037 最後の抵抗(ダイヤード5歳)
楽しんでいただけると幸いです。
縦列で森からの脱出を図る中、どうしてもダイヤードのペースに合わせることとなり、歩みは進まず休憩も多めにとることになる。
「あれから順調に進んでいるね。後どれくらいで馬車に戻れそう?」
焚火の準備をした後、休息のための準備をしながらダイヤードは拘束している髭面の冒険者に尋ねた。
「は、はい。あと半日ほどで着くと思う。いや、思います」
髭面の冒険者は進むスピードを考えたうえで答えた。
「間違いないと思います。この辺は俺も見覚えがありますから」
そう言うと、タランはナイフで切った干し肉をダイヤードに渡した。
「見覚え? ここを?」
ダイヤードは周囲を見渡すが、前回の休憩場所との違いは分からなかった。
「この辺りは、冒険者もよく来ますからね。人による獣道もあれば、木の幹に印がつけられているし、大きい石が目印になるんですよ」
タランが指さした木をよく見ると、確かに樹皮が不自然に剥げていた。
「知ってないと気付かないや。森に入る人はみんな知ってるの?」
「それはもちろん。知ってないと死にますから。軍人や冒険者になったら最初に教わる知識ですよ。ただ、王子殿下が言った水は沸騰したのを飲んだほうがいいなんて誰も知りませんよ。古い水を避けたほうがいいのは知ってますがね」
タランは小鍋に入れた水を沸騰させているダイヤードを見ながら言った。
「これでも完全とは言えないけどね。やらないよりかはマシってくらいだよ。でも僕はお腹を壊したくないからね。その可能性はなるべく下げたいよね。水魔法師や氷魔法師がいるか協力的だったらいいんだけどね」
ダイヤードはそう言うと、身じろぎしない魔法師を横目に見た。
「まぁ、ほっときましょう。王子殿下が魔法の兆候が分かるのなら、何もできないでしょう」
「そうだね。注意して見とくよ」
ダイヤードは沸騰した水を四つのカップに注いだ。
タランはダイヤードの王子らしくない奇行に慣れたのか、普通に受け取った。
魔法師の目の前にカップを置き、一時的に拘束を解こうと近づいたとき、魔法師の足がダイヤードに絡んできた。
カップを落としたダイヤードが電流を流そうと手を魔法師に近づけると、魔法師の体内の魔力が激しく動いているのに気が付いた。
「! 魔力暴走! 放出? モゴッ」
ダイヤードは顔を足で魔法師の体に押し付けられ、話すのも難しくなった。
「そうだ。俺に雷を流してみろ。強さによってはお前も死ぬかもな」
魔力暴走とは体内にある全魔力を体外に放出する技術である。魔力の付属によってどの自然現象に干渉するかが決まるが、魔法として行使をしなければ魔力はエネルギーの塊だ。そのためダイヤードの魔法に引き寄せられ、魔力が雷を帯びる可能性がある。魔法師の魔力は霧散するが直ぐに消えるわけではなく、不味いことにダイヤードの体には魔法師の魔力がまとわりついている。
「おい。動いて王子を助けようと思うなよ。俺の魔法発動は一秒を切ってるぜ。どっちが早いかは明白だ」
その一言でタランは動けなくなる。
魔法師は今までのダイヤードとタランの言動を観察していたのだ。
「そうだ。王子を死なせたくはないだろう? 冒険者の拘束を解け」
このまま魔法師の言うとおりにしても王子は死ぬことになるだろうが、どちらにしても王子は死ぬ。そう考えると、タランは動けない。
「早くしろ! 俺たちはこのまま逃げるだけだ」
その言葉が嘘なのは、この場にいる全員が分かっている。
それでもこのままだとダイヤードが確実に死ぬため、タランは動けず何とか隙を伺っていた。
「タランラ! 魔力放出と魔法は同時に撃てねぇ。でないと俺を開放しようとするわけがない。構わずアイツを殺せ!」
髭面の冒険者は大声でタランに向けて叫んだ。
少し逡巡した後、タランは魔法師に向かって走り出した。
「ま、待て。ほ、本当に……」
「誰がタランラだよ!」
そう言うとタランは魔法師の顔を蹴り飛ばした。
「ゴフッ」
タランはダイヤードを引っ張り上げ、何度も魔法師の顔を踏みつけた。
「タランラ。タランラ! もう大丈夫だから。こいつもう気絶してるから!」
ダイヤードの言葉でようやく、ダイヤードがズボンを引っ張っていることに気付いた。
そして、余裕を取り戻したタランはその場にへたり込んだ。
「ハー。ハー。ハー」
荒く息をするタランは、まだ魔法師から目を離せないでいた。
「助けてくれて、ありがとう。タランラ」
ダイヤードはタランの肩に手を置いて言った。
「ハー。い、いえ。もう、夢中で。それに冒険者の言葉がなければ、動けませんでした」
「うん。でも、ありがとう」
「いえ。俺には勿体ないお言葉です」
ここでようやくタランはダイヤードを見て、照れ笑いをした。
「それで、君の真意を聞かせてよ」
そう言うと、ダイヤードは冒険者を見た。
「あいつの言うことを聞いたって、俺も直ぐに殺されていただろ…… でしょう。任務は失敗したわけだから。それなら、俺の有用性を王子殿下に示したほうがいいと思った…… だけです」
「そうかー。でも、口添えだけはするけど、後は司法に任せるよ」
「は、はい。口添えしてもらえるだけで十分です」
そう言うと、髭面の冒険者は頭を下げた。
一息ついた後、森から声が掛けられた。
「王子殿下。ご無事でしたか」
緑色の軍服を着た軍人五名が姿を現した。
警戒はしていたはずだったが、突然に声を掛けられたことで、ダイヤードはビクッとした。
軍人は臨戦態勢のまま周囲の人間を警戒しながら、ダイヤードに近づいてくる。
「あ、ああ。…… ぼ、僕は無事です。タランラが僕を助けてくれましたから。後、詳しいことは帰りの馬車の中で部隊長に話をします。…… 今言うべきはこんな所かな?」
「承知いたしました。では、殿下早急に森の外にお連れしますのでこちらにお乗りください」
軍人はそう言うと、背負子をダイヤードの前に置いた。
ダイヤードは背負子に乗る自分の姿と歩いて迷惑を掛けることとを天秤にかけたが、素直に受け入れ背負子に腰かけた。
レミ「ようやく誘拐編も終わりそうですね」
ダイ「何? そのシリーズ物の言い方は」
レミ「いえ。長期化しそうですし、そう言った表現も必要と思いましたの」
ダイ「まだ5歳だもんね」
レミ「ええ。私は一体いつ出てくるのでしょうか?」
ダイ「それは何とも……」
レミ「もう諦めましたわ」




