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【書籍化決定】ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
第七章 俺たちはもっと仲を深めたい

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第169話 「……ど、どうしよっか?」

「ありがとう早霧、おかげで助かった……」

「ううん、私も長谷川くんが急に走り出すからビックリしちゃった」


 長谷川がユズルに告白を始めた自分らしさ研究会の部室から抜け出した俺は、すぐ近くの階段に早霧と一緒に腰かけていた。

 視線の先には閉められた部室の扉が見えていて、今も中で二人が話しているんだと思う。


「これ、お礼じゃないけど飲むか?」

「ありがと。蓮司はどっち飲むの?」

「俺は早霧が飲まない方で良いぞ」

「じゃあ私は、お茶ちゃんにする」


 さっき自動販売機で買ったスポーツドリンクと当たったお茶のペットボトルを、俺と早霧の間に置いた。

 早霧はお茶を取ったので俺はスポーツドリンクのペットボトルを手に取る。

 少しぬるくなっていたけれど、渇いた喉を潤すにはとても良かった。


「……ゆずるんと長谷川くん、大丈夫かな?」

「それは二人次第だけど、多分大丈夫だと思う」

「蓮司は聞いた?」

「ん?」


 部室の扉を見ていた早霧が俺を見る。

 ユズルと話したことじゃないのは確かだろうけど、何のことかわからない俺は首を傾げた。


「長谷川くん、昔は転校ばっかりしてたんだって」

「……長谷川が?」

「うん。家の都合って言ってた」


 それは初耳だった。

 高校に入ってからの付き合いだからまだ一年ぐらいしか経ってないのもあるけど、長谷川の昔話なんてそれこそさっきユズルから聞いたことぐらいしか知らない。

 そんな俺を見た早霧が言葉を続ける。


「だから昔は、あんまり友達を作らなかったんだって」

「長谷川が!?」

「うん。仲良くなっても、すぐに転校してばっかりだったからだって」


 それも知らなかった。

 俺はどうやら長谷川という男を何も知らなかったみたいだ。

 いつも声が大きくて誰とでも仲良くなれるような元気いっぱいのムードメーカーにそんな過去があるなんて……。


「俺たちって、部活は同じだけどあんまり昔のこととか話さなかったんだな」

「……そうだねー」

「さ、早霧……?」


 隣に座っていた早霧が距離を詰めて、俺の肩に頭を乗せてくる。

 それは朝の公園と同じ状態で、違うとすればベンチか階段、どちらに座っているかぐらいだった。


「……話したくても、忘れちゃってる誰かさんもいたしねー」

「う……す、すまん」

「ううん、ちょっと意地悪したくなっちゃっただけだよ? うりうり」

「や、やめろって!」


 すぐに肩から頭を離した早霧が今度は人差し指で俺の頬を突っついてくる。

 完全に悪戯モードに入っているようだった。

 でもその悪戯は心臓に悪いからやめてほしい。


「と、ところで、長谷川はどうして急に走って来たんだ?」

「え? ああ、それはさっきの話に、戻るんだけどさ……」


 俺は早霧のちょっかいを止めさせるために話題を戻す。

 だけどそれを話し出した早霧は、少し言葉の歯切れが悪くなっていった。


「……長谷川くん、さっき一目惚れってゆずるんに言ってたでしょ?」

「……言ってたな。急に入ってきて告白するから、早霧が呼んでくれるまで出るに出られなかった。それで、その一目惚れが関係あるのか?」

「一目惚れというか、友達を作らなかったっていう方に戻るんだけど。そもそも長谷川くんが転校ばっかりしてたのって、お父さんの仕事で転勤が多かったからだって」

「それは、そう、だろうな……」


 転校をしたことが無いのでわからないけど、親の仕事の都合はよく聞く話だ。

 でもそれだけじゃ、早霧が言い難そうにしている理由まではわからなかった。


「だけど、ゆずるんに一目惚れしちゃったでしょ?」

「ああ……」


 まさか、それからまた転校を?

 そう思ったけど、ユズルはそんなことは言ってなかったので、俺は口に出しかけた言葉を引っ込めた。


「……その後に、さ。お父さんが病気で亡くなっちゃったんだって」

「……え?」


 早霧が視線を落としながら言う。

 それは予想していなかった、とても重い話だった。


「だから、って言っちゃ駄目なんだけど。長谷川くんはそれから転校する理由が無くなったって言ってた。でもやっぱり、寂しかったし悲しかったって……」

「……そうか」


 俺も早霧も、両親は健在だから長谷川の気持ちを完全に理解はできない。

 でも辛くて悲しいことはわかるし、それが小学生の時ならなおさらだ。

 

 そしてそれを聞いて、俺はそれと少し似たような話を思い出した。


「でも、ゆずるんと一緒にいたおかげで寂しくなかったんだって」

「……すごいな、長谷川」


 長谷川らしいと言えばらしいのだろう。

 親を亡くして悲しいけど、一目ぼれしたユズルが虐められないようにずっと隣にいたんだ。そしてそれはユズルを救うと同時に、長谷川自身も救われていたという。


 ……あの二人以上にお似合いなカップルなんて、そういないんじゃないだろうか。


「だからね、ちょっと似てるなーって思って、アイシャちゃんたちのことを話しちゃったんだけど……」


 そして。

 本題に戻った早霧がまた視線を落とす。

 それは今までみたいな重い話では無くて、やってしまったことを反省するかのような視線の落とし方だ。


「それを聞いた長谷川くんがね、全力ダッシュで走ってっちゃって……」

「……長谷川、らしいな」


 そしてそれは、俺も予想できた、できてしまった。

 めちゃくちゃ重い話をしてきたけど、そんな話の中心にいる長谷川は友達想いかつユズル第一な明るくて身体も器も大きい単純な男である。

 そんな男が自分と似たような境遇にいる厚樹少年とアイシャの話を聞いて、更に二人はこれから離れ離れになってしまうと聞いたら影響を受けない筈がなかった。


 それで夏祭りに告白すると言う王道のプランを全て捨てて、長谷川は今ある想いを全部ユズルへ伝えに来たんだろう。

 とんでもなく振れ幅の大きい男だよ、アイツ……。


「……ゆずるんと長谷川くん、大丈夫かな?」


 そしてまた。

 早霧は最初と同じ呟きをする。


「めちゃくちゃお似合いだと思うぞ」


 そして俺の答えは、少し変わった。

 元々大丈夫だとは思っていたけど、早霧の話を聞いて更に確信した。

 長谷川とユズルなら大丈夫だ。

 だってお互いがお互いに救われていて、必要としているんだから。


「だよね! 私もそう思う」


 そして俺と同じ考えの早霧も隣で笑う。

 俺もその笑顔を見て嬉しくなったし、後はあの二人が出てくるのを待つだけだ。


「それで、さ……」

「ん?」


 話が一段落ついて、スポーツドリンクが入ったペットボトルを飲もうとしたら、早霧がまた話しかけてきた。

 まだ何かあるんだろうか?

 そう思った俺は顔を横に向ける。


「二人は今、大切なことを話してる……でしょ?」

「お、おう……」


 ――ずいっと。

 早霧が更に距離を詰めてきた。

 元々肩が触れ合うぐらいに近かったけど、それよりも更に近いっていうか完全にくっついていた。


「邪魔しちゃ駄目だと、思うんだよね……」

「それは、そうだな……」


 早霧の視線が落ち着かない。

 何かを言いたいのに恥ずかしそうな、そんな感じで。


「だ、だからその間は……」


 流石の俺でも、早霧が言いたいことは予想できて。


「……ど、どうしよっか?」


 思い出したのは、学校で五回キスをするという……あの約束だった。

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