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035 夫婦の会話(ダイヤード5歳)

楽しんでいただけると幸いです。

 王城の一室にある、革で張られた一人掛け用のソファに男は座っていた。細部にまで緻密な細工がしてあり、部屋の中は光石により明るく照らされていることから、存分にお金が掛けられていることが分かる。


「ハァー」


 これからのことを考えるとついつい溜息をついてしまう。ひじ掛けに置いた右手は眉間を揉み、考え事をしていた。

 ノックの音に入室の許可を与えると、外に待機している護衛がゆっくりと扉を開けた。

 許可を出す前に無言で座るオリヴィアの優雅な姿に怒りを隠そうと努力をしているのを感じる。逆にここまで隠しきれていないことに驚きを覚える。このような彼女を今まで目にしたことがなかったからだ。


「では、陛下。進展をお聞かせ願えますか?」


 オリヴィアは無表情のまま問うた。


「…… ああ。そうだったな。先ずは魔法局の大臣以下将官まで王都にいる者は休暇中の者を含め全員拘束してある。その後、実行犯と直属の上司に関しては尋問を開始した。全てを吐くまでに時間はかからないだろうとのことだ」


 アースウィッドは言葉を選びながら端的に答えた。


「そうですか。素早い対応ありがとうございます」


 感謝のそぶりを見せないオリヴィアの感謝であったが、実際には心から感謝をしていた。特に先行した護衛騎士の報告で軍を動かしたのは、オリヴィアにとってはありがたかった。ただ、それを表に出す余裕がないのだ。気を張り詰めていないと、不安で身動きが出来ないことが自分で分かっていた。


「その…… ヴィアよ。この度はすまないことをした」


「何故陛下が謝罪する必要があるのですか?」


 オリヴィアはアースウィッドの言葉を追及した。


「私の不手際が原因であることは分かりきったことだろう」


「不手際と申しますと?」


 オリヴィアはアースウィッドが言葉を濁すことで逃げるのを許さなかった。


「…… 私がニア派閥を放置したことがこのような結果を招いたのだ。その謝罪だ」


 この部屋に入って初めてオリヴィアの表情が変化した。


「放置ですか。私の認識とは大きな隔たりがあるようですわね。私は陛下も一緒になってダイヤードを排除しているものと思っておりました」


「何を言うか! ダイヤードは私にとっても大事な(むす)……」


 オリヴィアの表情がアースウィッドの言葉の先を言わせなかった。


「…… そうだな。私はユークリッドが産まれてからダイヤードと接触を持とうとはしなかったな。確かにそう思われても仕方がないな」


「それが事実では?」


「そんなことがあるはずがなかろう。むしろ遠ざけることでダイヤードを守ろうとしたのだ。ニアは嫉妬深いからな。私が可愛がっていると知られるとダイヤードに危害を加えるだろう」


 タターニアの嫉妬深さと侍女や侍従に八つ当たりしていることはアースウィッドの耳にも届いていた。


「では、見誤りましたわね。あの方の嫉妬深さは酷くなる一方ですわ。そのような報告を受けているはずですわよね?」


「確かに。そのような報告は受けたが、ここまでやると思いもしなかった」


 アースウィッドは項垂れて言った。


「あの方の指示ではないでしょう。普段の執務や生活を見る限り、そこまで道を誤った方だとお見受けできませんわ。むしろ周りの方々の思惑ではないでしょうか?」


「ドレスランか? しかし、あの国がここまで強硬に出るとは思えん。そうでなくてもユークリッドは第一継承権を持っているのだぞ」


 勢いよく顔を上げたアースウィッドが言った。

 オリヴィアは無表情で無言のままアースウィッドを見つめる。


「まさか…… 国内か?」


 アースウィッドは疑問を投げたが、それはオリヴィアにではなく自分自身にであった。


「さぁ? 憶測にしかすぎませんから、明言は避けさせていただきますわ」


「なんにせよ。早急な対策が必要というわけか。だが、ドレスランの可能性も否定できんか」


「そうですね。第一継承権といっても病死も事故死も毒殺もあり得ますからね。タターニア様の第二子を考えて何らかの策を講じてもおかしくはないでしょう。ただ今のところは別に失敗しても構わない策だったのでしょう。どうせ証拠も残してないでしょうし。…… もちろん、ドレスランの仕業ならの話ですが」


「ふむ。そうなると、調査する人数が膨大なことになるな」


 アースウィッドは思案顔になる。


「それが何だというのですか? 国外にせよ国内にせよ国の大事でしょうに」


「それはそうだが…… 大事にするなら秘密裏に動くのは難しくなるな」


「そうですわね」


「そうなると、ニアにバレる恐れがだな……」


「…… ハァー。それぐらいは自分で何とかなさいませ。ちなみに、タターニア様の現状は心の病というそうですわよ」


 オリヴィアはあからさまに溜息をつき、光輝の知識を披露する。


「心の病?」


「ええ。心も体と同じように病気になることがあるそうです。対処法としましては、しっかりと話を聞いて、まずはあるがままを受け入れてあげるのが肝要とのことですよ」


「ニアのあるがまま…… か」


「くれぐれも感化されることのないようお願いいたしますわね」


「私はそこまで信用がないか」


 アースウィッドは、ここまでオリヴィアから名前で呼ばれていないことを気付いていた。


レミ「カッコいいですわー」

ダイ「え? 誰が?」

レミ「もちろん。オリヴィア様のことですわ」

ダイ「ち、ちなみにどこら辺が?」

レミ「非常時における冷静な判断、素早く対応できる決断、混乱時でも失われない貴族の矜持…… (●´ω`●)」

ダイ「そ、そう。母上はモテモテだな」

レミ「それはそうと、王陛下に思うところはないんですの?」

ダイ「まったくないね」

レミ「あっさりしてますわね」

ダイ「どこかでも言ったけど、今まで無視していた人に思うことは無いよ」

レミ「それも陛下の優しさだったのでは?」

ダイ「無視されたほうにまで理解を求めるのは傲慢だよ。俺は言い訳にならないと思うな」

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