040 親子(ダイヤード5歳)
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その夜、就寝準備を整えたオリヴィアはダイヤードが寝ている寝室の扉を開けた。
「あら? ダード、眠れないのですか? 私と一緒に寝まし……」
オリヴィアはベッドに腰かけているダイヤードの笑顔に違和感を覚えた。
「…… 初めましてと言ったほうがいいかしら? コーキ」
「さすがオリヴィア妃陛下ですね。こうしてお話させてもらうのは初めてですね」
「こうして現れたということは、ダードには内緒の話ということでいいのですか?」
「はい。ですがまずは、謝罪を。…… この度はダイヤードの体を使って危険な目に合わせてしまって申し訳ありませんでした」
光輝は深々と頭を下げた。
オリヴィアは警戒を一段階下げた。
「謝罪の必要はありません。貴方はダードのピンチを救ってくれたと聞いています。逆に私の方からお礼を言わせてください。…… この度はダードを助けていただき、ありがとうございました」
オリヴィアも深々と頭を下げた。
「いや、頭を上げてくれ……ください。お礼を言われることじゃない。なぜなら、もっと安全な方法があったと思いますから。例えば、もっと息を潜めて隙を見計らって反撃できたのですが、魔法を使えることに調子に乗ってしまいました」
光輝は申し訳なさそうに言うが、決してオリヴィアから視線を逸らさなかった。
光輝もオリヴィアが警戒していることに感づいていた。
「ああ。確かコーキの世界には魔法や魔物はいないのでしたね」
「はい。で、でも、こうして俺が表に出るのはこれで最後にしますので、安心してください」
「え? どういうことですか?」
オリヴィアは光輝の一言が意外だった。
「いや、どうもこうも、ダイヤードの人生はダイヤードが歩んでいくものと思っていますから。俺は【地球】……別の世界でもう人生は終わっています。そんな人間が今生きている人間の人生に干渉するわけにはいかないでしょう」
「でも、コーキもダードの中で生きているとも言えます。第二の人生を歩みたいと思わないのですか?」
オリヴィアは光輝の目を見つめたまま言った。
「そりゃ…… 思いますよ」
光輝は苦笑すると続けて言った。
「でも、それはダイヤードの人生と引き換えていいわけではないですよ。それぐらいに俺はダイヤードのことが好きなんです。ダイヤードが産まれてずっと一緒なわけですから、勝手ですが弟とも思ってます。兄貴が弟を守ることはあっても邪魔しちゃ駄目でしょう。今回はダイヤードが危なかったんで出てきましたが、今後は早々危ない目に合わないだろうし、二度と俺が取って代わることは無いですよ」
オリヴィアは光輝が寂しそうに笑ったように見えた。
それがオリヴィアの心を反映したものなのかはオリヴィア自身も分からなかった。
「そう…… ですか。でも、そうなるとダードは寂しがるわね。兄としては弟を泣かせていいのですか?」
オリヴィアは優しく言った。
「え? どうして?」
「何を言っているのですか? コーキはダードの兄なのでしょ? そうなると私の息子ということじゃないですか」
そう言うと、オリヴィアは光輝を優しく抱きしめた。
「俺がオリヴィア妃陛下の息子…… ですか?」
光輝は『息子』という言葉を噛みしめた。
「息子が母を呼ぶときは何て言うのですか? それは可愛くないですよ。コーキ」
オリヴィアは光輝の頭を優しく撫でた。
「…… は、はい。は、母上」
光輝はダイヤードを弟と思うと同時にオリヴィアのことも母親だと思っていた。
光輝の目からは涙がこぼれた。
「もう、大丈夫です。母上」
「そうですか。いつでも甘えてくれていいですからね」
オリヴィアは優しく光輝を開放した。
「それで幾つかお願いしたいことがあるんですよ」
「何でしょうか?」
「一つはダードを助けてくれた、魔術具師のタランラのことです」
「タランラ? ああ、タランですね」
一瞬考え、小首を傾げたオリヴィアは答えた。
「はい。魔術局に働いているのに、冒険者登録をしてお金を稼いでいるようで、少し気になるんです。魔術局とランジェット孤児院の金の流れを調べてもらえませんか?」
「いいでしょう。ダードとコーキの恩人ですからね。最大限出来ることをしましょう」
「お願いします。それと髭面の冒険者のことですが、何とか助命することはできないですか?」
「それは…… 理由によりますね」
オリヴィアは難しい顔をする。
「一つはダードに無駄な命を背負わせたくないからです。アイツは間接的でも自分が関わった人物の死を忘れないと思う」
「……」
オリヴィアは無言で続きを促す。
「最後に【テンプレ】です。もしかすると、ダードにとって有用な男になるかもしれない。…… かなりの希望的な観測ですけど」
「【テンプレ】? そうですね。約束はできませんが出来ることはしましょう。それにしてもコーキは優しいですね」
そう言うと、優しく微笑んだ。
「あ、ありがとうございます」
光輝は恥ずかしくて俯いてしまう。
「では、今後どうするかはダードと話して決めなさい。ただ、私と二人きりの時は甘えに出てきていいのですよ」
「は、はい。あっ、いいえ。そんな甘えたいわけ……ワッ」
光輝はいきなりベッドに倒された。
「今日はゆっくり休みましょう」
オリヴィアに抱かれた光輝はゆっくりと目を閉じた。
レミ「ハートフルですわねー」
ダイ「いい話だね」
レミ「でも光輝もオリヴィア様を母親と思っていたのですね」
ダイ「そうだね。五歳まで僕と感情を共有していたはずだからね」
レミ「『はず』と言うのは、どういうことでしょうか?」
ダイ「僕のほうは光輝のことをしっかりと認識したのは五歳の時だからね」
レミ「夢の中の出来事ですわね」
ダイ「そう。多分、光輝のほうはそれより前から俺を認識していたんじゃないかな」
レミ「なるほど。夢の中だと前から知っていたような口振りでしたね」




