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【書籍化決定】ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
第五章 俺はあの日のキスを思いだしたい

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第131話 「大好きーっ!!」

「お世話になりました!」

「良いのよ早霧ちゃん。むしろ早霧ちゃんがいてくれて助かったわぁ。うちの蓮司、早霧ちゃんがいないと本当に面白みのない息子だから」

「おい母さん」

「ふふふっ、蓮司は私がいないと駄目なんだよね?」

「う、うるさい!」


 夕方になって、父さんと母さんが長い旅行から帰ってきた。

 流石に母さんも前回の部屋乱入からノックを覚えたようで、夢中になって何度もキスをしまくっているところを見られるという最悪の事態は回避できたのである。

 早霧の両親も家に帰っているらしく、身支度を終わらせた早霧を見送る為に俺と母さんは玄関の前に立っていた。


「あらあら、もう数日ぐらい旅行延長した方が良かったかしらぁ?」

「母さん!」

「あ、でも蓮司のパパさん大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ大丈夫! ちょっと自分の運動不足を忘れて張り切りすぎただけだから!」

「ママさんは公園でヨガやってますもんね」

「ヨガは良いわよぉ。早霧ちゃんも今度一緒にどう? 蓮司もお父さんも、誘ってもちっとも興味なさそうなのよねぇ」

「あ、じゃあ今度お願いします!」

「はぁ……やっぱり良い子ね早霧ちゃん! 娘に欲しいわ! 蓮司! アンタこんな良い子悲しませちゃ駄目よ!」

「いって!? か、母さん! もう良いから父さんの腰に湿布でも貼ってくれ!」

「あらあらもう素直じゃないんだからアンタは! じゃあね早霧ちゃん! 今度一緒にヨガウェアを買いに行きましょう!」


 旅行帰りだというのに隙を見せたら無限にトークを続ける母さんの背中を玄関の中に押し込んだ。

 俺はあまり喋っていないのに何だかドッと疲れた気がする。


「ママさん、すっごい元気だね」

「元気すぎてヤバい。夕飯の時とか、ずっと喋ってる」

「蓮司は中々喋らないもんね? 大事なこととか特に」

「う……すまん」

「許してほしい時はー?」

「……早霧」

「――んっ」


 塗り直したリップクリームに包まれた、唇の感触が広がる。

 閉じた目を開くと、早霧の顔が世界の全てだった。


「いひひ、許してあげます」


 満足そうで、悪そうな笑み。

 

「……行くか」

「家、近いよ?」

「送ってかないと、母さんに何言われるか分からん」

「じゃあー、お言葉に甘えて」


 自然と手を繋いで、子供のころから見知った道を歩いていく。

 徒歩で三分もしない、早霧の家への道。

 短いけど急な坂があって、脇にあるお寺を横目に通りを抜ける。ほどなくして目に入るのは赤い屋根の二階建て一軒家。

 短い道でもそれなりに楽しめて、だけど二人で歩く時間はあっという間だった。


「久しぶりの私ん家だー」

「いや、昨日の朝の一度帰ったろ」

「……あぁー」


 どうやら自分が家に帰ったことさえも忘れていたらしい。

 確かにこの三日間は濃密だった。

 喧嘩から始まったかと思えば同棲みたいな状況になり、一緒に買い物に行ったり風呂に入ったり仲直りしたりキスしたり……。

 いくら幼馴染とはいえ、こんなに早霧と一緒の時間を過ごしたのはある意味初めてだったかもしれない。

 でもそのおかげで、大切なことを思いださせてくれた。

 俺にとって、いや俺たちにとって重要な三日間で――。


「――んぅ」

「――んっ!?」


 突然、唇が唇によって塞がれた。


「……ビックリした?」

「……あぁ」


 唇が離れて、早霧は悪戯に成功した子供のような顔になる。

 人が真剣に考えごとをしていたのにコイツは……!


「……お返しだっ!」

「なんのっ!」


 反撃で腰を抱こうとしたが、読まれていたのかバックステップで避けられた。


「へへーん! 私の勝ちー!」


 そのまま逃げるように階段を駆け上がっていく。

 揺れる長い白髪が夕日に反射して、つい見惚れてしまった。


「蓮司!」


 階段を上りきったところで早霧が勢いよく振り向く。

 そのまま大きく息を吸って。


「大好きーっ!!」


 満面の笑みで、俺に叫ぶ。

 その心からの笑顔は、夕日よりも綺麗だった。


「えへへ、また明日ね!」


 最後にもう一度笑って、早霧は玄関を開けて家の中へと入っていった。


「…………」


 残された俺は早霧の姿が見えなくなったのを確認して。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 溢れてくる喜びを声に出しながら、走り出す。


「俺のっ! 親友がっ! 可愛すぎるーっっ!!」


 家に着くまで、わずか一分。

 早霧の家から俺の家までの、過去最高記録を更新したのだった。

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