042 それぞれの後日談②(ダイヤード5歳)
タランは書いていて楽しくなってしまい、長くなってしまいました。
皆様も楽しんでいただけると幸いです。
あれから三日間休暇を与えられたタランは、仕事のため魔術局に入っていった。
「おっ。タラン大変だったそうじゃないか」
声を掛けてきたのは、上司のマオラス・タラットだった。
「はい。詳細は話せませんが、ホント面倒なことに巻き込まれましたよ」
タランは心底から疲れたような顔をした。
「ハハッ。でもそのおかげで王子殿下と交友を深めることが出来たのだろう?」
「そんないいもんじゃないですよ。確かに王子殿下は気さくな方でしたが…… でも、どうしてそう思うんですか? そんな情報出てないでしょ?」
「確かに王子殿下は些か特殊な方ではあるな。ああ。昼過ぎに王子殿下へ出頭命令が出てるぞ。タランラに話があるそうだ。…… プッ。何だタランラって!」
マオラスが吹き出したのを皮切りに周囲が笑いに包また。命令内容は魔術局の全員に知られていた。
「え? ええぇー」
タランは情報量が多すぎて、叫ぶことしかできなかった。その後、午前中は「タランラ」と呼ばれるたびに肩を落とすタランが見られた。
昼食後、命令に従って指定の場所に出頭したタランは、オリヴィアのいる離宮に連れられていた。侍女に案内される場所が理解できてくると、タランの心臓は激しい鼓動を打ち始めた。
「あ、あのー。今から連れて行かれるのはもしかして……」
「はい。オリヴィア妃陛下のいらっしゃる小広間となっております」
侍女に扮したマルガネットは平然と答える。
「ですよねー。ただ、俺。いや、私が呼ばれたのは王子殿下でして……」
「はい。聞いております。恩人であるタラン様を丁重に案内するように仰せつかっております。それにダイヤード殿下はオリヴィア陛下の離宮に住まわれていますから、案内をする場所は間違っておりません」
「いやいや、俺にそんな言葉を使わないでください。俺。いや私は平民ですから」
タランは慌てて否定した。
オリヴィアに仕えている侍女や侍従が貴族であることは分かりきったことだからだ。
「タラン様。少しよろしいでしょか」
マルガネットは足を止め、タランに振り返って言った。
「は、はい!」
タランは不敬を咎められるかと思い、背筋を伸ばした。
「私たち離宮に勤める者は、皆タラン様に感謝の念を感じております。それだけ私たちはダイヤード殿下のことを大切に思っているのです。そのことは理解できますか?」
「は、はい。それはもちろん」
「それでしたら、そこまで卑屈になられないでください。確かに貴族には傲慢な者も多いですが、オリヴィア陛下も含め貴族の在り方を忘れた者はこの離宮にはいません。もう少し、気楽に構えられてもよろしいかと思います」
そう言うと、マルガネットは微笑んだ。
「はい。ありがとうございます。少しは緊張が解けたように思います。ほんの少しだけですが…… ハハッ」
「それはよろしゅうございました。では、参りましょうか」
そう言うとマルガネットは歩き始め、目的の扉に着くとゆっくりとノックをした。
タランが部屋の中に入ると、白の丸いテーブルにオリヴィアとダイヤードが座っており、ダイヤードの後ろにはダンバルトが侍っていた。
「よく来てくれました。ダイヤードがタランラに会いたいと言うので、私も同席させていただきました」
オリヴィアはゆっくり立ち上がると、微笑みながら言った。
「…… い、いえ。私の方こそ、お待たせしてしまい申し訳ございません」
タランは右手を背に回し最敬礼をした。
初めて会ったオリヴィアの美しさに一瞬我を忘れてしまった。
「では、席にお掛けなさい。お茶にしましょう」
タランは恐る恐る腰を掛けると、マルガネットがお茶を用意するのを黙って見ていた。
「タランラ、突然呼び出してごめんね。少し話があったんだ」
「い、いえ。それはよいのですが、どうして妃陛下まで私のことをタランラと呼んでいるのでしょうか?」
「タランラだからでしょ?」
ダイヤードは本当に分かっていないような顔で驚いた。
「いやいやいや。私の名前はタランだって言いましたよね」
「そうだっけ?」
「はい。絶対に言いました」
「もう、タランラでいいじゃん。そうしよう。僕が名前を付けてあげたってことで! 王族から名前を送られるって名誉なことなんでしょ?」
ダイヤードは自慢気な顔をした。
「いえいえいえ。職場で上司から後輩まで笑いの渦でしたよ」
「そっかー。みんなから愛される名前ってことだね」
「うわぁー。何でこの話題だけ話が通じなくなるんですか! ……あっ」
タランはダイヤードの隣からクスクスと笑い声が聞こえ、正気に戻った。
「ダイヤードは良い人と巡り会えたのですね」
「はい。こんなに面白い人はなかなかいません。打てば響くと言いますか、王族の前でも【ボケ】たらきちんと【ツッコミ】を入れてくれるのはタランラだけです」
オリヴィアもタランも後半のダイヤードの言葉の意味は分からなかったが、楽しそうなことだけは理解した。
タランは、緊張をほぐしてくれたのかもと思ったが、ダイヤードの笑顔を見て即座にその思いを打ち消した。
それぞれが侍女の入れたお茶を一口飲んだ後、再びダイヤードが口を開いた。
「改めて森の中では助けてくれて、ありがとう」
そう言うと、ダイヤードは頭を下げた。
「私からもお礼を言わせてください。ダイヤードの命を救ってくださり、ありがとうございました」
オリヴィアも揃って頭を下げた。
すると、ダンバルトやマルガネットまでもがタランに頭を下げたのだった。
「え? え? い、いや、み、み、皆さま頭を上げてください。わ、分かりましたから」
タランの一言で、全員が頭を上げた。
「フフッ。すっごい汗かいてるよ」
「そ、そりゃそうですよ。お、私なんてその場に居合わせただけで、何も出来てないじゃないですか」
タランは汗を拭いながら言った。混乱からか少し言葉も崩れていく。
「そんなことないよ。それこそタランラが僕を抱えて逃げてくれなかったら、確実に殺されていたんだから」
ダイヤードの言葉で目を輝かせながら見てくるダンバルトの視線に居心地の悪さを感じる。
「いやいや。あの場に居たら皆、同じ行動しますって」
「そうかなー」
「そうですよ。なので、この話はもう終わりにしましょう」
タランはダンバルトの視線に耐えきれなくなった。
「そっか。それで話なんだけど、森でのタランラの言葉が気になったから、魔法局やランジェット孤児院のお金の流れを調べさせてもらったよ」
「え?」
タランはダイヤードの言葉に驚いた。それは、ダイヤードが魔法局や孤児院を調べさせたことでなく、タランの言葉を気に留めそれを基に動いたことだった。
「まー酷いね。出るわ出るわ。不正の数々」
ダイヤードの言葉にオリヴィアは咳払いをした。
「ンンッ。数多くの不正が出たんだよ。なので、財務局をはじめとする関連機関に軍による捜査が入ってるから、今後は安心していいよ。もう身の丈に合ってない冒険者の仕事をしなくていいからね」
ダイヤードは笑顔で言った。
「え? え? いつから気付いていたのでしょうか?」
「それは調べていくうちにかな。中抜きされた低い給与に額面より低い孤児院への補助金とくれば、考えるまでもないでしょう」
「そ、そうですか? ……でも、ありがとうございます。これで弟や妹たちも安心して暮らせます」
「うん。ちなみに国側の責任者は僕になったからね。母上の許可が取れたら遊…… 視察に行くから、その時は付いて来てね」
「え?」
タランは色々な情報過多になり、混乱していた。
「もう二度とこんなことが起きないように、周囲への戒めだよ。それにタランラに対する褒美でもあるかな」
「褒美…… ですか?」
タランは信じられない思いで聞き返す。
「そんな目で見ないでよ。もう。僕が視察に行くことになれば、院の子供たちにプレゼントを持っていくことになるでしょ。そのほうがタランにとっては嬉しいんじゃないの?」
ダイヤードは頬を膨らませた。
「あ。確かに。私が何か貰うよりいいですね。それに子供たちも王子殿下からのプレゼントは喜ぶと思います」
「そうでしょう。そうでしょう。それにしても、あの時、言ってくれたらよかったのに」
「いえ。五歳の王子殿下に、あの場で聞かせる内容ではありませんので……」
それ以上にダイヤードが動くことで、藪から出てきた蛇に孤児院を標的にされるのが怖かったからだ。
「フフッ。タランはしっかりと矜持をもって判断が出来ているのですね」
「いえ。そのような大それたものではないですし、あの場でポッと出た言葉ですので、考えて発言したことではありません」
オリヴィアに褒められたことで、慌てて否定をする。
「それにしてもダイヤード。大事なことを忘れているのではなくて?」
「ああ。そうでした」
タランは思わず身構える。これ以上大事なことなんて想像がつかないからだ。
「タランラ。僕の従者になって、思いっきり魔術具の研究をして欲しいんだ」
「え?」
タランの頭の機能が停止した。
レミ「タランラを従者にしますの?」
ダイ「うん。タランラが受けてくれたらね」
レミ「それにしても一国の王子を助けたにしては、褒美が少ないように感じますわ」
ダイ「タランラには言ってないけど、勲章と金一封、男爵位は与えられるよ」
レミ「…… 可愛そうなタランラ」
ダイ「何で?」
レミ「分かって言ってますよね」
ダイ「サプライズだよ」




