第130話 「……脱ぐ?」
上機嫌な早霧との終わらない親友ループを繰り返して、何十回目だろうか。
それで早霧が喜び、満足してくれるなら俺だって何も言わない。
「な、なあ……そろそろ、離してくれないか……?」
「んふふー、だーめ!」
だけど要求は徐々にエスカレートしていった。
今現在、俺はというとベッドの上で早霧を後ろから抱きしめていた。
いわゆる、バックハグという奴だ。
もちろん俺は上半身裸であり、早霧は下着姿である。
何故こうなったかと言えば理由は単純で。
「せ、せめて服をだな……!」
「……脱ぐ?」
「着る方で考えないか普通!?」
「だってあの日の私、着物の下は何も着てなかったよ?」
「だからって脱ごうとしないでくれ頼むから!」
そうなのだ。
今やってるこれはただ後ろから抱きしめてイチャイチャしているだけではない。
俺が怪我と疲労からくる高熱で三日寝込んで忘れてしまった夏祭りの日の再現をしていたのだ。
だけどもちろん俺たちは共に成長していて、特に早霧はとても健康的に育ちまくっているせいで触れる場所全てが柔らかいし前に回した俺の手をガッシリと掴んで逃がさないようにしているしその手の位置が胸の上にあってそれはもう大変なことになっていた。
「……蓮司がいる」
「お、おう……」
「えへへ……あったかいね、蓮司」
「あぁ……あったかいな、早霧は」
これはどっちの熱なんだろう。
素肌で触れ合っているからこそ感じる、早霧という存在。
華奢なのに柔らかく、身体が弱かったのによく育った、親友なのに遠かった大好きな人が……俺の腕の中にいて。
「ん……蓮司。ちょっと、苦しい……」
「……嫌か?」
「ううん……もっと強くても、良いよ?」
「……分かった」
ゼロ距離なのに近づきたい。
矛盾しているようで真理かもしれない。
早霧のこと、知ってるつもりで何も分かっていなかったと後悔が押し寄せる。
「……ごめんな」
「……また謝る」
「……これで最後だから、ごめん」
「……じゃあ、良いよ」
どう考えても謝罪のシチュエーションとしてはおかしい絵面かもしれない。
だけど俺たちの関係はある意味この体勢から始まり、変わっていったんだ。
親友という言葉をきっかけに始まったキスの日々。
向き合っていた筈なのにお互いが見えてなくて、傷つけて喧嘩して仲直りをした。
「……なあ、親友」
「へぁぇっ!? な、なにっ!?」
「キス、しても良いか?」
「あ、うん……はい……」
早霧の手の力が抜けていく。
俺は自由になった手を早霧の両肩に置いて振り向かせた。
「蓮司……」
早霧が顔を真っ赤にして俺の名前を呼ぶ。
「親友って呼ばなくて良いのか?」
「も、もう! だって蓮司は、親友だもん……」
怒られてしまった。
さっきまで人のことを親友親友と呼びまくってたくせに。
「…………」
「…………」
後に言葉が続くと思ったら続かなかった。
そのせいで見つめ合うだけの時間が生まれる。
「……早霧」
でももう、待ってられない。
いや、待たせすぎてしまった。
あの日からずっと、隣で俺を待ってくれた親友の肩を抱いて。
「ずっと、一緒だからな――」
「――んぅ」
唇と唇が重なる、キスをする。
何度目か分からないキスでも、この時のキスを俺が忘れることは決して無かった。




