にか消えていて、途中から恥ずかしいに切り替わっていた。


「じゃあ、なっちゃう?」

「え?」

「……本当の、家族に」


 早霧の指先が俺の頬に触れたまま、時間が止まったかのようだった。

 隣から俺を覗く早霧は期待するように頬を赤らめ、口元を緩めている。

 その可愛さ、そしてその言葉の意味に、俺は固まってしまった。


「えへへー! うーそっ! まだ早いもんねー!」

「むぐっ!?」


 次の瞬間、早霧は表情を崩していつもの悪戯な笑みを浮かべる。

 そして俺の頬をつついていた指で、俺の鼻をつまんできた。


 お、俺が本気で心を動かされていたのに、コイツ……!


「あらあら、まあまあまあ……!」


 そんな俺たちのやり取りはやっぱり早霧の両親に見られていて、早霧の母さんは頬に手を当てて微笑み喜んでいた。


「ぐ、ぐぎぎぎ……僕は、僕はどうしたら……これが、親の、宿命なのか……っ!」


 そして。

 さっきまで笑顔と涙を浮かべていた早霧の父さんは、苦痛と怒りと悲しさが混ざった阿修羅のような形相で……俺たちを見つめていたんだ。

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