Scene1
「バカと天才は紙一重とは、昔の人はよく例えたものだね」
「僕はバカの手伝いをするほど暇じゃないよ」
そう言いながらも手近にあった文献を1冊手に取りパラパラとめくる。冊子ほどの厚みしかないその本から情報を得るには不十分だとすぐに判断し、自身のノートパソコンをたちあげた。
さすが天才は行動が早いね」
「茶化すのは良いから手を動かして。テーマ的に、文献から持ってくるのは難しい。となれば、テーマに触れる上で必要となってくるキーワードから話を広げて、あとは……」
院生でも唸るレベルの内容だ。裏を返せば、大幅な矛盾や論点のズレが無ければ、書けないことも無いレポートだということ。一から真面目に向き合うつもりでいたアキラも、期限を守ることを最優先に考え、リタイアした。
そして、キーボードには一切目もくれず、レオンが必要とする情報を瞬時に判断。あとは、迅速かつ正確に、めぼしいサイトや記事にひたすらアクセスしていく。情報収集の切り口やセンスに関して、アキラはレオンよりも非常に秀でていた。
「これだけあれば、あとは書けるんじゃない?」
図書館に到着して十数分。もう大丈夫だろう、とアキラは自分のパソコンを片付け始める。彼が調べたサイトは全て、隣にいるレオンへと転送された。
「うん。さすがアキラ」
開いたファイルを、レオンは順に読んでいく。一般人なら1時間はかかる量を、ものの数分でインプットし終えた。満足した様子で、リズム良くキーボードを叩いていく。
「……全部読んだの?」
「当たり前でしょ。アキラの努力を無駄にはしないさ」
迷いのないキーボード音を聞きながら、アキラはそばでその様子を見守った。引用文献、内容、どれも確かに自分がレオンへと転送したものである。そして、読む人を惹き付ける、そんな文章を彼は意図なく書くことにも長けていた。
「自分じゃやっぱり欲しいデータには行き着けなくて、ほんとアキラがいてくれて良かった」
嘘偽りのない明瞭な声に、アキラは少し照れくさくなる。
「そんなの、慣れとコツだよ」
「そうかなぁ。僕には到底無理そうだ」
一向にレオンは手を止めない。涼しい顔でキーボードをたたいていく。どちらかと言えば、こういう事の方が到底誰にも真似出来ないと思うんだけど、とアキラは心の中で呟いた。
アキラの努力とレオンの追い込みの甲斐あって、問題のレポートは期限内に無事提出完了した。