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【書籍化決定】ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
第六章 俺たちは幸せを分かち合いたい

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第138話 「待てー!」

「待てー!」

「待つか!」


 閑静な住宅街の中にあるこじんまりとした公園が突如として追いかけっこのバトルフィールドに変わる。

 参加者は、早霧と俺の二人。

 ベンチと木しか無い小さな公園の中を、俺たちは全力でグルグルと回っていた。


「今なら私の言うこと一回聞くだけで許してあげるよ!」

「そう言って一つだった試しが無いんだが! 一回キスしてって言って、一回で止まる方が珍しいだろ!」

「それは蓮司だってそうじゃん!」

「早霧が魅力的なのが悪い!」


 ――ギャーギャー!

 近所迷惑にならないだろうか、なんて考えは無かった。

 頭の中にあったのは追いかけっこでも言い合いでも早霧に負けたくないという一心である。

 当然、どうしてこの追いかけっこが始まったのかなんて些細な理由も忘却の彼方に消え失せていた。


「だいたい俺に何をお願いする気だ!」

「私の好きなところ十個言ってほしい!」

「さっき言っただろ!」

「みんなにじゃなくて私にだけ言ってほしいの!」

「可愛い! 綺麗! 美人! スタイル抜群で足が長い! サラサラの髪はずっと撫でていたいし吸い込まれそうな瞳をずっと見ていたいしその声を聞くだけで元気になれる! 絹のような色白の肌は手触りが良いし薄桃色の唇はそれ以上に最高の感触だと俺は思う!!」

「心がこもってないよ!」

「超こめたんだが!?」


 俺が早霧を褒めたたえている間も追いかけっこは継続していた。

 普通に走れば俺の方が圧倒的に速いのだが、狭い公園となると話が変わってくる。全力を出せばすぐ壁に追いやられるし、後ろから追ってくる早霧を確認して考えながら逃げなければならない。

 早霧の好きなところを言うのなんてそれこそ朝飯前ではあるが、これらのことを同時にこなすのはちょっとだけ難しかった。


「できれば、ぜぇ、耳元が、はぁ、良いぃ……」


 しかし、それ以上に早霧がバテる方が早かった。

 足は動いているけれど、ほとんど歩いている。

 追われていたはずの俺がいつの間にか早霧の後ろに回っていた。


「そりゃっ!」

「きゃぁっ!?」

「ははは捕まえたぞ早霧!」


 なので俺が捕まえることにした。

 後ろから手を回し、早霧の細い腰を抱き上げる。

 突然の出来事に早霧が俺の頭を抱きしめるように掴む。

 頭や顔いっぱいに柔らかさが広がるが、落ちずに安定してくれるならそれで良い。


「えぇっ!? お、降ろしてよぉ!」

「まだ駄目だ。暑いんだから、涼しくなりたいだろ?」

「えっ――きゃあああああああああっっ!?」


 ――グルグルグルグル!

 昨日と同じように早霧を担いだ俺はその場で高速に回りだす。

 高い位置で身体の自由が利かない早霧は、なすすべがなく俺にしがみつくしかないのだ。


「れーんーじーおーろーしーてー!」

「元々お前が追いかけてきた方が悪いー!」


 ――グルグル。

 早霧を担いでる都合上危ないので思ったより速くは回れないが、それでも上にいる早霧の体感速度は相当なものだろう。

 昔はこうして早霧と身体を動かす遊びが出来なかったから、こういうのも新鮮で良いかもしれない。


「わかったわかったわかったわかったわかったわかったわかったわかったわかったわかったわかったからぁ!!」


 ――ベシベシ!

 早霧が同じことしか言わなくなり、俺の頭を本気で叩くようになった。

 どうやら限界が近いらしく、これ以上俺だけ楽しむのはかわいそうなので止めることにする。


「ははは、仕方ない、な……」


 そうして、回転を緩め始めた時である。

 明瞭になった視界の先で、俺たちに視線を向ける姿を見つけたんだ。


「えっと、蓮司お兄さん……何、してるんですか?」


 そこには俺を見つめる、将来イケメン有望の厚樹少年と。


「アツキ! アイシャも! アイシャもあれやりたい!」


 その厚樹少年におんぶされている、金髪イギリスハーフ美少女のアイシャだった。


「……厚樹少年たちこそ、何してんだ?」


 片や、早霧を抱きかかえてグルグルと回っていた俺。

 片や、アイシャを背負って公園に入ってきた厚樹少年。

 俺たちは互いに、好きな人を背負うもしくは抱きかかえていた。


 人の振り見て我が振り直せとは言うが、相手を見て初めて自分が冷静になれるのだと学んだ夏である。


「う~~~~っ!!」


 ――ベシベシベシベシベシベシ!!

 その間も、俺の頭には早霧の無言の抗議が降り注いでいた。

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